学術会議「関係ない」で炎上 西田准教授の真意とは[2020/10/17 12:15]

 日本学術会議の会員候補6人が任命を拒否された問題をめぐり16日、菅総理が学術会議の梶田会長と会談、学術会議の今後の在り方について意見交換した。
 この問題をめぐっては今月初め、ある社会学者のツイッターへの投稿が炎上して話題となった。「自分にとって関係ない問題」だと発言したことで、「学者として認識が甘すぎる」などと非難が殺到したのだ。
 日本学術会議そのものの問題点も指摘される今となっては、彼の発言はいち早く行われた問題提起とも捉えられるのだが、実際のところ、その真意は何だったのか。直接話を聞いて感じたのは「無関心」とは真逆の思い、ひとりの学者として抱く重大な危機感だった。

■「学者やめろ」…殺到した批判

 炎上の主人公となったのは、東京工業大学の西田亮介准教授(社会学)。まずは問題となった10月5日10時36分の投稿を見てみよう。

「なんで、いま、みんな日本学術会議に関心を持っているの?新政権のツッコミどころだからというだけでしょう。もともとほとんど関係ないうえに興味もなかったじゃない。ぼくだってそうで、たぶん1、2回ほど部会のシンポジウムかなにかで話したことあるけれど、はっきり言えば関係ない」

 日本学術会議のいわゆる「任命拒否問題」が明るみに出たのが10月1日。西田氏がこの投稿を行った5日の時点では、なぜ6人を任命しなかったのか、菅総理がきちんと理由を説明すべきだという声が強まっていた。

 そうした空気の中で発せられた西田氏の「関係ない」という言葉には「学問の自由の危機だ」「そんな認識なら学者をやめろ」などの厳しい批判が相次いだ。対する西田氏も丁寧に反論。例えば「自分に関係ないことへの無関心が政治の腐敗を容認している」という指摘に対して「直接関係ないことに『関心を持ってる』などとは申し訳なくて言えない」といった具合だった。

 「ネット選挙」や、コロナ禍での政策発信のあり方などSNS全盛時代の政治と日本社会を客観的な視点で分析してきた西田氏だが、自らのスタンスについては「リベラル」だと公言してきた。その西田氏が、「約87万人の科学者を内外に代表する機関」とされる日本学術会議について「関係ない」と発言したことで、菅政権を批判していた人たちの矛先が向けられた形だ。

■ネトウヨからは担がれる形に…

 問題の投稿から1週間あまり経った10月13日、Zoomでつながった西田准教授は、苦笑いを交えながら自分の身に起きたことを振り返った。
 「最初はネット上のオピニオンリーダーや研究者が『ふざけんな』と怒ってリツイートしたりコメントしてましたね。その後、今度はいわゆるネトウヨの人たちが、自分たちの意見を肯定する表現として活用するようになった。彼らには炎上させられたというより担がれたような形になってしまいました」

 設立当初は一般の科学者による選挙で会員を選んでいた日本学術会議だが、現在では現役の会員と連携会員が推薦して次の会員が決まる仕組みになっている。研究費を分配する訳でもないので、実際、西田氏と日本学術会議の間にはほとんど関係がない。ただ、ツイッターであえてそれを言葉にしたのは政府批判の空気に、自身が嫌う「同調圧力」を感じたからだった。

 「強力な同調圧力ですよね。とにかくそういう空気感が嫌いなんです。集合行動とかデモもよほどのことがない限り参加しません」「日本学術会議も大半の研究者にとっては本当に関係ないので興味も持ってなかったはず。なのに突然、学問の自由がどうとか騒ぎ出して社会運動として混然一体になってしまうのは違和感がありますね」

■この程度で“死ぬ”学問の自由なら…

 今回のような政府の日本学術会議への“介入”によって、「学問の自由」は本当に危機に陥るのか。西田氏は懐疑的だ。その思いは、「関係ない」発言直後の、別のツイッター投稿に示されている。
 「念の為、確認しておくと、学問の自由、政治との独立超重要。しかしそのうえで、この程度で死ぬような学問の自由ならもう20年かけて死んでいることになってしまうので」

