25人が死亡した高齢者施設 現場医師が語る実態[2021/05/09 22:30]

133人が集団感染し、このうち25人が亡くなった兵庫県神戸市の高齢者施設。中では何が起きていたのでしょうか?

▽現場指揮の医師が語る「被害拡大のワケ」
大規模クラスターが起きた神戸市内の高齢者施設。厚生労働省の災害派遣医療チーム「DMAT」から派遣された医師らが4月27日から支援を行っています。

施設職員
「基本的にしないといけないとされていたことは徹底されていたかどうかは正直、胸を張ってまでは言えない」
DMAT事務局 若井聡智次長
「これどこでもそうなんです。災害みたいなものなので、災害に慣れている施設なんてないですから」

こちらの高齢者施設では、入所者と職員合わせて133人の集団感染が発生。このうち25人が亡くなりました。
施設で何が起きていたのでしょうか?現場で指揮を執るDMATの事務局次長で医師の若井聡智さんにききました。
「当初はフロア全体がレッドゾーンっていう形だったが、どれぐらいの感染の方がいて、職員もどれぐらい感染していて、それに対してどう対応しているのか、きちんと情報整理されていた段階ではなかった」
Qなぜ感染が広がった?
「やはり認知症を患っている方は徘徊をしたり、マスクをしてくださいと言ってもなかなかできない。もうひとつはやはり濃厚なケア、抱き上げるとかそういったこともありますし。感染対策に介護士さんなんかは慣れていない方が多い」

陽性が確認された97人の入所者のうち、病院に入院できたのはわずかに3人。病床がひっ迫する中、重症化しても施設内での処置を余儀なくされています。
DMAT事務局 若井聡智次長
「この施設はお医者さんもいらして、それなりの酸素投与とか点滴とかできる環境にあるので、施設でがんばっていただくことはがんばっていただくという状況にある。(職員らは)罪悪感みたいなものは感じていらっしゃる印象はあった」

▽解消されない異常事態
厚労省の診療の手引きでは血液中の酸素飽和度93%以下は呼吸不全が起きていて入院が必要な値ですがー
神戸市の会見
「(神戸市内では)70%台の方が毎日10人程度いらっしゃる状況になっている。80%台の人が60〜70人出ている中で、そのうちで入院できるのは10〜15人というような形になっていますので、本当に70%台の方しか入院できない危機的な状況になっている」

一方、隣の大阪府でも門真市の有料老人ホームで61人の集団感染が発生し、13人が死亡するなど高齢者施設でのクラスター発生が相次ぎ、この1カ月で49件に及んでいます。
大阪府内の高齢者施設でとめ置かれた患者の往診を行っている生野愛和病院の渡辺克哉医師。
「おしっこ行くのしんどくないかい?おしっこの管しんどいなら入れとこか?」
呼吸不全が起きているという80代の女性です。渡辺医師はこうした中等症の患者に本来入院して行うような酸素吸入やステロイド剤の投与もしています。
「(酸素吸入器が)1台では足りないので2台連結して(1分間に)10リットル近く流している人もいます。普通ではちょっとあり得ないですし、病院でもあそこまで行ったら次、人工呼吸をします。そういうレベルになります」
コロナ患者の往診に専念するため、病院には入らず車の中を仕事場にしている渡辺医師。現在13人ほどの患者を診ていますが多くが入院の必要な患者だといいます。
「特に酸素の量ですね。やっぱり在宅でいける量と病院でいける酸素の量と違うので、これはもっと酸素を吸わせてあげたいなと思うことはあります。家族さんにはその話はもちろん、コロナが陽性になった段階でさせてもらっています。『病院に行けない可能性はやっぱりあります』『今おられる高齢者施設の部屋で亡くなる可能性があります』という話も最初に伝える」

▽患者が自ら酸素吸入器を操作…うまく使えない高齢者も
大阪では、自宅にとめ置かれる高齢者も増加しています。東大阪生協病院では患者の自宅に酸素吸入器を持ち込み治療に当たっています。
1人暮らしの70代の女性。肺炎の症状があるため酸素吸入器を導入したのですがー
医師「苦しくないです?」
70代自宅療養者「苦しい時がありますね」
医師「これ酸素、電源切っていたらつかへんからね。ほんまはピッで押してつけておかないと」
電源が切れていました。機械を正しく使えない人もいて、往診のたびにチェックが欠かせないといいます。
医師「本当はどこかに入院した方がいいんだけどね。心配だから。また連絡しますね」
重症化しても入院できず施設や自宅で療養を余儀なくされる異常な事態。災害派遣医療チームの医師は死者の増加を懸念しています。
DMAT事務局次長 若井聡智さん
「自宅で医療を提供するということで往診が必要になる。ただ問題なのはやはりベッドが空かないと往診をしても根本的な問題解決になりませんので、自宅で亡くなる方もまた出てくるのではないかという問題はあります」

5月9日『サンデーステーション』より

こちらも読まれています