熱海“土石流” 緊張の救出現場「助けて」電話も[2021/07/04 23:30]

熱海市で発生した土石流ですが、静岡県は土石流の起点付近にありました「盛り土」の崩落により、被害が拡大したとの見解を示しました。

▽熱海の土石流 発生から一夜明け現場は?
土石流の発生から一夜明けた静岡県熱海市の伊豆山地区。
救出活動が急がれる中、朝から断続的に雨が降り…
「今、緊急速報が流れました。土砂災害危険情報の緊急速報が発令されました。自衛隊や警察官らも避難していきます。」
土砂災害の恐れがあるとの緊急速報が何度も流れ、現場に緊張が走ります。

伊豆山を源流とする逢初川で土石流が発生したのは、3日午前10時半頃。
土石流は、道路上を滑るように下流へ。およそ130軒の家屋が巻き込まれました。
伊豆山を上空から見ると、大きく崩れ落ち、山肌が露わになった場所がありました。静岡県の調査では、崩落は幅100メートル、深さは10メートル以上に達しています。ここにあった大量の土砂が、土石流となったのです。土石流が流れたルートを、あらためて辿ってみると。多数の家屋を巻き込み、地面をえぐり取った様子が見て取れます。さらに土砂は、線路の下を抜けて、市街地へと流れ込みました。

土砂は、店舗や住宅が立ち並ぶ一帯にも押し寄せ、大きな被害を生んでいました。
店を経営する女性は―。
「仕事をしている最中に母から『外見てみな大変なことになっている』と。すぐに窓の外を見たら、こういった映像が。」
まさに土石流が押し寄せてくる瞬間でした。
「お客様にはすぐに避難してと言って、すぐにうちのほうも避難と思ったが、ちょうどあそこの横断歩道手前で土石流が止まったので。」
女性の店は無事でしたが、土砂が流れてきた方角には、母親の友人が住んでいると言います。
「(友人は)4〜5人です。一番ひどい流れてきたところの沿線に住んでいる。本当にどうしていいか分からないね、胸が張り裂けそうというか。」
土砂は、住宅や車などを押し流しながら、逢初川に沿って、海まで流れつきました。土砂が流れ込んだ海では、海上保安庁の潜水士による行方不明者の捜索が行われていました。
河口付近では、土石流に巻き込まれたとみられる女性2人が心肺停止状態で見つかり、その後、死亡が確認されています。

▽土石流の原因は?現場を見た専門家は?
4日午後、現地に入った土砂災害の専門家、静岡大学の今泉文寿教授。
「向こうの家屋を見ますと、水しぶきのような形で泥が飛び上がっているのがわかるんですよね。細かい土砂がかなり多いなという印象をもっています。これはおそらくこの地域の地質によるものだと思うんですけど、火山の噴出物なんかがこの周辺の山には堆積している」
細かな“大量の土砂”に加え、長時間にわたって“大量の水”が供給されたことが土石流発生につながった可能性があるといいます。
「短時間に強い雨が降った場合も土石流って発生するのですが、比較的小規模なものが多いと考えられます。それに対して、今回は3日以上にわたって、合計の雨量がかなり大きくなるような雨がありまして、そういった場合は、大規模な土砂移動が上流側で起きて、さらにそれが大規模な土石流になってくると。」

▽「避難指示」出ず 熱海市の判断に専門家は
土石流を引き起こした雨はどのように降ったのか…雨雲レーダーを見ると、熱海市には、長い時間、強い雨が降り続いていたことが分かります。土石流が発生した伊豆山に近い網代の観測地点で3日午後2時半までの48時間降水量は320・5ミリ。7月1カ月の平均降水量は242・5ミリで、今回は、わずか2日間で1カ月分を大きく上回りました。
土石流が発生する前の日、熱海市は午前10時にレベル3の「高齢者等避難」を発令。その2時間半後、気象庁は避難指示のレベル4に相当する「土砂災害警戒情報」を出しましたが、市は「避難指示」を出しませんでした。
「避難指示」を出す前に、土石流が発生したことについて市長は…
Q.レベル4避難指示の判断はなかったのですか?
熱海市 斉藤栄市長
「昨日(2日)の段階でレベル3(高齢者等避難)出さしていただいた時点で、すでに雨のピークは超えることが予想されておりました。」
Q.3日朝の段階で改めてという考えは?
「午前中で雨量はほとんど止まると予想で聞いていましたので、その時点で(避難指示に)変えることはしておりません。」
熱海市のこの判断に専門家は今泉教授はー
「連続雨量としては400ミリを越えていたんですけど、通常災害があるレベルよりかは少し低いのかなと思います。それでなかなか避難指示を出しづらい部分もあったかもしれません。ただ実際住民の方々が住んでる場所がどれぐらい土砂災害リスクが高いのかと判断するのは難しいと思うので、ハザードマップを確認してリスクを確認していただくのが重要かなと考えています。」
今回、土石流の被害を受けた場所は、熱海市のハザードマップでも警戒区域となっていました。

▽「助けて」電話も 妻の安否不明
捜索活動が続く現場周辺には、行方が分からない家族や知人を探す人たちの姿がありました。
妻の友人を探しに来た男性
「そこに人が、女房の友達が入ってるんじゃないかなと思って。ちょうど一番左側の屋根のあるところだよな、たぶんいるんじゃないかなと思うけど。」
両腕にけがをした男性。土砂で倒壊した自宅から何とか外に出ることができたといいますがー
「ちょうど隙間があったので5分10分で出られましたけど、妹がまだ。現場でも大声出したんだけど応答ない。応答がなくてね。」
高台から捜索の様子を見つめる71歳の田中公一さんも妻と連絡が取れていません。
「あれが女房が埋まっているだろうと思っているアパート」
3日の午前11時ごろ、知人の安否を確認しようと15分ほど家を空けた間に妻の路子さんが残っていた自宅が土砂崩れの被害にあいました。
「安否確認で入ったけどダメだった。茶の間にもいなかったし、玄関から呼びながら入ったんだけど、いつもだったら茶の間にあいつもいるんだけど」
自宅に置き忘れていたスマートフォンをとり、高台に逃げた公一さん。確認すると路子さんから何度も着信履歴があったといいます。
「11時25分に不在着信が来ている。で25分、26分、32分、42分、43分、それから44分、それで気が付いて、俺が47分に発信したけど、応答がなかった」
この時、息子や娘のもとには路子さんから「挟まれているから助けて」と電話があったといいます。
「もうきょう出ないと、ちょっと難しいかな…だけどどこかに生きててくれっていう淡い望みはあるんですね、今でもあるよ。やっと子育てが終わって孫ができて、これで人並みの親の務めが終わったかなという感じ。その話を女房ともしていたんだよね」

▽起点付近の“盛り土”が崩落 被害甚大化の可能性
午後4時から行われた、災害対策本部では、土石流の起点付近には、“盛り土”があり、その崩落が被害を広げたとの調査結果が報告されました。
静岡県交通基盤部 和田直隆部長
「最上流部に存在しました開発行為による盛り土は、上部の一部を残しほとんどすべて崩落している。急傾斜地にある最上流部の大規模崩落が被害を甚大化したものと現時点では推定をしております。」
川勝知事は、土石流との因果関係は明確ではないとしながらも調査を進めると言います。
「住宅造成のための盛り土がされているところ、そこはどうも水路、水が流れる路があったところが造成されている可能性があるとの報告が来ております。上の方に開発行為が見られるというのは歴然たる事実でございますから、この関係は明確にしておかねばならないと。」

7月4日『サンデーステーション』より

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