「デブリと評価」も…福島第一原発1号機 格納容器底の物体 取り出しに“総力戦”を[2022/05/28 11:30]

 東京電力は26日の会見で、福島第一原発1号機の水中ロボット調査で見つかった数々の堆積物が「燃料デブリと考えるのが妥当」との評価結果を示した。「何をいまさら」と思う方もいるだろうが、これには理由がある。水中ロボットで高い値の中性子線を測定したことから、近くに核燃料由来の物質=燃料デブリ(以下『デブリ』)があると考えるのが妥当、との判断に至ったのだ。ただ、どの塊、堆積物がデブリかは、今後詳しく調べるという。
 およそ2800℃で溶け落ちた核燃料集合体は、圧力容器の底を突き破って、格納容器の底に落下した。その際、炉内の金属やコンクリートなど様々な構造物を巻き込んだデブリの一部は、圧力容器本体を支える基礎部である「ペデスタル」の内部に留まり、一部はペデスタルの開口部から格納容器の外周部に流れ出た。想像の世界だった事故の進展とデブリの生成過程が、物理的に裏付けられつつある。

■調査、進めば進むほど

 だが、デブリ取り出しの道は依然として遠く、厳しい。前述したように、今回の調査では、デブリがペデスタルの中だけでなく、格納容器の外周部にも広がっていると評価された。東電によると、現在、2号機格納容器への投入準備が進められている、横向きにデブリに迫るロボットアームでは、外周部には近づくことはできないという。では、上からはどうかというと、これもまた難しい。下に行けば行くほど広がっている格納容器の形状から、圧力容器の上部から、格納容器外周部のデブリにアクセスすることもほぼ不可能であることは、東電自身も認めている。さらに、今回の調査では、外周部にある「ジェットデフレクター」という、圧力抑制室につながるベント管の入り口付近にも堆積物が見つかった。それがデブリであったとしたら、デブリがベント管内部に落下している可能性も否定できない。

 記者はこれまで、2号機燃料デブリの試験取出しに使用されるロボットアームが、わずか1グラムのデブリ取り出しを前提にしていること、そのロボットアームで持ち上げられるのは10キロが限界であることを、繰り返し指摘してきた。今後、そのロボットアームの性能をいくら強化しても、外周部にあるデブリや、ベント管に落下した可能性のあるデブリに近づくことは不可能だろう。現在のロボットアームとは全く異なるコンセプトの「何か」が求められるのは間違いなさそうだ。

■原子炉の健全性に“懸念”

 「(炉心を支える)ペデスタルの支持力がことのほか落ちていたらどうなるのかというのはしっかり考えておく必要があるだろうと思います」。
25日の定例会見で原子力規制委員会の更田豊志(ふけた・とよし)委員長はこのように述べ、1号機ペデスタルの耐震性に強い懸念を示した。というのも、今回のロボット調査で、ペデスタル開口部付近に本来あるべきはずのコンクリート壁がなく、むき出しの鉄筋の姿がカメラに収められていたからだ。熱い塊と化したデブリが開口部から外に流れ出た際、周辺の厚さ約1・2メートルのコンクリート壁を溶かし、鉄筋だけが残ったと推測される。更田委員長は1号機が「改めて大きな地震に襲われた時に、地震荷重が加わった時(東電の)評価通り耐えられるのか」と述べ、規制委としても監視し、耐震性に注目していく考えを示した。

 一方、東電は、ペデスタル底部の鉄筋コンクリート壁のおよそ4分の1を失い、残る4分の3にも相当のダメージを受けたとしても「耐震性は問題はない」との試算を示した。ただ、東電としてもペデスタル内の調査を進め、改めて耐震評価をするとしている。

■必要となる“総力戦”

 デブリは格納容器外周部まで広がり、一部はベント管内部に落下している可能性もある。ペデスタル内のデブリ取り出しですら有効な取り出し方法が確立されていない中、調査が進めば進むほど、難題が増えていく。しかも、ペデスタルの底部は溶け、さらに広い範囲が損傷している可能性もある。ペデスタルだけでなく、原子炉全体の健全性すら疑われているのだ。

 来月25日、日本原子力学会廃炉委員会が、春のシンポジウムを開催する。扱われるテーマは「デブリの生成過程と取り扱い」「燃料デブリ取り出しとロボット技術」の2つだ(予定)。廃炉最前線の研究者たちは、こうした難題にどのように答えるのか、注目される。福島第一原発の廃止措置には、国と東電だけでなく、国内外のアカデミズムやシンクタンク、企業の英知を結集した“総力戦“が必要とされているのだ。

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