「病院全体がレッドゾーン」“指揮官”が見た旭川[2020/12/13 22:30]

新型コロナウイルスの感染拡大による「地域医療の危機」を、救うことはできるのでしょうか。自衛隊が派遣された北海道・旭川市の最前線で指揮を執った災害派遣医療チーム(DMAT)の医師を取材しました。


▽病院全体がレッドゾーンの状態
災害派遣された旭川市内の医療機関で、支援活動を行う看護官。一般の看護師と同じように、医師の診療補助や検温・血圧測定などの業務を昼夜3交代制で行っているといいます。

大規模クラスターが発生し、これまでに205人の感染が確認されている吉田病院。ここに先月下旬に入り、病院を立て直すべく指揮を執った人物がいます。厚生労働省の災害派遣医療チーム・DMATの事務局次長で、医師の近藤久禎さんです。

DMAT 近藤事務局次長
「11月下旬に入らせていただきましたけど、ほとんど全ての病棟に陽性者もしくは濃厚接触者がおられる、病院全体がレッドゾーンだという様な状況でした」「非常に、看護師さんが不足していた。最低でも4、50人は要るのではないかというのが当初の印象でした。」

DMATがまず行ったのは、コロナ患者10人の転院でした。
近藤事務局次長
「10名の患者さんを外に出させていただいたという所でですね、若干余裕が生まれます。その余裕を利用してですね、グリーンのエリア、つまり感染者がいないエリアを2つ作ることが出来ました。そうすると全体の負担も下がりますし、患者さんを回せるようになってくるのですね。」

さらにDMATは、少なくとも20人程度の看護師の補充が必要だと旭川市に要請、それが「最後の手段」とされた自衛隊の災害派遣に繋がったといいます。
DMAT 近藤事務局次長
「自衛隊の方に、陽性者を診る病棟に入っていただくことによって、そこの病棟の負担もある一定程度、許容範囲内に収めることができたと。大きな一歩になったのではないかと思っています。」


▽「火が燃え盛る中に突っ込んだような」
一方、5人の看護官らが派遣された重度障害者施設「北海道療育園」では13日、1日としては過去最多となる31人の感染が確認され、あわせて100人に。DMATは「療育園」にも支援に入っていますが、まだ感染拡大が続いています。

DMAT 近藤事務局次長
「療育園については、本当に火が燃え盛ってるその中にですね、自衛隊の皆さんにも一緒に突っ込んでいただいたというような形です」「非常に難しい、全国でもクラスターが起きると難しい施設の1つなのではと思っています。」

 
感染が拡大する中、心配を募らせているのは“入所者の家族”です。
息子(40代)が入所する母親(70代)
「オムツを替えたりとか、食事も自分でとれないので。すごい手間がかかると思うので、クラスターなると人手が足りなくなるし、子どもたちにも影響が出るかなと思って本当に心配しています。」「呼吸器系の病気が流行ると、病気になりやすい子どもばかりなので、本当に心配しています。」


▽2回転院を余儀なくされた妊婦
これまでに283人が感染、“国内最大クラスター”が起きている旭川厚生病院でDMATが直面しているのは、“地域医療 崩壊の危機”です。

DMAT 近藤事務局次長
「この病院は、地域の非常に重要な病院です。特に周産期(医療)の中軸的な病院です。この地域にとって重要な機能から先行して回復させていく、そのようなことを考えているところです。」

この病院で起きたクラスターで、翻弄されている人がいます。今月27日が出産予定日の30代の女性です。
「すごくショックでした。まさか厚生病院がそんな事になるとは思っても見なくて。」

女性は旭川厚生病院で出産する予定でしたが、先月下旬にクラスターが発生。今月3日に旭川赤十字病院に転院しましたが、その直後、出産した女性の感染が確認されたことで、分娩中止に。今度は旭川医科大学病院へと転院せざるを得なくなりました。
転院の間、妊婦健診を受けられなかったことに強い不安を感じていたといいます。妊娠糖尿病を患っているため、食事の前後に1日6回、自分で血糖値を測っています。

今月27日が出産予定日の女性(30代)
「赤ちゃんの血糖値の問題で、体が黄色くなったり赤ちゃんにもお母さんにも関わったり、結構リスクが高くなりやすい病気なんですよね、適切にケアしないと。」
夫(30代)
「本当に平穏無事に産みたいという、ただそれだけですね。」


DMAT 近藤事務局次長
「コロナがやっぱり怖い、そういう中で病院や施設が混乱する。その結果、通常行っていた(医療)サービスができなくなってしまう。それによって亡くなっていく。こういう命が、実はかなりあるんじゃないかなと。」「(クラスターが)広がっていたとしてもですね、ある程度管理すれば、少なくとも悲劇的な形で(失われる)命は救えると考えております。」

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