 これが西田氏の真意だった。日本学術会議は近年、その存在意義が問われていた。科学技術に関し、省庁横断的な政策立案は、内閣府の「総合科学技術・イノベーション会議」が主に担ってきた。形骸化しつつある日本学術会議に政治が介入を強めたところで「学問の自由」への影響は限定的だ… 問題なのは、既に過去20年間、こうした政治介入の強化が「学問の自由」を脅かし続けてきたこと、そして社会もその実態に関心を持ってこなかったことだと西田氏は訴える。

 「2010年代、例えば国立大学の運営交付金削減や『選択と集中』の強化など、大学に対する介入が強まり続けてきました。我々研究者の昇進や業績評価についても、毎年100以上の項目を査定して給与を決めるという仕組みが進みました。こうしたことが各研究者の研究環境の悪化や若者の研究職離れを加速させている、正に学問の自由が阻害されてきたんです」「これらを社会が看過してきて、それでも学問の自由が死んでないと捉えるなら、日本学術会議会員の任命拒否などで学問の自由が死ぬとは言えないでしょう」

 「なんで、いま、みんな日本学術会議に関心を持っているの?」… 西田氏が最初に発した問いかけは、これまで「無関心」だった人々が、政権批判の道具のようにして「学問の自由」を持ち出してきたことへの強烈な違和感から生まれたものだった。

■日本学術会議は「見せ球」?

 その西田氏が今、懸念するのは、日本学術会議への介入の動きが、学者・研究者にとって、より重要な組織へと波及することだ。具体的には、学術研究の助成などを担う独立行政法人「日本学術振興会(JSPS)」や、科学技術の基礎研究や人材育成などを行う「科学技術振興機構(JST)」に対して「行革」という名の介入が行われるのではないかというのだ。いずれも研究者たちに費用支援などを行っていく機関で、日本学術会議に対する国からの予算が年間10億円であるのに対し、JSPSには約2600億円、JSTには約1000億円が投じられている。これらに手が付けられれば確かに多くの研究者に影響を及ぼすことになるが…

 「僕は日本学術会議というのは“見せ球”だったんじゃないかと思っています。イデオロギー的な性質が強いとか、かねてから指摘されていて、組織のガバナンスも十分利いていなかったように見える。そこを“見せ球”にしながら文教行政全般を『改革』していこうとしてるんじゃないかと。別の組織まで広げて切り込みの『実績づくり』をしたいのかなって気がするんですよね」

 「関係がない」というツイッター投稿とは裏腹に、文教行政への強い危機感をにじませる西田氏。改めて、官邸による日本学術会議の会員候補6人の任命拒否についてどう考えるか聞いた。
 「全く好ましくないと思っています。個々の研究者に対する心理的プレッシャーも高まると思いますね。政府とか省庁の意向に沿わないといけないんじゃないかというような」「(任命拒否をするというなら)法律を変えるか、そこまで行かなくてもきちんと協議したうえで何らかの改革や、運用のガイドライン作りをしていくべきでしょうね」

 しかし、今のところこの問題は、政府のシナリオ通りに進んでいると感じるのだという。
 「前の政権もこういうことを何度も押し切ってきているというのがポイントだと思いますね。特定秘密保護法や集団的自衛権の解釈変更など強い反対運動がありながらも押し切ってきた。それを主導していた一人が菅さんなのですから、そういう国内のムーブメントとの向き合い方というのはやっぱり良くわかっているのではないでしょうか」

 あえて石を投げ込み波紋を立てることで、「学問の府」が置かれている現状への注意を喚起した… それがあの投稿の意図だったとしたら、果たして成功したと言えるのか。最後にそう聞くと西田氏は再び苦笑した。
 「手ごたえは皆無ですね。結局、何かに反対するとか、大きなムーブメントみたいなものが好きな人は多いけれど、実際に問題となっているのはもっとディテールやテクニカルな点なんです。でもそういう問題は複雑だったりいろいろと法律や解釈を押さえなきゃいけなかったりと、ややこしいですよね。だからそういうことに対して人々はあまり関心を持てなくて… 政権に反対するのかしないのかといった、わかりやすい二項対立にばかり反応してしまうということなのでしょう」

報道局 佐々木毅

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