コロナ新療法『ネーザルハイフロー』現場の医師解説[2021/08/11 23:30]

中等症の患者を対象とした、新型コロナの新たな治療法『ネーザルハイフロー』が広がっています。

鼻に差し込んだ管から、症状に合わせて濃度を調整した酸素を加温加湿して、呼吸よりも早いペースで送ります。

これにより、肺に十分な量の酸素が届き、呼吸が楽になります。

ネーザルハイフローは、コロナ前から、呼吸不全などの治療に使われていましたが、去年春ごろから、ヨーロッパをはじめ、各国でコロナ治療に使われ始めました。

日本では5月に、厚生労働省が新型コロナの診療手引きに追加し、導入する医療機関が増えています。

人工呼吸器を使うような重症化を防ぐことや、患者や医療現場への負担軽減が期待されています。


この治療法を現場で使っている、日本大学板橋病院の權寧博副病院長に話を聞きます。

(Q.感染急拡大の今、現場はどのような状況ですか?)

權寧博副病院長:「ここ1カ月で、重症患者が増えてきていて、特に40〜50代の患者が多い状況です。集中治療室・高度治療室は、ほぼ満床で、診療の機能としてはギリギリの状態になっています」


少しでも体を動かしたら息苦しいなど、呼吸不全の患者は酸素投与が必要な状態で、これまでは『酸素療法』がありました。

酸素療法でも回復しない患者など、自発呼吸で酸素を維持できない場合は、機械が肺の役目を果たし、全身に酸素を送る『人工呼吸器』があります。

ネーザルハイフローは、これらの中間的な治療法ということです。

(Q.酸素療法とは何が違いますか?)

權寧博副病院長:「ネーザルハイフローは、従来の酸素療法とは違い、肺に軽い圧をかけて、呼吸をサポートをしてくれる効果があります。また、鼻から十分に加湿した酸素を肺に入れられることで、気道の粘膜が乾燥せず、他の炎症から肺を守る効果もあります。患者にとっても、口がマスクで覆われないため、会話や食事もできる利点があります」

(Q.医療現場には、どんな効果が期待できますか?)

權寧博副病院長:「ネーザルハイフローは、人工呼吸器が必要な段階になる前に、回復するチャンスを作る手段となります。人工呼吸器は全身麻酔が必要で、状態管理など複数人の医療スタッフが必要になります。患者の回復後もリハビリが必要になる場合が多くなりますので、入院期間が長引き、医療側の負担も大きくなります。ネーザルハイフローの段階で回復すれば、人手があまりかからず、負担軽減につながる可能性もあります」


ただ、患者の口からウイルスを含む飛沫が飛び散って、院内感染につながるリスクがあります。

(Q.日本大学板橋病院では、どのような飛沫対策を取っていますか?)

權寧博副病院長:「治療中の患者は基本的に陰圧室で診ることが推奨されています。また、患者さんにマスクを着けて頂くなど、院内感染のリスクを回避する方法を取っています」

(Q.中等症の患者が増えているなか、この新たな治療法は、現状をどのように打開できると考えていますか?)

權寧博副病院長:「今回の感染拡大は、医療をひっ迫させないためにも、人工呼吸器が必要な人をどこまで減らせるかが1つのポイントになるのではないかと思います。そのなかで、ネーザルハイフローは、重症患者を減らす手段として期待しています」

(Q.この治療法は、日本だけでなく世界で広がっているということですが、装置の確保は大丈夫ですか?)

權寧博副病院長:「現段階では、ギリギリ数が足りているという状況です。助成金が出るなど、医療機関が入手しやすい環境作りはできています。ただ、今後、感染拡大が今以上に続けば、入手困難な状況になると思います。そのため、感染抑制がなによりも重要になると思います」

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