継ぐ女神 道内“最古”の酒蔵「この家を守りたい」[2020/08/21 15:22]

 142年続く老舗の豪邸は、なんと、国の登録有形文化財。そこに残された家宝は、とんでもない人物の作品でした。

 斎藤ちはるアナウンサー:「私が来ているのはなんと、北海道です。一面の雪景色!ちょっと今年は少ないみたいですね雪も」
 小林千栄子さん(59):「こんにちは。小林と申します」
 千栄子さんは、創業から142年・4代続く老舗を守っているのですが…。
 千栄子さん:「私、4代目じゃないんです」
 どういうことなのでしょうか。お店に伺ってみると…。
 千栄子さん:「私の弟で、ここの社長です」
 弟で4代目・米三郎さん(57):「4代目です」
 代を継いでいるのは、弟さん。では千栄子さんは?
 その疑問の前に、まずはどんなお仕事なのでしょうか…。実は、北海道で最古といわれる酒蔵がこちらの「小林酒造」。代表する銘柄は「北の錦」です。フランスで行われた日本酒コンクールでは、純米大吟醸が、金賞を受賞。そんな北海道を代表する酒蔵に“長女”として生まれた千栄子さんは。
 千栄子さん:「私じゃないんですね、継ぐのは。女の人は一歩たりとも蔵の中に入ることは許されなかった」
 古いしきたりの残るなか、家業を盛り立てるため、千栄子さんが選んだ道とは?。
 その前に家宝を拝見です。明治30年に建てられた、千栄子さんの生家。奥の部屋は…。
 千栄子さん:「応接間兼2代目の書斎でもあったんですね」
 部屋数は全部で23部屋です。高価そうなものがたくさん。さりげなく掛けられた額は、東郷平八郎や、総理大臣も務めた高橋是清のものです。そして今回、千栄子さんのお母さんが鑑定して欲しい品があるといいます。それが…。
 母・榮子さん(82):「これ、屋根裏から出てきたんですね」
 千栄子さん:「(Q.どなたのもの?)ここに諸葛監(しょかつかん)って書いてある。ネットで調べましたら、某鑑定番組の記事が載っていて、掛け軸だったんです。160万円でした」
 諸葛監とは、花鳥画を得意とした、江戸時代中期の日本人絵師。このびょうぶには、100羽の鳥が描かれています。
 母・榮子さん:「私が買うなら5万円くらいかな」
 弟・精志さん(50):「鳥が100(羽)いるというので、100兆(鳥)円」
 千栄子さん:「160万10円ぐらいで」
 今回は、吉村民鑑定士に見て頂きます。
 本郷美術骨董(こっとう)館・吉村民鑑定士:「諸葛監というのは中国の沈南蘋(チンナンピン)という画家がいまして、(諸葛監は)日本人ながらにしてそのお弟子さん。250万円です」
 諸葛監の作品は珍しく、これほどの大作は、なかなかないということで「250万円」という結果に。
 千栄子さん:「この家の中で一番古いものだと思うつぼは1つあります」
 案内されたのは…。
 千栄子さん:「うちの中で一番大きなお部屋で32畳ございます。これなんですが…」
 斎藤アナウンサー:「色がすごくきれいですけど。作者は書いてありますか?」
 本郷美術骨董館・吉村民鑑定士:「そうですね。ここに『仁清』と書かれていますが。野々村仁清という江戸初期の陶芸家」
 野々村仁清とは、京焼の名工で、その作品には国宝もあるといいます。
 本郷美術骨董館・吉村民鑑定士:「野々村仁清ですと、億いきます」
 継ぐ女神初の“億超え”鑑定と、なるのでしょうか。
 本郷美術骨董館・吉村民鑑定士:「こちらは…偽物です。「3000円」
 千栄子さん:「よかった〜」
 母・榮子さん:「相続税が頭に」

 100パーセント、北海道米で作られる日本酒「北の錦」。もちろん、今は女性も蔵に入れます。
 杜氏(とうじ)・南修司さん(55):「酒造りの一番最初の工程の、米を洗っている。この小さな機械で(1回にお米)13キロぐらい」
 この日の気温は、マイナス1度、水温は4度です。寒さと闘いながらのお酒造りです。お米を蒸して、手作業で粗熱を取ったら、こうじ菌をふり、こうじ米を作ります。こうじ室の中は、室温35度。元気な菌が育つよう、全身を使いお米を混ぜます。食用としても美味しいお米が取れる北海道は、日本酒業界でも今、注目だといいます。
 寒さや暑さのなか、本当にお酒造りは大変。こうしてできた米こうじに、仕込み水、蒸し米まいを合せて1カ月。フランスで行われた日本酒コンクールで金賞に輝いた、純米大吟醸を頂きます。
 斎藤アナウンサー:「飲みやすいと思いました。おいしいです」
 北海道で最古と言われる酒蔵に、千栄子さんは長女として生まれました。しかし、古いしきたりの残る酒蔵では…。
 千栄子さん:「私、長女じゃないですか。(生まれた時は)“ちぇっ女か”、そんな扱いでした」
 酒造りは、男性社会。女性は、一切、家業に関われませんでした。千栄子さんは、中学校の先生となり、30年間、家業とは無縁でした。それが、6年前。
 千栄子さん:「(母から)『122年も経っているこのうちなので、もう壊すか』。壊すと聞いて私、胸が痛みした。母一人でずっと守っていたんですね」
 男たちが留守の間、「家を守るのが女の務め」と、千栄子さんのお母さんは、23もある部屋を1人で毎日雑巾がけをして、守ってきたといいます。お母さんの苦労が詰まった、この家をなくしたくない。千栄子さんは、この家を守り、しかも、今まで女性が関わることのできなかった家業にも貢献できる秘策を考えました。
 千栄子さん:「この23の部屋を(公開して)ご案内をして、入場料頂いて、この家を守っていこうって」
 国の登録有形文化財でもある家を公開し、自らガイドとなって案内を始めたんです。酒蔵で出た酒粕で作る、甘酒も振る舞われます。公開から6年。延べ1万人のお客さんが訪れ、そのお客さんが、お酒も買ってくれるように。
 弟で4代目・米三郎さん:「すごい相乗効果で、(家業に)大変貢献していますね」
 母・榮子さん:「(Q.帰ってくるって伺った時、どう思われました?)最高の喜びでございました」
 千栄子さん:「もうやるしかないですね」

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