是枝監督ら抗議声明 学術会議任命問題を辛辣に批判[2020/10/06 15:51]

 日本学術会議が推薦した会員候補6人が菅総理大臣に任命されなかった問題で、是枝裕和監督ら映画人22人が「学問の自由にとどまらず、表現・言論の自由への明確な挑戦」だとする抗議の声明を発表しました。

 声明には是枝監督のほか、井上淳一さんや塚本晋也さん、森達也さんら22人が名を連ねています。声明では「今回の任命拒否は政府に批判的な研究者を狙い撃ちにし、学問の萎縮効果を狙ったとみられても仕方ない」「学問の自由への侵害にとどまらず、表現の自由への侵害であり、言論の自由への明確な挑戦です」としています。そのうえで「放置するならば政権による表現や言論への介入はさらに露骨になることは明らかです。もちろん映画も例外ではない」と危機感を表明しました。最後に「ナチスが共産主義者を攻撃し始めた時、私は声を上げなかった。なぜなら私は共産主義者ではなかったから。そして彼らが私を攻撃した時、私のために声を上げる人は1人もいなかった」というナチス・ドイツで迫害を受けたマルティン・ニーメラー牧師の一節を引用し、学術会議への人事介入の撤回と経緯の説明を求めています。







 【日本学術会議への人事介入に対する抗議声明(全文)】


 菅義偉首相は政府から独立して政策提言する日本学術会議の新会員について、会議が推薦した105名のうち6名を任命しませんでした。
 同会議が推薦した候補を首相が拒否するのは本来あってはならないことです。1983年には当時の中曽根康弘首相が「政府が行うのは形式的任命にすぎない。学問の自由独立はあくまで保障される」と答弁しています。この答弁を引き合いに出すまでもなく、憲法23条は「学問の自由は、これを保障する」と定めています。この規定は単に個人が国家から介入を受けずに学問ができることだけでなく、大学など公的な学術機関が介入を受けずに学問できることまで保障しているとの考えが通説になっています。元々、日本学術会議は第2次世界大戦に科学が協力したことを反省して1949年に設立されたもので、内閣総理大臣が所管し、経費は国費負担としつつも、独立して職務を行う「特別な機関」と位置付けられました
 除外された6人の候補者は、安保法制や共謀罪に異を唱えた学者たちです。今回の任命拒否は、会議の理念を踏みにじるだけでなく、「会議の自律性とそれによって守られる学問の自由への挑戦」であり「政府に批判的な研究者を狙い撃ちにし、学問の萎縮効果を狙ったとみられても仕方ない」(江藤祥平上智大学准教授)ものです。
 内閣法制局は安倍政権時代の2018年11月、同会議から推薦された人を「必ず任命する必要はない」ことを内閣府が示し、了承したことを認めています。その2年前2016年にも同会議の補充人事に難色を示し、3人の欠員が補充できませんでした。安倍政権がずっと狙っていたことを管政権が今回、ついに実行に移したのです。案の定、菅首相は「法に基づいて適切に対応した結果だ」と答え、加藤勝信官房長官も「政府として(任命除外の)判断をした。判断を変えることはない」という考えを示しました。菅政権は「説明責任」を果たさないこともまた継承したようです。また、菅首相は総裁選前のテレビ討論会で「政権の方向性に反対する官僚は異動」と公言していました。その矛先が学者、研究者に向けられたのです。次に、その牙はどこに向けられるのでしょうか。
 この問題は学問の自由への侵害のみに止まりません。これは表現の自由への侵害であり、言論の自由への明確な挑戦です。
 それは今に始まったことでなく、安倍政権の7年8カ月間続いている、そして、「あいちトリエンナーレ」の助成金一時不交付から顕著になったことだと考えます。
 今回の任命除外を放置するならば、政権による表現や言論への介入はさらに露骨になることは明らかです。もちろん映画も例外ではない。
 ナチスが共産主義者を攻撃し始めた時、私は声を上げなかった。なぜなら私は共産主義者ではなかったから。
 次に社会民主主義者が投獄された時、私はやはり抗議しなかった。なぜなら私は社会民主主義者ではなかったから。
 労働組合員たちが攻撃された時も私は沈黙していた。だって労働組合員ではなかったから。
 そして彼らが私を攻撃したとき、私のために声を上げる人は一人もいなかった。
マルティン・ニーメラー

 私たちはこの問題を深く憂慮し、怒り、また自分たちの問題と捉え、ここに抗議の声を上げます。
 私たちは日本学術会議への人事介入に強く抗議し、その撤回とこの決定に至る経緯を説明することを強く求めます。

2020年10月5日

青山真治
荒井晴彦
井上淳一
大島新
金子修介
小中和哉
小林三四郎
是枝裕和
佐伯俊道
白石和彌
瀬々敬久
想田和弘
田辺隆史
塚本晋也
橋本佳子
古舘寛治
馬奈木厳太郎
三上智恵
森重晃
森達也
安岡卓治
綿井健陽

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