人手不足で医療危機?“疲弊する”現場の今[2020/12/16 22:36]

 15日から一部の病床で運用が始まった「大阪コロナ重症センター」。大阪府は不足する看護師を全国から募集したほか、自衛隊に派遣を打診。何とか必要な人員を確保して運用にこぎつけました。医療現場での人手不足が叫ばれるなか、今、直面しているもう一つの問題が…。
 とあるビルの一室を解体している時の写真。よく見ると医療機器や診察台が並んでいます。実は以前、この場所にはクリニックがあったのです。
 6月末に閉院したアイビルクリニック・永田眞人元院長:「6月末だったと思います」「(Q.それをもってクリニックを畳んだということ?)そうですね、はい。賃料も高いものですから、職員の方を解雇してという形を取らざるを得なかった」
 こう話すのは、福岡市内に個人でクリニックを営んでいた永田元院長。2009年に開業、多い日で一日50人の患者が訪れていたといいます。ところが、コロナ禍で患者が激減。4月は2、3人しか患者が来ない日も。それでも、個人の貯金を取り崩し何とか経営を維持しようとしたそうですが、限界だったといいます。実は、永田さんは医療法人の理事長も務めていて北九州にも2つの病院を経営しています。しかし、そのうちの一つも7月から休止状態に…。
 6月末に閉院したアイビルクリニック・永田眞人元院長:「医療っていうのは国のインフラなんですよ。財産なんですよね。これがなくなってしまいつつあるというのは…今のこういう状況があってもコロナが収束しても、ある程度人口に対してこれぐらいの医療機関が必要であるとかということを、本当に考えて国家予算も含めてやらないと(いけない)」
 日本病院会などが、全国の医療機関を対象に行ったアンケート。そこから見えてきたのは衝撃の数字でした。なんと、約半数が赤字に陥っていることが分かったのです。その大きな原因の一つが、患者の「受診控え」。感染への恐れから、病院に行く患者そのものが減ってしまっているのです。
 中野こども病院(大阪市)・木野稔理事長:「もしこのままの状況で3年続けば破綻します。そういう状況です」
 こう話すのは、大阪市にある「中野こども病院」の木野理事長。中野こども病院は日本で初めての民間の小児専門病院として開業。救急患者を24時間365日休まず受け入れているほか、新型コロナに関して疑いのある患者や軽症・無症状者も受け入れています。
 ところが、そんな病院も経営の危機に…。「受診控え」、そのなかでも目立っている「小児科離れ」によって苦しんでいるのです。
 感染への不安から子どもを病院に行かせたくないと考える保護者が急増。中野こども病院も4月から患者が激減し、現在も去年と比べて減ったままです。
 中野こども病院(大阪市)木野稔理事長:「(一時期は)入院患者も半分近くになっていますから、赤字がずっと4月から積み上がって10月(現在)で2億3000万円ほどの赤字。例年といいますか年度で収益は大体1億円もないんですよ。数千万円。それがこの半年で2倍、3倍近くの赤字になっているということです」
 見せてくれたのは、先週に撮影された病院内の様子。
 中野こども病院(大阪市)・木野稔理事長:「これは朝の7時40分くらいなんだけども、ほとんど誰もおられないでしょ。本来、時間外の患者さんとか、早く来て待っている患者さんとか、それからうちは病児保育をやっている。病児保育だったら午前8時前から患者さんがずっと来られている」「(Q.これだけがらんがらんというのは…)異常事態です」
 例年ならば、年間6万人の患者が訪れる人気の病院であるにもかかわらず、こうした状況が続いているのです。これまで職員のボーナスを削減するなどして何とか凌いできたといいます。不登校やいじめの問題を抱える子どもに寄り添ったり、虐待を発見して福祉につなげたりと様々な役目も担っている小児科。失われた場合の地域に与える影響は計り知れません。
 中野こども病院(大阪市)・木野稔理事長:「(国には)事情に応じて、施設に応じて経済的なことはできることだけはしてほしいと思います」
 「受診控え」は医療機関を巡る、別の問題も浮き彫りにしています。
 東京・立川市にある歯科診療所。岩下明夫副所長によりますと、4月は患者数が前年と比べて6割も減少したといいます。
 相互歯科・岩下明夫副所長:「直接口の中を触ったり、見たりということが必要になる歯科というのは、どうしても敬遠されてしまうというのはあったのかなと。かなり大きな赤字ですね。法人全体では大体9億円くらい借りている」「(Q.今回のコロナ禍によって?)はい」
 診療所では受付や診療ブースをビニールシートで仕切ったり、換気を良くするための環境を整えたりと感染対策を徹底。
 「安心して来てほしい」と患者の自宅に電話したり、葉書を送るなどして不安払拭に努めてきました。その甲斐もあり、秋ごろにはようやく元に戻りつつあったといいますが…。
 相互歯科・木口祐子事務長:「第3波が来たのでここ最近キャンセルされる患者さんも電話がやっぱり…」「(Q.この冬になって?)そうですね、はい」
 経営を続けるため、医療機関が必死になって患者の来院を促さなければならない現状に、岩下副所長は診療報酬制度への疑問を口にします。
 相互歯科・岩下明夫副所長:「元々歯科の診療報酬は非常に低く抑えられている関係があって、要するに数を診ないと診療報酬、点数は上がらないということになっていましたので、そうすると今までと同じように沢山の患者を診て、それで医院を成り立たせるという仕組みそのものがもう成り立たないのではないかなと思う」

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