「アルコール消毒では不十分」“原因不明”子どもの急性肝炎 予防法は?専門家に聞く[2022/05/02 23:30]

“原因不明の急性肝炎”が世界の子どもたちのなかで次々に広がっています。

「肝炎」とは、肝臓の細胞が破壊される病気で、ほとんどがウイルス性ですが、アルコールや薬によって引き起こされる場合もあります。症状としては黄だん、腹痛、食欲不振、おう吐などの症状が出ます。

今回の急性肝炎の特徴は、“子どもに重篤な肝炎症状”が多いということで、世界21カ国で少なくとも248人が確認されています。うち21人は肝移植が必要な重篤な症状で、すでに4人が亡くなっているということです。

◆日本小児感染症学会理事長を務める長崎大学の森内浩幸教授に聞きます。

(Q.子どもが急性肝炎で重症化するのは珍しいことですか)

森内浩幸教授:「私たち小児科医が原因不明の急性肝炎のお子さんを診ることは結構ありますが、ほとんどは自然と治っていきます。今回みたいに肝臓移植が必要になるような人が多いものは非常に珍しいと思います」

急性肝炎になった子どものなかには『アデノウイルス』に感染した子どもが多いという特徴があります。アデノウイルスは100以上の型がありますが、流行性角結膜炎(はやり目)、プールを介して感染する咽頭結膜熱(プール熱)、感染性胃腸炎などの原因になるということです。

アメリカ・アラバマ州で検査した9人は全員、アデノウイルスに感染していました。イギリスでも検査した53人のうち、40人がアデノウイルスに感染していたということです。WHO(世界保健機関)は、アデノウイルスが変異した可能性もあると指摘しています。

(Q.アデノウイルスとの関連をどうみますか)

森内浩幸教授:「アメリカやイギリスで型までしっかりと分かったものは、41型という感染性胃腸炎を起こすようなアデノウイルスだということが分かっています。これは免疫の力が非常に落ちている人、例えば移植の後といった人であれば、肝炎を起こすことがありますが、健康なお子さんで重症の肝炎を起こすことは知られていません。ですので、このアデノウイルスで起こったと単純に断言することは現時点では難しい。何かプラスアルファの要因が加わっている可能性が高いと思います」

(Q.アデノウイルスが変異した可能性についてはどう考えますか)

森内浩幸教授:「アデノウイルスはコロナウイルスやインフルエンザウイルスのように簡単に変異をするものではないと思います。重症の病気を起こす変異が起きたとしても、世界各地で同時多発的に起こることはなく、どこかで起こったものが世界中に広がっていく形だと思います。しかし、国境を越えての人の移動が少ない今、こんなに広がっていくのは難しいと思っています」

(Q.他に考えられる要因はありますか)

森内浩幸教授:「小さい子どもたちは、次から次にかかる色んな感染症に対して、自然免疫が働きます。コロナ時代で色んな感染症対策をしっかりするなか、自然免疫を発揮できない形で何年も過ごしていると、その力が弱っていく可能性はあります。そうしたなかで感染症にかかった時に、思いのほか重症化する可能性はあると思います。ただ、こうした形で他のウイルスにかかって重症化したという事例は報告されていないので、現時点では可能性の一つです」

(Q.どんな対策を取るべきだと考えていますか)

森内浩幸教授:「アデノウイルスの41型は、便の中に出てきたウイルスが口の中に入ることで感染します。ですので、コロナ時代に行っている感染対策をきちんとすることによって防ぐことができます。ただ、アデノウイルスはアルコールだけで十分に消毒することができません。石けんを使って流水で洗い流す形でウイルスを落とす必要があると思います。そこをきちんと行う限りは、決して感染しやすいウイルスではありませんので、過度に恐れる必要はないと思います」

こちらも読まれています