「搬送できていたら」高齢者施設の父急変 遺族葛藤[2022/02/20 22:30]

20日の全国の新規感染者数は7万1489人。ピークアウトの兆しが見える一方、死者は過去最多レベルのまま高止まりしています。中でも深刻なのが大阪です。クラスターが相次ぐ高齢者施設で何が起きているのでしょうか。

▽「搬送できていたら」父を亡くした遺族 悲痛
(Aさん)「もしその時に搬送できていて、そこで『手の施しようがないですね』と言われたのだったら、これは“父の寿命だった”と受け入れることができたかもしれないですけど、これは「仕方ない」で済ませていいものなのかなっていう、葛藤があります。」
高齢者施設でクラスターが発生し、Aさんの父親も感染。
82歳と高齢で、基礎疾患がありましたが、愛知県では、病床が逼迫していて、「原則 中等症以上」の患者しか入院できません。施設での療養を余儀なくされる中、容体は急変しました。
(Aさん)「SpO2(血中酸素飽和度)が74%まで下がったということで、施設のほうから救急搬送の要請をしたんですけれども、どこも満床である、コロナに対処できるところがないということで、救急隊の方は帰られまして、搬送できなかった後も施設のほうでみるようにということになったので、そのまま施設にとどまりまして」
Aさんの父親は、高齢者施設で、十分な治療を受けられないまま亡くなりました。
(Aさん)「本人も意識があるということだったので、それは本当に苦しかっただろうと思いますし。夜中に急変の連絡をもらって、本当だったら駆けつけたかったですけど、(感染対策で)それもかなわなくて、父の人生の最期にこんな苦しい思いと、孤独な思いをさせてしまったということは、病院のせいでも、施設の方のせいでも、誰のせいでもないですけれども、じゃあどうすればよかったのかなというのはずっとぐるぐる考えています。」
陽性が判明してから、わずか5日。顔も見られないままの別れでした。
(Aさん)「やっと父がお骨になって帰ってきて、やっと触れることができて、好きだったものを供えることができたり、手を合わせることがやっとできるようになって、一気に父を亡くしたんだと今、実感がわいてきています。」

▽民間救急も自ら手配…院長奔走
「まん延防止等重点措置」が、来月6日まで延長された大阪。第6波に入り、死者数が急増。東京を大きく上回り、17日には54人が亡くなるなど、全国最多が続いています。
ここは河内長野市の水野クリニックにある仮設の発熱外来です。
看護師「喉はいつから痛いんですか?」
多い日には、100人近くのコロナ疑いの患者が診察に訪れるといいます。
(水野クリニック 水野宅郎院長)院長「陽性です、コロナです」
陽性率は、7割まで上昇。このクリニックでは、3週間で、およそ500人が陽性でした。
(水野クリニック 水野宅郎院長)「オミクロンはほんとに数で圧倒してくるっていう感じで、めちゃめちゃ陽性率高いです。もうめちゃめちゃ忙しくて、もう猫の手も借りたいぐらいです。」
クリニックの常勤の医師は、水野院長、ただ一人。
(水野クリニック 水野宅郎院長)「できるだけ隔離して、ごはん別、お部屋別、お風呂は一番最後。」
そこに到着したのは…民間救急の車です。水野院長が、重い持病があるコロナ患者に来てもらうため、自ら手配しました。
「息苦しくない?大丈夫?ほんなら点滴すぐするな」
車の中に点滴をもちこんで、その場で治療薬の投与を始めます。
(水野クリニック 水野宅郎院長)「やっぱり早く入れれば、ほとんど重症化しませんので、重症化する前、軽症のうちに介入していくかっていうことを第4波、5波を経験して、今やっと形になってきてるなっていう感じです。」
クリニックでの診療を終えて、向かったのは40℃近い高熱を出している高齢男性の自宅です。
(水野院長)「こんにちは どう?つらい?口あーんして」
体調を崩してクリニックに来られない患者も多いため、水野院長は週に6日、地域を回っています。
(患者)「背中がものすごく痛いです」
女性は糖尿病の持病がありますが、現在、一人で自宅療養しています。
(水野院長)「ごはんあるの?食べ物」
(患者)「きょうは何も食べてないけど…食べる気がしない」
水野院長の判断で、翌日から訪問看護のサービスを受けることになりました。

▽クラスター急増 高齢者施設の現実
さらに今、深刻な事態に陥っているのはー。
(水野院長)「ここはグループホームですね。きのう6人陽性が出たので…」
先月末から、クリニックの周辺でも高齢者施設のクラスターが急増。水野院長は、保健所からの依頼を受けて、陽性となった入所者の治療も担当しています。
その場で結果がわかる検査機器を8台持ち込み、施設内で、感染が拡大していないかを確認します。
この日、新たに1人の陽性が判明しました。
介護スタッフ「マスク持ってきましょうか」
水野院長「せやな、マスクつけてもらった方が良いかもな」
入所者18人全員が認知症で、マスクなど感染対策の徹底も、簡単ではありません。
この施設でも、重症化を予防するため、点滴で投薬をしようとしますが…
看護師「いやー、動かないでお願い。」
看護師「あー!やばいやばい。」
水野院長「動かないでー!」
治療もなかなかスムーズには進みません。この男性、血中酸素飽和度を測ると―
水野「出た出た出た!88%」
水野「危ない、苦しいやろな。」
看護師「酸素つけても外してしまうんですね。
施設の訪問看護師「もう一瞬で外しちゃいます。今、つけてみたんですけど、全然ダメでした。」
この日は、何とか、男性に酸素吸入器をつけて、水野院長は、クリニックに戻ることに―。
(水野クリニック 水野宅郎院長)「介護施設に酸素の機械を置いて診てもらってるっていうことがほとんどなんですけども、正直、医療がやらなきゃいけないことを介護に押し付けてるだけという形になりますね。」

▽「闘う武器」休日返上でワクチン接種
休診日のきょう、水野院長は…
水野院長「ごめんなさいね。ちょっとチクっとするよ」
実はここ、水野クリニックが開設した、ワクチン接種会場。週に一度、500人ほどにワクチンを打つといいます。
水野院長「今はコロナと戦う武器をワクチンであったり、点滴であったりとかを手にしたので、とにかく早く介入して、多くの人を救っていきたいなって思いだけですね。」


2月20日『サンデーステーション』より

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