台風制御し電力へ“タイフーンショット”が描く未来[2021/10/15 23:30]

先日、関東に接近し、大雨などをもたらした台風16号の“目”の中に飛行機が入りました。

これまで台風は、宇宙から観測し、勢力や進路を推定してきましたが、より正確性を求めるため、台風の中に入っての“直接観測”が本格化しています。

名古屋大学 宇宙地球環境研究所・坪木和久教授:「中心気圧は気象衛星から推定されているわけですけど、今まで観測されていなかった台風の構造が見られた点は、非常に驚きです」

今回の台風16号も、直接観測した結果、推定されていた勢力より、若干強かったことなどが分かりました。

名古屋大学 宇宙地球環境研究所・坪木和久教授:「台風は海の上でできるので、実態はまだ分かっていないことがたくさんある。実態を知ったうえで、何をすれば制御できるか調べていくことが重要」


さらに、台風の研究に大きな動きがありました。

横浜国立大学では1日、日本で初めて台風を総合的に研究する『台風科学技術研究センター』が開かれました。全国から台風のエキスパートが集まるなか、台風を制御し、そのエネルギーを有効活用するという『タイフーンショット計画』が本格的に動き出します。

トップを務めるのは、台風制御の研究を行っている、台風メカニズムが専門の横浜国立大学・筆保弘徳教授です
筆保弘徳教授:「(Q.台風制御は理論的には可能ですか?)繊細な部分をつつくと、台風の構造が変わったり、勢力が弱まったりするのは、シミュレーションの中でも見えている」

台風は、暖かい海水が蒸発し、上昇気流が生じ、中心部分の気圧が低くなり、勢力を強めていきます。そこで、目の中心に氷などをまき、温かい空気を冷やすことで、気圧の低下をわずかに抑え、勢力を落とすことができるといいます。

筆保教授は、制御した場合、どのくらい勢力が落ちるか、進路が変わるかなどのシミュレーションを行っています。

関東などに大きな被害をもたらした、2年前の台風15号で検証してもらいました。
筆保弘徳教授:「目の中30〜50キロ四方の所に、大量の氷をまきます」

氷の量や位置など、条件を入力し、シミュレーションした結果、風速が2〜3メートル落ちました。わずかでも勢力を抑えられれば、被害を大幅に減らせるといいます。

筆保弘徳教授:「風速3メートル落ちただけでも、建物被害は30%ぐらいまで抑えられる。金額にすると、約1800億円の軽減になる。もっと勢力を抑えられる方法が見つかる。それを始めるのが今から」

シミュレーションのモデルとなった、千葉県鋸南町。爪痕は今も残っています。

『タイフーンショット計画』で未来は変わるのでしょうか。
筆保弘徳教授:「苦しんでいる人たちを助けられるか、挑戦しなければという思い。台風の研究をしている以上は、絶対にやらないといけないという使命感が強い」


制御をするだけでなく、台風が持つエネルギーを有効活用しようという研究も進んでいます。

横浜国立大学の満行泰河准教授によりますと、台風のエネルギーは膨大で、勢力の強い台風だと、日本で消費されるエネルギー約8年分に相当するといいます。

まだ実験の段階ですが、例えば、台風の風を利用して、無人船のスクリューを回転させて発電し、台風の影響で停電が起きた時に、台風のエネルギーで発電した電気を使う構想もあるといいます。

満行准教授は「2050年までに台風の脅威を恵に変えたい」と話しています。

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