1959年 夢の超特急 新丹那トンネルで起工式[2021/11/06 20:00]

大きな花輪が「日本国有鉄道総裁」の名前で供えられます。
1934年に開通した丹那トンネルの工事で亡くなった人の慰霊碑です。
落盤や水が出たほか、関東大震災や北伊豆地震にも見舞われ、67人の犠牲者が出ました。

その、伊豆半島の北端を貫く東海道線の「丹那トンネル」の北側に空いているトンネルの入り口は「新丹那トンネル」です。

東京オリンピックに合わせて1964年10月に開業する東海道新幹線の起工式は
この新丹那トンネルの東側、熱海口で1959年4月20日に行われました。
開業のわずか5年前のことです。

衆参両院議長や地元の首長、そして、この2日後に辞表を提出する永野護運輸大臣らが参列しました。

起工式は朝10時から始まりました。
安全を祈り、神事が執り行われます。

東海道線に使われている丹那トンネルは1918年(大正7年)の着工から1934年(昭和9年)の完成まで16年かかりましたが、東海道新幹線の新丹那トンネルは貫通までわずか3年、開業まで5年という突貫工事です。

実は戦前、東京から下関を経て、朝鮮半島から大陸まで鉄道で結ぶ「弾丸列車」が計画され、用地買収も進められていました。
第二次世界大戦の戦況が悪化し中断されますが、新丹那トンネルも、一部掘り進められていたのです。

東海道新幹線で最も難工事になると予想されていたのが、この「新丹那トンネル」でした。

起工式のため準備されたつるはしと鍬は、金色です。

東海道新幹線の建設を計画した国鉄の十河信二総裁が玉串を奉納します。
翌月が任期満了だったため、留任か勇退か去就が注目されていましたが、開業の直前まで、陣頭指揮を執りました。

永野運輸大臣が続きます。
国鉄総裁人事では、当初十河氏の交代を主張していましたが、この頃には留任するよう進言していたといいます。

背後で人事をめぐる駆け引きが続く中、起工式の神事は滞りなく進みます。

鍬入れをしたのは十河総裁、上田健太郎幹線工事局長はつるはしを3度振り下ろしました。

十河総裁が挨拶に立ちます。
「国鉄職員が一丸となって、
新しい時代の国民の鉄道としてご期待に沿い得るような
立派なものを作り上げる決意をここに誓う」と語りました。

永野運輸大臣は「新線の建設は(国鉄の輸送力の増強に役立つばかりでなく)
我が国の経済、文化の発展と国民生活の向上に大きく寄与をするものである。
その規模、建設の期間などにおいて、我が国鉄創設以来の画期的大事業で、
国鉄が工事の完成に努力されるよう切望する」と祝辞を述べたということです。

ビールで乾杯です。出席者の顔がようやくほころびました。

新丹那トンネル、およそ8km、
そして東海道新幹線、東京―新大阪間556kmの工事が始まります。


東京・千代田区にある東京会館です。
東海道新幹線の着工披露パーティーはここで開かれました。
会場に入る出席者を、新幹線建設を計画した、十河国鉄総裁が出迎えます。

金屏風の前には新幹線の測量図が置かれました。
東京から新大阪を3時間10分で高速鉄道で結ぶのです。

立食形式のようで、大きなテーブルに豪華なごちそうが並びます。

この大事業の披露パーティーには、各界の著名人や多くの芸能人も招かれました。
徳川夢声さんの姿がみえます。
映画の活動弁士出身で、司会や文筆業でも活躍した大スターです。

一万田尚登さんの顔も見えます。
戦後、日銀総裁を務め、この前の年までは大蔵大臣でした。

十河総裁の挨拶に大きな拍手が送られました。

乾杯の音頭は松野鶴平参議院議長がとりました。

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起工式から3年、貫通間際の1962年9月9日の映像です。
新丹那トンネルの東側、熱海口からは間組が、
西側の函南口からは鹿島組が請け負いました。

工事中のトンネル内部の映像です。
掘削機やコンベアーなどのさまざまな重機が活躍しています。
すでにトンネルの両端が見えないほど、掘り進められました。

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そして迎えた9月20日。
新丹那トンネルの熱海口に日章旗と、「貫通」の看板の文字が見えます。

トロッコで入坑する作業員に笑顔も見えます。

坑道の奥に作業員が集合しています。
発破のスイッチを押すのは国鉄の島秀雄技師長です。

坑内に万歳の声が響きます。

貫通した穴を通って、両側から掘り進んできたふた組が、がっちり握手を交わします。
冷酒が酌み交わされ、今度は乾杯の声が響き渡りました。

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1964年5月27日、新丹那トンネル熱海口です。
国鉄の藤井松太郎(ふじい・まつたろう)技師長がテープをカットしました。
実際の新幹線の車両を使用して、入線テストを実施します。

「夢の超特急」が東海道新幹線で最長の新丹那トンネルを初めて通り抜けた瞬間です。

テストは順調です。

難航が予想された新丹那トンネルの大工事。
大規模な崩落などはなかったものの、
トロッコにひかれるなどして21人が殉職しました。 

新幹線の開業まで、あと4か月です。

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