コロナ禍のライブ「来てと言えない」カーネーション[2020/12/06 20:25]

音楽業界にとって、大変な事態である。ライブが出来ない。
予定されたコンサートが開催できないことは、まさに異例中の異例のことである。
ツアーが「飛ぶ」。それは、尋常なことではない。
結成37年目に入ったベテランバンド、カーネーションの直枝政広(Vo、G)は言う。
「ライブが出来なくなる、延期になる、中止になることそのものの経験がない」のだと。
東日本大震災など、大きな災害で一時的にライブができなくなったことはある。
しかし今回は、世界的規模でイベントの通常開催が見えていない。そうした状況は、長年活動する中でも、まったくの初めてだというのだ。

緊急事態宣言の約2カ月前、2月半ば。
いくつかのライブハウスで新型コロナウィルスによるクラスターが発生した。
ライブハウスそのものが危険な場所であるかのような報道も目立ち、「ライブは悪者」であるかのようなイメージが、世間に広がった。

CDの売れ行きが落ちてから、コンサートの活況は、音楽業界の大きな収益の柱となっていた。しかし、新型コロナウィルスのパンデミックでライブ、コンサート、フェスは延期や中止が相次ぎ、音楽業界は、大打撃を受けた。
新型コロナが流行しはじめた時のことを、直枝は振り返る。
「感染症の対処をどうすればいいかわからなかったし、これはとりあえずライブの開催は無理だというのがありました」


そして迎えた、今月4日、東京・大手町三井ホール。
『カーネーション winter tour 2020 “LOVE SUITE”』東京公演が開催された。

イベントの入場制限が一部撤廃・緩和された9月に、バンドは、年末ツアーを行う決定をした。
客席を半分に減らし、感染対策を万全に講じた上で、である。
それでも、と直枝は漏らす。
「来てね、とは言えないんですよね、昨日もツイートしたけど、来てね、とは言えないんです」

高齢の家族を抱える人、持病を持っている人は控えた方がいいと思う。それは自己判断になってしまうのだが、と感染対策を講じながらも、ファンを案じる。一生懸命こわがることは、とても大事なことだから、と。

入場が始まる前から、ファンはマスクをし、整然と並んでいた。
一人ずつ体温を測定、使い捨てのペンで来場者登録票に連絡先を残す。
チケットは、スタッフが目視し、自分自身でもぎる。
ドリンク代の支払いも、接触を避けるため、手渡しをせずトレーにお金をのせる。
そして、並んだドリンクから好きなものをとる。極力、接触が少なくなる工夫がされていた。
観客の協力がなければ、成り立たない、入場フローである。
ホール内の座席は、一席分以上あけて、並べられていた。

メンバーの大田譲(B)も案じる。
「今年に入って、(カーネーションのライブを)いっぱい延期したから。いつからやってないんだ、2月からかな?ずっとなかった。生のライブをやるということは、意味はそれなりにあると思う。今は皆とても気を遣ってライブを行っている。本当に気をつけないと」。

当日、用意された座席は、ほぼ埋まり、久しぶりとなるライブへの、ファンの期待の高さがうかがえた。

カーネーションは、その非凡なポップセンスなどから、ミュージシャンのファンも多い。
森高千里は初期の名曲『夜の煙突』をカバー、楽曲提供も多く、その活動は幅広い。
この日は、サポートに伊藤隆博(Key)、張替智広(Dr、キンモクセイ)、ゲストに田中ヤコブ(G、家主)を迎えた。

1曲目の『幻想列車』から、観客は、一気にその世界観に引きこまれた。
もちろん、マスクをしたまま。声援はあげない。音楽に合わせ、体を揺らしはじめる…。
長年の活動での、膨大なラインナップから選び抜かれたセットリストである。
当日も、ギリギリまで念入りにリハーサルを行って臨んだライブ。
音響、演出も、万全の体制だ。ファンの心を揺さぶる名曲が続く。

