J.デップ最新作で描く「水俣病」なぜ今?独占取材[2021/05/16 22:30]

ハリウッドスター、ジョニー・デップが10年前から構想を練ってきたという最新作で描くのは、戦後日本が生んだ最悪の「社会問題」です。なぜ今、そこに光を当てたのか。独占インタビューで聞きました。

(聞き手は森川夕貴アナウンサー)
森川:お待たせしてすみません
J.デップ:こちらこそ待たせてすみません

『ジャック・スパロウ』でお馴染み、ヒーローからクセのある役どころまで幅広くこなす、ハリウッドの人気俳優ジョニー・デップ。彼が、インタビューに答えた理由、それは…
J.デップ:「水俣病」の患者は悲劇を経験し、後遺症に苦しんだ。その現実を知った私は“伝える責任”があると感じたんです

水俣病は1950年ごろ、化学工業会社チッソが「メチル水銀」を海に流し、その海の魚を住民が食べることで広がりました。脳神経を破壊される等、重い障害をもたらす公害病です。
ジョニー・デップは、そんな水俣病をテーマに、映画を作ったのです。

森川:水俣病の映画を製作するに至った経緯は?
J.デップ:水俣病を知ったのは(写真家)ユージン・スミスについて調べていた時でした。彼が撮った水俣病患者の痛々しさにとてもショックを受けたんです。赤ちゃんや子どもたちに、こんなにも影響をもたらすものなのかと。

ジョニー・デップが演じるのは、社会問題を撮り続けた世界的写真家・ユージン・スミス氏。水俣病に出会い、患者たちの戦いを記録した3年間を実話をもとに描いています。

▽悲劇は終わっていない
患者の多くが、今も重い症状に悩まされています。2歳で発症し、24時間の介護を受けている女性。彼女を撮影する当時の映像が残されています。世界的名声を得たユージン氏が撮り続けたのは、苦しめられてきた水俣の人々の日常でした。罪もない幼き患者たちを見つめながら、葛藤するユージン氏の肉声も記録されています。
(ユージン氏の音声)
「実子ちゃん、君は一生、恋を知ることはないだろう」
「これまで私は何枚もの写真を撮ってきたが、君ほど私の心をかき乱した人間はいない」
「実子ちゃんにカメラを向けるのは、何か大きな過ちではないかと怖くなるよ。愛おしいよ」

写真集「水俣」は世界に衝撃を与えました。しかし、ユージン氏は取材中に企業関係者から受けた暴力などが原因で1978年にこの世を去り、「水俣」が遺作となったのです。

今月(5月)は水俣病が公式に認定されてから65年。患者らは今も認定や補償を求め裁判で戦っています。

森川:この映画を「今」伝えたい理由は?
J.デップ:今世界に広がっているパンデミックは悲惨な状況になっていますが、水俣も同じぐらい悲惨で、長年にわたり汚染され人の命も奪われてきました。水俣の問題は一度きりの問題ではないと気付きました。
今(コロナで)多くの人が被害を受けたりたくさんの命が失われる中、医療関係者の方々はギリギリの状況で命を救おうと必死です。中には他人の命を救おうと自らの命を犠牲にする人さえいます。「自分さえよければ、私が、私が」という考え方はよくあることで、今に始まったことではありません。こんな今だからこそ私たちの欲望や願望などをもう一度考え直すべき時期ではないでしょうか。

5月16日『サンデーステーション』より

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