誰かが法廷で泣いている 心愛さん最後の3日間[2020/02/28 08:51]

 去年1月、千葉県野田市で小学4年だった栗原心愛さんが亡くなった事件。傷害致死などの罪に問われた父親・勇一郎被告(42)の裁判は27日で4日目となった。前日に続いて心愛さんの母親(33)が証言した。食事を与えられずに衰弱し、真冬の風呂場で何度も水を掛けられた心愛さん。母親はその最後の様子を詳細に語った。法廷にいた記者には誰かがすすり泣く音が聞こえた。母親は勇一郎被告が虐待した理由も明かした。

 ―最後の3日間 エスカレートする暴力
 心愛さんが死亡したのは去年1月24日深夜だった。勇一郎被告はインフルエンザにかかり、22日から会社を休んでいた。家族とともに自宅にいることになった勇一郎被告は心愛さんの「存在自体が嫌」と言い出し、心愛さんを寝室に閉じ込めた。23日には風呂場や玄関で裸足のまま「駆け足」を続けるよう命令した。真冬の玄関は「とても冷たかった」という。母親は23日朝、心愛さんに朝食を用意したが、勇一郎被告に「食べさせなくてもいい」と言われ、与えなかった。心愛さんは22日の夕食以降、何も食べることはできなかった。

 24日午前10時ごろ、勇一郎被告に呼ばれて風呂場に行くと、心愛さんが肌着と下着姿で立っていた。髪や体は濡れていたという。母親は前日の夜にも心愛さんが風呂場に立っているのを目撃していた。

 検察官:「どうして心愛ちゃんが濡れていると思いましたか?」
 母親:「勇一郎が心愛に水を掛けたのだと思いました」
 検察官:「どうして被告が心愛ちゃんに水を掛けたと思いましたか?」
 母親:「脱衣所の洗面台の上にボウルが置かれていたからです」

 その後も勇一郎被告の暴力は続いた。心愛さんは24日午後になっても肌着と下着だけで風呂場に立たされていた。

 検察官:「被告人は心愛さんと何かやり取りはしていました?」
 母親:「『5秒以内に服を脱げ』と言いました」
 検察官:「具体的には?」
 母親:「『5秒以内に服を脱げ、5、4、3、2、1』」と言った」
 検察官「心愛さんはできたんですか?」
 母親:「できませんでした」
 検察官:「どうしてですか?」
 母親:「心愛はあまり元気がなくなって服も濡れていたので、脱ぎにくそうでした」
 検察官:「その後、被告人は何をしましたか?」
 母親:「洗面台でボウルにためた水を心愛さんの体に掛けました」
 検察官:「水の温度はどうですか?」
 母親:「冷めたいように感じました」
 検察官:「どうして冷たいと言えるのですか?」
 母親:「心愛の体がびくっとしていたからです」

 その後、勇一郎被告は心愛さんに冷水のシャワーを掛けた。リビングに連れてくるとうつぶせの心愛さんに馬乗りになり、体を反らせるプロセス技をかけていたという。初公判で勇一郎被告はこの行為を否定している。

 ―「心愛が動かない」
 24日、勇一郎被告は夕飯を食べた後、「少し休む」と寝室へと行った。午後9時ごろ、廊下に立たされていた心愛さんはリビングにいた母親のもとへやってきた。母親はストーブの前で寒そうにしていた心愛さんにシャワーを浴びるよう伝えた。シャワーを浴び、心愛さんが寝ようとしていたところに勇一郎被告が起きてきた。勇一郎被告は「寝るのは禁止だから」と言って心愛さんを廊下へ連れていった。午後10時ごろだった。母親が生きている心愛さんを見たのはこれが最後となった。

 風呂場から「ドン」という音が2回ほどした。勇一郎被告が「心愛が動かない。息をしていない」と寝室にいた母親を呼びにきた。風呂場に行くと心愛さんが床に倒れていた。

 検察官:「勇一郎被告はどのような様子でしたか?」
 母親:「少し落ち着かない様子でした」
 検察官:「もう少し詳しく心愛ちゃんの様子を教えて下さい。例えば顔の状況は?」
 母親:「白目をむいて口が半開きでした」
 検察官:「どうなったと思いましたか?」
 母親:「信じたくありませんでしたが、亡くなったのだと思いました」(涙声)

 心愛さんの最後の姿が伝えられると、法廷にはすすり泣くような声が聞こえた。真冬の風呂場で体力も気力も奪われた心愛さんには、最後に何が見えていたのだろうか。誰にどんな言葉を伝えたかったのだろうか。それともすべてに絶望していたのか…。

 ―正義感がとても強い子
 証人として参加した2日間の公判で母親は検察官や勇一郎被告の弁護士、また、裁判員から「なぜ虐待を止めなかったのか」「なぜ通報しなかったのか」と厳しく問われる場面があった。時に言葉に詰まり、答えることができない場面もあったが、それでも母親は懸命に言葉にしようとしていた。そして、勇一郎被告が虐待を続けた理由についても明らかにした。

 検察官:「自分の責任が問われたり世間からの批判もあると思いますが、ありのままに話そうというのはなぜですか?」
 母親:「…心愛のためにすべてを話したいと思いました」
 検察官:「勇一郎被告が心愛さんを虐待した理由は考えられますか?」
 母親:「心愛は正義感がとても強い子なので、性格そのものが勇一郎にとって気に入らないものだったと思います」

 これまでの裁判では、勇一郎被告が心愛さんへの暴力を始めた具体的な理由は分かっていない。勇一郎被告が母親や心愛さんに向けた“暴力”は「正義感の強い心愛さん」にとって許すことができないものだったのではないか。ゆえに、助けを求めた周囲の大人たちに絶望しながらも、たった一人で立ち向かい続けていたのかもしれない。

 検察官:「勇一郎被告の処罰について、あなたはどう考えていますか?」
 母親:「できる限り重い刑にしてほしいです」

 自分が“支配”していた女性の証言を勇一郎被告はどんな思いで聞いていたのか。公判中、何度も勇一郎被告の顔を確認したが、うつろな目を前に向けたまま、表情を変えることはなかった。
 なぜ心愛さんを虐待したのか。
 今後の裁判では、勇一郎被告本人に対する質問が予定されている。

(DV・児童虐待問題取材班)

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