「地域医療」追い詰める“基幹病院のクラスター”[2020/11/29 22:30]

新型コロナウイルス感染拡大による「医療現場のひっ迫」は深刻さを増しています。大都市圏では多くの病院が満床状態に、ある地域では「市全体の病院機能」が崩壊の危機に直面しているというのです。


新型コロナの重症患者を受け入れている近畿大学病院では、この1週間ほぼ“満床状態”が続いているといいます。
病院長:「うちもギリギリですよね。これ以上の患者を受けいれになると、スタッフが全然足らない」
近畿大学病院は大阪府南東部で唯一、重い心筋梗塞など一刻を争う救急患者を受け入れているため、これ以上コロナ病床を増やすのは難しいといいます。
病院長:「救急の機能を止めるわけにはいかない。コロナは、もちろんやらないといけない。『どちらかだけ』はできないです。助かる命も助からなくなる」

大阪府は患者の入院先の確保が非常に困難な状況になっているとして、府内に約500あるすべての医療機関に対し病床の積極的な確保などを緊急要請しました。
厚生労働省によると全国の病床使用率(25日時点)は、兵庫県で68%、大阪府で55%に達するなど大都市圏を中心に上昇を続けていますが、実はある地方都市では「市全体の病院機能」が危機的状況に陥っています。

▽旭川市 「地域医療」崩壊の危機
人口およそ33万人を抱える北海道第2の都市・旭川市。寝たきりの患者が多い吉田病院で“道内最大規模のクラスター”が発生し、これまでに138人が感染、13人が死亡しています。(28日時点)さらなる感染拡大を防ぐため道から派遣されている北海道医療大学の塚本教授に、吉田病院の現状を聞きました。
塚本教授:「すべてで、(感染者が)出て。すべての階で出てる状況です。」「看護師とか介護士さんですかね。あとは事務の方も。」「半分近くが感染してしまって、戦力が半分欠けてるような状況。」「看護師さんたちはもう使命感だけで、疲弊しながらも働いてる状況ですかね。」

旭川市内には“連携”して地域医療を支える5つの『基幹病院』があり、新型コロナの病床数は152床あります。(ANN調べ)しかし吉田病院に加え、基幹病院のひとつ旭川厚生病院でも大規模クラスターが発生。(120人感染、28日時点)病床使用率が約70%に達しています。

基幹病院のひとつで、クラスターが発生した吉田病院から7人の患者を受け入れている旭川医療センター。
看護師「これからお口の中きれいにさせていただきますね」「お口開けてください、お口開きますか?」

看護師が完全防護で行っているのはコロナ患者の“口腔ケア”。吉田病院から転院した患者は介助が必要な高齢者がほとんどです。
看護師長「コロナの患者さんになると全身で防護服を着て対応しなきゃいけないので、オムツ交換にしても痰の取り方にしても、すべてがかなりの重労働になってくる。」

体を拭くのにも2人がかりで30分ほどかかり、通常のコロナ患者の3〜4倍の人手が必要になるといいます。

▽「基幹病院」クラスターで連携が崩壊
旭川市では、5つの基幹病院がそれぞれ高度・専門医療の役割を分担し連携することで“地域医療”を支えてきました。
しかし、周産期医療などで中心的な役割を果たしていた病院でクラスターが発生したため、その患者を受け入れる病院の負担が増大。「市全体の病院機能」が危機的状況に陥っているといいます

旭川赤十字病院 牧野憲一院長
「病院が協力しながら何とか崩壊に至らないように必死に踏みとどまっているわけなんですね。そのバランスをとれなくなるという事態がすぐそこまで来てる。もう1つ何十人かのクラスターが出れば、それで一挙に崩れます。」

「地域医療」が崩壊した場合の影響は、広範囲に及ぶと言います。
牧野院長:「旭川の基幹病院というのは、旭川市の約40万人弱、それに加えて稚内ですとか、利尻島、礼文島、留萌、富良野、そういった四国から九州に近いくらいの面積をカバーしています」「本来であれば助かるのに、助からない方が出てくるということになろうかと思います。」

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