直枝が一緒にやってみたかった、と言う、田中ヤコブの、アグレッシブで熱い、ロックなギターが、名曲をさらに盛り上げ、新鮮さを加える。
「お父さんからカーネーションを教わって聞いたらしいよ」と笑う直枝が、
29歳の田中ヤコブに声をかけた。
「君はこれからロック界を背負っていくのだから」と。

そして、まもなく発売するアナログ盤(カーネーション『sings はっぴいえんど EP』12月9日発売)でもカバーしている、はっぴいえんどの『春よ来い』。
「春が訪れるまで今は遠くないはず 春よ来い」というフレーズがある曲だ。
バンドの生音が客席に深く響いた。

アンコールは、『夜の煙突』と『愛のさざなみ』。
ファンにはお馴染みの名曲で、ファンは思わず立ち上がり、コールアンドレスポンスの部分では、声を出さずに、それでも全力で応えていた。

カーネーションの全力の濃密な約2時間の演奏。生のライブならではの、感動。観客からは、惜しみない拍手が送られた。
ベテランバンドと、ファンとの信頼感、スタッフらの努力があってこそ実現した、コロナ禍の素晴らしい、感動的な演奏を満喫した一夜。居合わせた人にとっては、忘れられない夜となっただろう。

新型コロナの世界的パンデミックの、先行きは見えない。それでも、と直枝は言う。

「どうなっていくかわからないけれど、作品をつくることはできる。ライブは状況次第ですけれど、僕らはもう来年の、12月の予定も入れていますから、そこに向けていくだけですよね。早く自由な社会というか、健康的な日常が戻ればいいなと願っています。
ファンの方には、楽しみを忘れないで欲しいし、ただ無理はしないで欲しいという、そこはお互い気をつけていきましょう、っていうことですね」

終演後のコメント
直枝政広(Vo)
「ホールの緊張感がうまく作用しましたね。振り幅の広いカーネーションの音楽性をズバリ描けたかと。入場数を制限しての会場でしたが、踊り出す人続出で盛り上がりましたね。お客さんが心から楽しんでくれいる感じがよくわかりました。みんな久しぶりの生音を体験されたはずだし、やって良かったと思いました」

大田譲(B)
「やはりライブは、お客さんがいてこそ成り立つものだと改めて実感しました。
お客さんの反応や表情に触発されて演奏も変わる。当たり前だけど改めて実感できました。
35年以上やっているのに新鮮な気持ちになれるのは、お客さんの力なんだなと改めて教えて頂いた一夜でした」

張替智広(Dr、キンモクセイ)
「全曲、全力で。最高の夜でした、ありがとうございました!」(Twitterより抜粋)

田中ヤコブ(G、家主)
「本当に感慨深い一日でした、余韻がすごいです。今回ゲストとしてお誘いいただけたこと、
改めて感謝です!幸せな時間でした!ぜひまた!」(Twitterより抜粋)

セットリスト
カーネーション winter tour 2020
“LOVE SUITE”

Tour Member:直枝政広、大田譲、伊藤隆博、張替智広

2020年12月4日(金)
会場:大手町三井ホール
ゲスト:田中ヤコブ

【セットリスト】
01. 幻想列車
02. One Day
03. Annie
04. その果てを心が(新曲)
05. Hello. Hello
06.いつかここで会いましょう
07. Love Scene
08. スペードのエース*
09. 世界の果てまでつれてってよ*
10. Sweet Baby*
11. 春よ来い(はっぴいえんど)*
12. Highland Lowland(新曲)
13. LEMON CREME
14. センチメンタル
15. REAL MAN
16. 学校で何おそわってんの
17. Edo River
18. New Morning

encore 1
19. 夜の煙突*
20. 愛のさざなみ*

*:with 田中ヤコブ

映像:
カーネーション「春よ来い」
2020年12月4日(金) 大手町三井ホール
直枝政広 Vo、G
大田譲 B
伊藤隆博 Key
張替智広 Dr
田中ヤコブ G

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