大量のCO2吸収“亜熱帯モード水”調査に密着[2021/05/05 23:30]

(岡准教授)「今年の亜熱帯モード水です」
この水が日本の、いや世界の“ミライ”を左右するかもしれません。この水を探して、6000キロを旅しました。

今年2月、大型研究船『白鳳丸』が東京湾を出港。亜熱帯モード水が作られる海域を目指します。研究調査チームを率いるのは、東京大学・岡英太郎准教授。去年、延期になった航海が、ようやく実現しました。
東京大学・岡英太郎准教授:「新型コロナウイルスの影響で1年遅れになって、やっとスタート地点に立ったという感じ」

亜熱帯モード水は、世界5カ所で確認されています。日本近海のものは、トップクラスの大きさで、この巨大な水の塊が吸収する二酸化炭素は1年に約8億トン。これは、アマゾンの森林が1年で吸収する二酸化炭素の3分の2の量に相当します。国連の温暖化に関する報告書をまとめる専門家は、こう話します。
気象研究所・石井雅男研究総務官:「亜熱帯モード水は、どんどん二酸化炭素を吸収し続けて、蓄積し続けている。(亜熱帯モード水に)昔、たまった二酸化炭素が、例えば何年後か、あるいは十年後、数十年後に海面に戻ってきて、逆に海から大気に二酸化炭素を逆流させるということは十分に考えられる。亜熱帯モード水がどこで、どれぐらい海面に戻ってくるかとか、まだよくわからないことが多い」

地球温暖化の要因の一つとされる二酸化炭素を亜熱帯モード水が大量に吸収し続けているとわかったのは、わずか10年ほど前。その全貌は掴めていません。最近では、吸収する二酸化炭素の量が減っている可能性も指摘されています。今回は、その実態解明を目的とした初の大規模調査です。

出港から7日目。2013年の噴火から成長を続ける西之島の辺りから亜熱帯モード水が作られる海域です。水深2000メートルまでの採取できる機器を使い海水を採取します。しかし、海が大荒れで、観測は一時中断となりました。
東京大学・岡英太郎准教授:「(モード水の)形成域だから荒れる。荒れるから形成する」
この海域には、黒潮によって暖かい海水が運ばれます。二酸化炭素は水温が低いほど水によく溶けるので、黒潮に多くは含まれません。そこに冬の冷たい季節風が吹きつけます。海が荒れ、運ばれてきた海水は急速に水温が下がり、二酸化炭素を多く吸収できるようになります。冷えた海水は重くなり、二酸化炭素を含んだまま、深くまで運ばれます。深さ数百メートルにまで達し、徐々に混ざることで水温が一定になります。これが亜熱帯モード水です。南極などの常に冷たい海水は、すでに大量の二酸化炭素を含んでいて、多くは吸収できません。

出港から9日目。観測を再開。ついに辿り着き、水を採取しました。この水は大学へと運ばれ、含まれる二酸化炭素の量などを調べます。今回の航海の目的の一つ、2年間自動で観測ができる機器5台を海に配置することができました。
東京大学・岡英太郎准教授:「海況はずっと悪かったけど、よく観測できたと思う。実際にリアルで海洋を見ていると、いろいろなものがわいてくる。本当、幸せ」

航海から1カ月後。水温のデータが届いていました。水温は乱高下しながら、100年で約1度上昇。今回、観測されたデータは、亜熱帯モード水の上昇傾向を裏付ける形になりました。研究者の多くは、地球温暖化が水温を押し上げているとみています。
東京大学・岡英太郎准教授:「(亜熱帯モード水は)確実に温暖化している。熱量にしてみると、ものすごい熱量」

地球温暖化が、さらに進めば、どうなるのでしょうか。まず、寒気が弱まって、海水を冷やす力も弱まります。すると、作られる亜熱帯モード水が減り、吸収される二酸化炭素も減少。温暖化が今以上に加速する恐れがあります。
東京大学・岡英太郎准教授:「僕らは海のことをよく知らない。現実に、海が、とんでもない量の熱をどんどん蓄えている。未来のために今の海を調べる。理解して次の予測に繋げる」

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