脱成長の真意は…人新世の『資本論』斎藤幸平さん[2021/12/16 23:30]

コロナ禍の去年に出版され、異例の大ヒットとなっている「人新世の『資本論』」は、賛否双方の声が上がりました。その著者である大阪市立大学・斎藤幸平准教授に、大越健介キャスターがインタビューを行いました。

大越キャスター:「なぜこれだけ人々に支持されたと思いますか」

斎藤准教授:「やっぱり危機の瞬間には、これまで当たり前としていた価値観が大きく揺らぐからだと思うんですね。今回のようなコロナ禍がやってきて、人々の収入は下がったり、場合によっては仕事も失って、家も失って、もっと人々の健康とか、経済の安定とか、命みたいなものに重きを置いた社会があってしかるべきなのに、何でないんだろうというふうに、多くの人たちが気が付くわけですよね」

「人新世の『資本論』」では、資本主義の下では、利益追求ばかりが優先され、一握りの富裕層だけが豊かになっていく。その在り方を問いながら、社会が“進むべき道”を訴えています。それは、未曽有のパンデミックがもたらした、新たな“気づき”でもあります。

斎藤准教授:「成長そのものにブレーキをかけていく必要がある。これを『脱成長』と呼んでいる」

斎藤准教授が訴える「脱成長」。その真意とは。

大越キャスター:「斎藤さんは、このコロナ禍の2年というものをどうご覧になってますか」

斎藤准教授:「コロナ禍で、これまでの資本主義社会が抱えていた矛盾があらわになったなと感じています。一個が“格差”の問題ですね。多くのエッセンシャルワーカーが、非常に低賃金で長時間労働を強いられている。一方で、テレワークができるような人たちは、安全なところで快適な仕事をしながら、お金をものすごくもうけているけど、エッセンシャル(不可欠な)ワークかと言われると、恐らくそうではない。ここの“分断”が非常にハッキリと表れてきている」

この2年で顕著になったことが、2つあると言います。一つは、格差や分断といった“ヒト”の問題。もう一つは“地球そのものの危機”です。

斎藤准教授:「“大量消費型”の社会が地球の在り方を変えていくなかで、コロナウイルスも引き起こしている。もっと長期的に見ると、それが気候変動という大きな環境危機に結びついていく」

大越キャスター:「コロナ禍は、地球の悲鳴を、私たちが耳にした瞬間なのかもしれないですね」

「人新世」とは、人類の経済活動によって地球が大きく変化した年代。まさに“今”を表した言葉です。

それはSDGsを唱えるだけでは止められない危機だと、斎藤さんは主張します。今、求められるのは、資本主義の下での成長をやめること。つまり『脱成長』です。

斎藤准教授:「もっと働いて、もっとお金を稼いで、新しいものを絶えず買って。このベクトルの背後にあるのが、経済成長こそが豊かな社会の前提という考え」

大越キャスター:「経済成長が前提であるというのは、今、日本の政治の議論、例えば国会も始まりました。成長と分配というのが言われています。成長は絶対必要なんですと、成長を否定する声はないですよ、今、日本の中で。『脱成長』は、成長を否定するということですか。それとも成長とは違うところに価値を見出すということですか」

斎藤准教授:「これ以上、成長を続けて、より幸せになれるだろうか。むしろ、今あるパイは十分すでにあるんじゃないか。私たちが貧しい、日々の生活が苦しいのは、十分にモノがないからではなく、一部の人たちが多く取りすぎているからじゃないか」

成長を追い求めてきた社会が、今さら『脱成長』に変わることなど、できるのでしょうか。

大越キャスター:「人間って競争したがるもので、お金はたくさん儲けたがる、成長し続けたがる存在。それって人間の本性の部分でもあるのではないか。つまり、人間の本性と違うことをやるには、相当なエネルギーと変革が必要なのではないか。それは可能ですか」

斎藤准教授:「これをうまく調整するのが、制度の役割。例えば、日曜日は店を休みにするとか、週休3日制を導入するとか、所得税や法人税に、もう少し課税すれば、お金もうけをしても国に取られてしまう。『あまり働かないで違う活動をしよう』と考える人も出てくる」

そして、平等な社会実現のため、こんな提案も。

斎藤准教授:「皆が必要とするもの、例えば水や電気、インターネット、教育、医療、介護、そういうものを共通財産=『コモン』として、皆で管理する」

教育やインフラは民間の利益から切り離し、市民に共通の財産=『コモン』とすることで、生活の安定を保証するという社会システムです。

大越キャスター:「僕ら戦後民主主義の日本で生きてきた人間からすると、共産主義じゃないのか。マルクス主義、マルクスの資本論というものに対して、距離を置いてみてしまうところがある。崩壊した旧東側の体制とは違うんですか」

斎藤准教授:「『何でも国有で管理していけばいい』が、20世紀の社会主義だった。国や官僚に任せるのではなく、市民たちが水や電力、教育などを管理する『参加型の社会主義』を作ることができれば、人々は生活を安定させることができる」

大越キャスター:「成長にとらわれないところに、実は本当の豊かさがあるのかもしれない」

斎藤准教授:「“本当の”というのは分からないですけど、少なくとも今の豊かさと違う豊かさが存在するのに、なぜ経済成長という豊かさだけを重視する社会にしてしまったのか。お金にはならないかもしれないけど、人々が幸せに感じたり、別の意味で豊かさを感じられるなら、それのほうがいい道なんじゃないか」

こんな記事も読まれています