“性善説”制度に付け込み… 元国家公務員に実刑判決[2022/04/29 05:19]

「被告人を懲役3年6カ月に処す」
4月28日、東京地裁で実刑判決を下されたのは日本銀行券=紙幣を発行する国立印刷局東京工場の元国家公務員でした。


■「サービス業の個人事業主」を装う

被告(22)は国立印刷局に勤めていた2020年6月から8月の間に、友人や知人ら20人を誘い、サービス業を営む個人事業主だと偽って国の持続化給付金合わせて2100万円をだまし取った罪に問われています。

被告はインターネット上のSNSで宣伝するなどして持続化給付金の申請者を募り、仲介料300万円以上を得ていたとされています。被告に誘われて不正受給した20人のうち、11人は犯行時20歳未満でした。


■困窮した人を支援する制度を悪用

持続化給付金は新型コロナウイルスの感染拡大によって収入が前年の同月と比べ50%以上減少した中小企業や個人事業主(フリーランス含む)を支援する制度です。中小企業には最大200万円、個人事業主などには最大100万円が支給されます。被告による一連の事件はすべて同じような手口でした。「2019年の収入が100万円台だったサービス業を営む個人事業主が、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年4月に収入が0円になった」という嘘の申請をしたもので、1回につき100万円の持続化給付金が支給されていました。


■「食い物」にされた制度

持続化給付金の不正受給はこの事件だけにとどまりません。中小企業庁は27日の時点で1186の個人事業主と法人が持続化給付金を不正に受給していたと認定。認定しているものだけでもおよそ12億円がだまし取られたということです。
中小企業庁の担当者はANNの取材に対し、不正受給認定をした人について「学生や主婦などが多い印象」と話します。

支給の申請には前年の収入を証明する確定申告の書類が必要です。認定された不正受給のほとんどが個人事業主として仕事をした実態がないのに収入があったのかのようにうその確定申告の書類を提出していました。中小企業庁は、提出した書類の真偽について2020年8月まではまったく審査せず支援金を支給していたといいます。申請者の本当の職業や収入などについてはノーチェックでした。なぜそのような審査体制だったのでしょうか。


■素早い支給のために“性善説”に立った制度

ちょうど2年前の2020年4月28日の衆議院予算委員会。当時自民党の政調会長だった岸田総理大臣は安倍総理大臣(当時)に対し、次のように質問しました。「今本当に困っている人たちの思いにしっかり寄り添って、性善説に立った迅速な支給、こういったことを心がける、しっかりと徹底させる、こういったことが大事なのではないかと思います」

質問を受けた安倍総理(当時)は「今回は危機であり、まずはそれを乗り越えることを最優先にして、不正などは事後対応を徹底すればよい」と応じました。

そして、持続化給付金制度が始動しました。相次ぐ不正の摘発は、不正の“事後対応”が続いているとも言えます。


■制度の「お膝元」 経産省元キャリアの不正受給も

コロナ禍で困窮した個人事業者や会社を支援するための給付金。「性善説」を悪用したとされる国家公務員は1人ではありません。

元経産省キャリアの被告(29)も不正受給で罪に問われた1人です。手口は、公務員になる前に設立したペーパーカンパニーを使ったものでした。被告(29)は2020年5月から2021年1月までの間、ペーパーカンパニー2社の月収が2020年4月に0円だったとうその申告をし、持続化給付金と家賃支援給付金あわせて約1500万円をだまし取ったとして起訴されました。2021年12月、1審東京地裁で懲役2年6カ月の実刑判決を言い渡されました。

被告(29)は控訴し、21日に東京高裁で開かれた裁判の被告人質問で次のように懺悔しました。「私たちがやってしまったことは困った人が頼る制度を悪用した罪深き行為だと思います。そういう罪深き行為を非常に悔いています。国民・社会の皆様に申し訳ない思いです」。

中小企業庁は支援要件に満たないのに申請して給付金を受け取った人の自主的な返還を求めています。

持続化給付金の返還に関する相談:持続化給付金事業コールセンター 0120−279−292

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