「働き方の未来」コロナ禍で加速したDXの本質とは[2021/01/10 21:30]

2度目の「緊急事態宣言」発出に伴い、企業に再び「テレワーク」の徹底が呼びかけられています。コロナ禍で仕事のデジタル化が急加速する中、私たちの「働き方の未来」は一体どうなっていくのでしょうか。

▽クラウドの先駆者
ガランとした、都心のオフィス。テレワークを推奨し、出勤率を2%まで抑えたこの企業がコロナ禍で世界を舞台に急成長を続けています。セールスフォース・ドットコム。オンライン上でデータを管理・運用する、企業向けのクラウドサービスを世界に先駆けて手がけたことで知られています。

最近ではビジネスチャットツール「Slack」(米スラック・テクノロジーズ)を約277億ドル(約2兆9000億円)で買収することを発表し、世界を驚かせました。

株式会社セールスフォース・ドットコム 小出伸一会長
「セールスフォースのサービスは、創業時21年前は、顧客管理というところだったのですね。お客さまの情報をベースに、営業活動の効率性を高めるということだったのですけれども、時代が大きく変わってきたと。」

セールスフォース・ドットコム日本法人トップとして急成長をけん引する、小出伸一氏。コロナ渦における企業などの対応が「未来の働き方」をさらに変えていくといいます。

▽コロナ禍で加速したDX
小出氏「例えばリモートワークとか、リモート診療とかリモート学習とか、トライアンドエラーではなくいきなり本番を迎えてしまったということで、確かに『デジタルトランスフォーメーション』を進める大きな起爆剤になったということは事実だと思います。」

「デジタルトランスフォーメーション」、通称DX。一言で言うと、進化したデジタル技術を使い、私たちの暮らしをどんどん便利にしていくことです。

身近なところでは、
●フィルムカメラがデジタルカメラになり現像が不要になった
●さらに、そのデジタルデータをSNSなどを通して世界中で自由にやりとりできるようになった

「きょう現在、データが山のようにあるわけですね。GAFAを含めていろいろな企業がやっているのが、データをいかに活用するかという、大きな変化点を迎えているわけです。」「デジタルトランスフォーメーションの真髄とは“データドリブン経営”なんです。つまりデータに基づいて解析しなくてはいけないのですね。」

小出氏が語るDXの神髄。それは、人々の行動を記録し続けているビッグデータを、暮らしのあらゆる場面で活かしていくことだといいます。

「自分の会社を経営していく上で、どの職種の、例えば専門職であれば在宅比率は何%だったらいいのか、生産性が落ちないのか、落ちるのか。例えば今回、政府からリモートワークで、仮に70%ぐらいの在宅比率で感染防止のために協力してほしいというガイドラインが出ましたと。そうすると、各企業や団体はそれに向けて努力をするわけですね。それで実際に何が起きたかというと、ある企業は在宅比率が60%でした、ある企業は30%しかいきませんでした、というようなデータが出てくると思います。」

「ただそれはガイドラインが70%であっただけで、本来企業の経営者は、実際にどの部門が、どの職種が、どの地域が、在宅比率は30%が適切なのか、もしくは70%がいいのか。」
「つまり、データに基づいて物事を語らないと。ざっくり感で何割という話ではない、データをいかに使いこなすかというのが、そういうことだと思います。」

「これから10年先を見ていくと、データというものを本当に使える経営かどうかというのは、差別化戦略の1つにはなると思うのですよね。」

▽残る「リアル」な働き方
さらに小出氏によると、DXが進んだ「未来の働き方」でも“リアルな部分”が必ず残る、必要になるといいます。

「今まさにデジタライゼーションが加速していて、それがカバーできるところはもちろんデジタルの世界、バーチャルな世界でいきましょう、と。しかし、やはり人との触れ合いとか、例えば会社に対するロイヤリティや帰属意識、チームで働くというようなことを考える時には、リアルの世界で一緒に働かなきゃいけないということで、色んな選択肢の中でものごとが移っていくと思うのですね。」

「face to faceで応対しないと生産性や効率性が上がらないとか、逆にテレワークで電話を中心にお客様との相談窓口をやっているような人は、わざわざオフィスにいかなくても100%の生産性をキープできたとか、そういう個々のデータを収集しながら“新しい働き方”を見つける、というのが、ウィズコロナ、アフターコロナの世界だと思うのですね。」

▽求められる“変化を起こす”力
コロナ禍が加速させるデジタルトランスフォーメーション。しかし、その変化のスピードに私たちは対応していけるのでしょうか。

小出氏「日本人というのは、過去のいろいろな歴史を振り返っても、変化に対応する能力が一番優れていると思います。私は外資系に40年ぐらい勤務している関係で外から日本を見ているのですが、海外の方から日本の素晴らしい点はどこですか、と聞かれると『状況に対応する能力』『変化に対応する能力』ということだと思うのですね。例えば戦後の復興がすごく早かったですし、高度経済成長の中ではエクセレントカンパニーなんていう言葉も出たくらい、素晴らしい企業を生み出しました。また、東日本大震災後の復興も、秩序正しく、いち早く復興したということで、いろいろな変化に対応できる能力があると思っています。我々日本人は、変化に対応する能力が優れている、次に目指すのは“変化を起こす能力”だと思うのですね」

「コロナという未知との遭遇の中で、デジタライゼーションが加速するでしょうし、マインドセットを変えるチャンスもあるでしょうし、企業文化を変える、まさに良い機会だと思うんですね。その中で、ぜひ変化への対応だけではなくて、“変化を起こす”というものにチャレンジできればと思います。」

▽未来の働き方 それは「多様性を認めること」
その「変化を起こす能力」の源になるのが、働き方の多様性だといいます。

小出氏「変化を起こす最大のエネルギ―を発揮するのは『多様性』だと思います。つまり、多様性のある化学反応が大きな変化を生み出す、ということだと思うんです」

「金太郎飴にした方が、やりやすいですよね、企業経営は。しかし、やはりそれは効率性と生産性を追い求めた右肩あがりの時には、それでよかったと思うんです。極端に言えば、電話が普及する時は、高品質の黒い電話をたくさん作って安く提供すれば、絶対売れるわけですね。今はそうではなくて、市場も多様化しているし、お客さまのニーズも多様化しているということは、イノベイティブなものをどれだけ作れるか、ということだと思うので。多様性を認めると、その化学反応が変化をもたらし、それが良い変化だとイノベーションが起きるわけですね。」

「私は日本全体が、また企業全体が、それぞれの多様性を認め合い、尊重し合い、尊敬し合い、信頼し合うというものを作り上げた時に、新しい未来の働き方であったり、「変化の対応」から一歩先に進んだ『変化を起こす』というものを作り上げられるのではないかと思っています。」

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