選挙で得票数が同じだった場合、どのように当選者を決めるのか。公職選挙法では「くじ引き」で決めると定められているが、茨城県神栖市で、実際にこうした出来事が起きた。11月9日の神栖市長選で、現職の石田進氏と、元市議会議長の木内敏之氏が、どちらも1万6724票で全く同数だったのだ。
市選挙管理委員会が、規定通りくじ引きを行った結果、木内氏の当選が決定した。くじで敗れた現職の石田氏は「無効票の中に有効票があったのではないか」「すべての票を再点検してほしい」と異議を申し立て、数え直しによる再点検が行われた。
再点検は11月26日、神栖市民体育館で行われ、約300人の市民がその行方を見守っていた。市民からは「法律で決まっているので仕方ない。この選挙が始まる前は(くじ引きの)認識はなかった」「そういう決まりだから仕方ない。総務省の方でも決めている」といった意見があった。くじで落選した石田氏をめぐっては、ネット上で「数え直しで余分な税金がかかりますが?」「くじ引きはある意味公平な制度。正直往生際が悪いと思う」といった声も見られた。
石田氏が異議申立ての真意を語る。「『くじだ』という情報が入ってきた。選管委員長がくじを引くと、そのときに聞いて『えぇ?』と思っていたら、もう引き終わって『相手の方が当選しました』と、バタバタバタバタと決まってしまった」。
公選法の規定には、選挙長がくじを引いて決めるとあるのみで、総務省によると「くじ引きの方法は各自治体の判断」だという。
石田氏は、くじ引きの場に立ち会えず、結果だけを知らされたことに不信感を抱いた。神栖市のルールでは、まず「1」「2」の数字が書かれた棒2本が白い筒に入れられ、選挙長が「予備くじ」を引き、「本くじの順番」を決める。今回は木内氏の本くじを先に引くことになった。選挙長が引くと「1」が出た。数字が小さい方が当選という決まりで、木内氏が当選となった。
石田氏は「なるべく多くの人に、早めに決着をつけて周知させたい。やっぱり(選管は)真面目。例えば両方の陣営に、まず伺いを立てる。その中で『どうしようか』などの思いやりも多少あって良かったと思う。同じ『くじ』にしても……」と嘆く。選管は「今回の選挙結果及び手法について、問題があるということはない」との見解を示している。
開始から5時間。再点検の数え直しでもどちらも1万6724票となり、くじでの決定通り、木内氏の当選は変わらない結果となった。初当選となる木内氏は「同じ結果が出て、ほっとしている。日本一ラッキーな市長として、そして、日本一人気のない市長として頑張っていきたい」とコメントした。一方の石田氏は、「私自身は納得できない。後援会と相談しながら、県選管でどういう判断があるかを含めて情報収集して、明日には決めたい」と語った。
今回の“くじ引き”について、『くじ引き民主主義』という著書もある同志社大学政策学部の吉田徹教授は、「人口構成に沿うようにランダムにくじ引きで抽出した方が、より民意をバランス良く政策に反映できる」と考えている。くじでの決定は「市長としての正当性に疑問符が付けられている状態」だと理解した上で「対立候補を支持していた民意も考慮し、相手の政策を取り入れながらやっていくことが求められる」とした。
そもそも民主主義は、市民の参加を前提としている制度だ。その上で吉田教授は、選挙自体を立候補ではなく「くじ引き」で選ぶことで、政治にまつわるさまざまな弊害を解消できる可能性があるとする。「選挙に当選するために耳障りの良い政策を並べる必要がなくなり、受けが悪くても誰かがやらなくてはいけない長期的な課題にもじっくり取り組める」。
実は10月19日投開票の長崎県平戸市議選も、くじ引きで決着をつけた。定数18に22人が立候補。定数最後18番目の2人の候補が623票の同数になった。規定通りくじ引きが行われ、現職の池田稔巳氏が当選し、新人の森みちさと氏が落選となった。
森氏は「自分的にはやっぱり手応えは感じていた。まさかという気持ちだった」「くじ引きになった時点で、無力だったなという気持ち」と振り返る。
平戸市でのくじ引きは、候補者立ち会いのもと、1〜10の番号が書かれた棒を引き、「本くじ」を引く順番を決める「予備くじ」を行う。本くじでは、数字が小さい方が当選となる。 平戸市では候補者本人がくじを引いたという。
「池田氏が3番を引いた。僕が4番を引いて池田氏が当選となった」と語る森氏は、今後も活動を続け、4年後に再チャレンジしたいそうだ。「知らない人に声を掛けられて『森さんですか?』『惜しかったですね』とか。あと1票でも取れていれば、くじ引きになっていないので、そこは何を今さら言おうが、という感じだ」。
選挙の経験がある元衆院議員の宮崎謙介氏は、「当選した側は良いが、負けた方は納得いかない。しかも今回の神栖市のくじ引きは、本人がいない中で無機質に行われたため、納得感がない。本人が立ち会って、納得感があるようにそれぞれが引くなどの配慮が大事だ。選挙には“ウェット感”が大事になるため、その辺のシステムも見直す必要があるのかなと思う」との見方を示した。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
