“とにかく勝てない”野球賭博 シノギは細く長く 逮捕の暴力団幹部2人は自ら集金も[2022/02/03 20:00]

警視庁に摘発されたのは、野球賭博。暴力団幹部の男2人が逮捕された。
特殊詐欺を資金源とする暴力団が多い中、古典的とも言える野球賭博を続けていた理由とはー

1月31日、「春の選抜高校野球」で男女9人に賭博をさせていたとして、東京・杉並区に住む指定暴力団住吉会の3次団体の組長と事務局長が警視庁に逮捕された。

2人は、2019年に開催された選抜高校野球大会の優勝校と準優勝校を予想させる賭博を行った疑いがもたれている。客は“知人”の30代から50代の男女9人で、仕事は建築業、内装業、飲食業などだった。

この野球賭博。とにかく勝てない。32の出場校を8つのグループに分け、その中から優勝校、準優勝校が入った2グループを客に予想させる。選択肢は36通りだ。賭け金は1口1000円で、オッズは4倍から120倍。計算上は当たれば最高で12万円の配当が入る。ただ当該の大会では、5度目の優勝を果たした東邦高校(愛知)と習志野高校(千葉)が同じグループに入っていたこともあってか、当てることができた人はおらず、136口分の賭け金13万6000円は全て男らの懐に入った。

2人は「10年くらい、春と夏に2回、合わせて20回はやっていた」「春の大会で50万円、夏の甲子園では70万円ほど集まった」「どの大会も、的中させる客はいても1、2人だった」と容疑を認めている。賭け金の30%は手数料で、残りの70%は予想を当てた客への配当金だったという。しかし、警視庁はこれまで勝てた客は少なく、配当金も含めほとんどが2人の懐に入ったとみている。その総額は1200万円だ。どうしてここまで客が勝てないのか、なにかカラクリがあるのか、警視庁もまだつかみ切れていないという。

なぜ、2人は野球賭博を続けていたのか。近年、暴力団対策法の度重なる改正や暴力団排除条例の全国的な整備によって、暴力団は「食べていけない仕事」になりつつある。“ビジネス”は暴対法で縛られ、みかじめ料、用心棒代など、名目問わず、金品を要求できなくなった。銀行から融資も受けられないし、口座も開設出来ない。生命保険にも入れないし、賃貸物件にも入居できない。“できない事”だらけなのだ。

警視庁の幹部は「厳しい制限の中、自分たちが関わった全ての人たちを“金”に変える“シノギ”として野球賭博を選んでいた」とみている。2人は客の人数を大きく拡げることなく、関わりがある地元の顔見知りに限定していた。みかじめ料、用心棒代として金を払わせればトラブルになりやすく、“被害者”として警察に駆け込まれる可能性も高まる。ならば、「賭博」の形で金を集めればトラブルにもなりにくく、客も違法行為をしているという罪悪感から警察には相談しにくいと考えていたとみられる。実際、過去10年間で警察に情報を提供した客はいなかった。稼いだ金は年間120万円、10年間で1200万円。少なく見えるが2人にとっては大事な収入源の1つだった。

ネットや「特殊詐欺」などで潤う暴力団関係者がいる一方で、昔ながらの方法でしか金を集められない今回のような暴力団関係者もいる。SNSを上手に使えず、闇サイトで集めた“アルバイト”に犯罪行為を手伝わせることなどができない者は上納金の支払いもままならない。逮捕された2人も、客からの集金を自らやっていたという。


社会部 警視庁担当 石塚翔

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