氾濫・洪水予測で“9割的中” 災害アラート最前線[2020/07/27 17:39]

 今月上旬、九州地方を襲った豪雨。河川の氾濫や土砂崩れなどの大きな被害が出ました。実は今、大雨による被害を予測するチームがあります。「142分の129」という数字は去年、関東地方などを襲った台風19号による氾濫・決壊の的中率です。
 千曲川決壊の際に避難指示が遅れ、長野市では1700人が孤立しました。その一方で、決壊の39時間も前に洪水を予測していた人物がいたことが分かりました。東京大学の芳村圭教授。彼が開発したのは、居ながらにして世界の河川状況をモニターできる「Today’s Earth」。最大39時間先の地球を見ることができるシステムです。
 東京大学・芳村圭教授:「(Q.何をもってして、洪水の予測ができるのでしょうか?)詳細な地形の起伏であるとか、どこに川があるのか、川の幅はどれくらいなのか、堤防の高さはどれくらいなのか、森林はどこにあるのか、それを元にしたリスク指標にして情報を提示しています」
 簡単に言うと、「河川が流せる水の量」と「河川流域に降った雨量」を比べ、洪水の可能性を予測するというものです。このシステムが全国の河川の危険を知らせたのは去年10月の台風19号の接近時でした。気象庁は台風接近による大雨土砂災害の危険性は指摘しましたが、その警告は漠然とした危険を知らせるにとどまっていました。
 一方、同じころ、芳村教授のシステムは関東を中心とした河川で氾濫や決壊が起きる可能性があるというアラートを発していたのです。
 東京大学・芳村圭教授:「台風19号を対象とした、10月11日金曜日の朝9時時点での39時間後までの予測をアニメーションにしたものです」
 去年10月11日午前9時時点の予測画面です。時間が進むにつれ、関東地方を中心に赤い血管のようなものが浮かび上がってきます。これは河川の氾濫・決壊の可能性を示しています。そして、遠く離れた千曲川にも氾濫が起きると予測していました。芳村教授はシステムが洪水を予測した地点をより詳細な地図に落とし込むとともに、その危険性を色分けしていました。
 東京大学・芳村圭教授:「(Q.このピンは、どういうことを表しているのでしょうか?)これは、それぞれ危険度を示していて、赤色が『200年に1度』という非常に強い洪水が起こり得るということを示しています」
 去年10月12日午後4時、気象庁はレベル5、最大級の警戒を呼び掛けたものの、河川の氾濫・決壊に関しての明言はありませんでした。午後7時の台風上陸直後からシステムの予測通り、数多くの河川が氾濫危険水位を超えました。埼玉の都幾川が越水し、午後10時すぎには東京の多摩川で氾濫が起こりました。千曲川も予測通り氾濫したのですが、なぜ台風の通り道から離れた長野での氾濫を39時間も前から予測することができたのでしょうか。そこには「雨量」と「地形」を計算し尽くしたシステムの正確さがありました。
 東京大学・芳村圭教授:「(Q.千曲川周辺の地図ですが、なぜここで決壊が起きたのでしょうか?)決壊が起こった所が長野市の穂保地区という所になります。千曲川という川がこちらにあります。もう1つ犀川もこちら側にあります。その2つの川が合流した直後の穂保地区という所では、さらに川が狭くなる“狭窄部”というものがあると知られています。この狭窄部によって水の流れが滞ってしまう。そうすると、その上流部で水があふれだすというのが起こったのではないかと…」「(Q.どれくらいの雨が降ったのでしょう?)雨の量を示すのを分かりやすいようにこういうものがあるんですけど…」「(Q.この青い部分は何を示しているのでしょうか?)千曲川と犀川の集水域、流域というものを表しています。ですので、この上に降った雨というものがすべて千曲川に流れていくということになります。ここが佐久地区といいまして、24時間で500ミリの雨が降ったと言われています」「(Q.500ミリということは、24時間で50センチの層の雨が降ったということですよね?)そうですね。ピンポイントにも見えますけど、かなり広範囲においてそれくらいの規模の雨が観測されました」
 日本で3番目の流域面積を持つ千曲川でも、これだけの範囲に大量の雨が集まった時点で、決壊は決定的でした。
 東京大学・芳村圭教授:「台風19号によって氾濫、決壊が起こったのは142地点報告されていて、実は私たちのシステムで決壊の所にピンが立っていたのは129地点。大体、9割くらい危険を示していた」
 国土交通省の調査によりますと、長野市では4割を超える世帯が千曲川の「越水後」に避難していたことが分かりました。逃げ遅れによって1700人が取り残され、ヘリコプターでの救助を余儀なくされたのです。39時間前に129地点の氾濫・決壊を予測できたこのシステム。しかし、予測情報が避難に生かされることはありませんでした。一体、なぜなのでしょうか。
 東京大学・芳村圭教授:「法律で規制されているんですね。自然現象についての警報を出すところは責任ある機関、具体的には気象庁のみが出せるということになっているんですね」
 危険を予測した地点は全国で500。370カ所の空振りも考慮しなければならないといいます。数十年に1度の大雨が毎年のように起こる日本列島。今年もその可能性は拭えません。
 東京大学・芳村圭教授:「(Q.先生はこの研究をされてきて、私たちがどう水害と向き合うべきだと思いますか?)水害は我々がやっているように予測はある程度、可能なんですね。24時間前に洪水の危険性が分かるとすれば、避難の選択肢が増えてくると思うんですね。24時間前からまさに天気予報と同じような感覚で洪水がどこで起きるのかというのが分かるような世の中になっていけば良いなと思っています」

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