「考えが及ばないほどの飢餓とストレス」解剖医語る[2020/03/04 06:33]

千葉県野田市で小学4年生だった栗原心愛さんが亡くなった事件で、公判6日目となった2日は心愛さんの遺体を司法解剖した千葉大学の医師が証言した。心愛さんはどんな状況で亡くなったのか、また父親が主張する「心愛さんが暴れた」事実はあったのか。解剖医が語った心愛さんの“最期の姿”とは。

 ―全身に“あざ”
 心愛さんの遺体の状況について、検察側はまず司法解剖の結果を読み上げた。心愛さんは身長145センチ。胸の骨が折れていて、頭や顔、手足など全身に皮下出血が確認された。また、毛髪が抜けている部分もあったという。検察官が資料を読み上げた後、解剖を行った千葉大学の准教授・猪口剛医師が出廷し、検察官や弁護人の質問に答えた。猪口医師は、児童虐待を受けて死亡した子どもの解剖の経験もある法医学者だ。猪口医師は胸の骨の骨折について、亡くなる数週間前に折れた可能性があると指摘した。検察側は父親が心愛さんが亡くなる3週間ほど前、心愛さんの胸の骨を折るけがをさせたと主張している。

 検察官:「どのように骨折していますか?」
 医師:「陥没しているように骨折しています。胸を中心部として観察していますが、胸骨は後ろに向かって陥没するように骨折しています」
 検察官:「いつ生じたものですか?」
 医師:「周辺をよく見てみると白い靄のようなものが見えます。骨折をした際に修復をするための石灰化、仮骨です。早くても1週間から2週間くらいです。それ以上もありますが、骨折をしたのは数週間前だと思います」
 検察官:「加わった力の強さは?」
 医師:「正確に数値としては申し上げられないが、かなり強い力が加えられないと生じないと考えられます」

 心愛さんは胸の骨が折れたまま、病院にも行けず、自宅で数週間を過ごしていたことになる。猪口医師は胸の骨が折れた状態では「胸の真ん中辺りに痛み」を感じ、「息苦しさも感じることもあったのでは」と指摘した。

 ―動画で見えた、心愛さんの顔
 検察側は、これまでの裁判でも示している心愛さんの動画についても、猪口医師に意見を求めた。父親が撮影した動画に映る心愛さんは、左右の目や頬の辺りに皮下出血があった。顔の左側が腫れている映像もあった。猪口医師は、これらのけがを「鈍体の圧迫、打撃しか考えられない」とした。
 心愛さんのけがについて、弁護側は「心愛さんが暴れたためにできた」などと主張している。

 検察官:「これらの打撲は自己転倒で起こりますか?」
 医師:「一般的に、自己転倒で生じるのは体の出っ張った部分です。例えば、ひじ、ひざ、肩、おでこ、鼻、頬の出っ張り付近にできやすいと。目の周りや頬では自己転倒では生じにくい」

 ―「考えが及ばないほどの飢餓やストレス」
 心愛さんは遺体の状況から病死の可能性は低く、急死したとされている。死因は断定されていないが、2つの可能性が指摘された。
 1つ目は「飢餓やストレスによるショックまたは不整脈」だ。体内で糖が欠乏するとケトン体という物質が増える。猪口医師は心愛さんのケトン体の数値が異常に高かったと指摘した。心愛さんの数値は8351に達していたという。数値が高い原因が飢餓とストレスなのかを尋ねられると、こう証言した。

 医師:「小児科の領域では同じようなことはある。飢餓とかストレスとか。小児科の医師に相談したところ5000まではあるが、8000は見たことがないと」
 検察官:「飢餓とストレスだけで(値が)上昇し得るものか?」
 医師:「原因として飢餓とストレスしか考えられないような状態。日常では生じえない、考えが及ばないほどの飢餓やストレスがあったのではないか。非常に高いストレスではないかと考えられる」

 心愛さんの胃の中に食べ物は残っていなかった。母親の証言では、心愛さんは亡くなる2日前の夕食を最後に食事をしていない。

 2つ目は「溺水」だ。心愛さんの肺には水が入っていた。肺のレントゲンなどから、溺死した人と同じ所見があったという。猪口医師は「相当の水量のシャワーで意識障害が起きていた」とも指摘した。

 検察官:「心愛ちゃんがいつ亡くなったのかについて。これまでの証拠によると、午後11時16分に救急隊が到着しています。死後硬直や死斑がありました。どれくらい前に死亡したと考えられますか?」
 医師:「硬直の程度や死斑を見ないと厳密には分からないが、(死後硬直などが始まるのは)一般的には1時間半から3時間程度かかるといわれています」

 父親は心愛さんが亡くなった後、いつ通報したのか。これまでの裁判で、心愛さんの母親は風呂場から「ドン」という音がした後、父親に呼ばれて風呂場に行くと心愛さんが倒れていたと証言している。

 心愛さんはどんな状況で亡くなったのか。また、父親は通報までの時間、何をしていたのか。娘の変わり果てた姿をどんな気持ちで見たのか。心愛さんの最期を知るのは父親しかいない。4日からは被告人質問が始まる。

(社会部DV・児童虐待問題取材班 笠井理沙 鈴木大二朗)

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