専門家に聞く「サル痘」 恐れる必要はない?ワクチンは?[2022/06/03 22:13]

欧米で感染報告が相次いでいるサル痘について、その特徴や対策を札幌市保健所感染症担当部長の西條政幸(さいじょうまさゆき)氏に解説してもらいました。西條氏は国立感染症研究所の名誉所員も務めています。

――サル痘とはどのような病気ですか
サル痘ウイルスは、天然痘と同じ仲間のウイルスで、それによって引き起こされる感染症です。人が感染した場合には天然痘と似た症状が出ます。感染した初期は風邪と同じように発熱、全身倦怠感、頭痛などの症状から始まって、徐々に体表面に水疱性の病変や発疹が現れます。致死率は数パーセントで、病原性が高い型ではときには致死率が10%を超えることがあります。

――人にはどのように感染しますか
サル痘は、もともとアフリカで生息しているネズミなどのげっ歯類のウイルスです。そのため、感染経路の一つは、例えばネズミを食べる。またはネズミが排泄(はいせつ)したものなど、そのウイルスに汚染された環境において感染します。もう一つは、西アフリカからペット用として輸出されたネズミ類の動物から、プレーリードッグという別の動物にそのウイルスが入り込んで、その病気になったプレーリードッグをペットとして飼った人が感染するケースがあります。

――人から人への感染はどのようにして起きるのでしょうか
人間が直接感染した場合に、発症すれば濃厚接触をすることで人から人への感染が起こります。比較的濃厚な接触がないと感染はせず、例えば感染しているときに近くでくしゃみをするとか、体液がかかるといった濃厚な接触がない限り感染はしません。ですので、通常の日常生活で、このような接触をしない限り感染するということはありません。注意してほしいのは、性的な接触でも人から人に感染します。

――サル痘はこれまでもたびたび確認されてきた病気なのでしょうか
この病気が見つかったのは1970年代です。特にコンゴ民主共和国ではその流行が比較的頻繁に起こっています。例えば1970年代から90年代くらいの時期に確認されただけで約1000人の患者が確認されています。今回はヨーロッパなど、アフリカではない地域で流行が起こっていますが、それらの地域でもそれほど頻繁に起こったわけではないけれども、初めてのことではないということです。

――今回の欧米などでの感染拡大についてはどう見ていますか
流行地では同じようなことはこれまでも起こってきたと言えます。ただ200人を超える患者がでていて、これはアフリカ国内での流行に比べても大きいといえます。つまり、今回の流行は、やはり特別な事象、初めての事象だと思っています。この流行における患者の数、地理的な広がりは非常に大きいものだと思います。患者の数といい、感染が起こっている流行の期間も長くなる可能性があるので、そういう意味では大きい流行になります。

――今回の感染拡大の背景は何なのでしょうか
サル痘には天然痘ワクチンが極めて有効でワクチンを受けている人は発症しない、そのくらい天然痘ワクチンが有効とされています。このワクチンを受けていないのは、特に40代後半以下の方々で、感受性のある人が大多数を占めます。それから感染経路が接触感染であるということ。いわゆる経済的に恵まれている先進国などの人は仕事や観光などで移動をする機会が多いため、そういったことから多くの国で患者が発生していると考えられます。

――なぜこのタイミングなのでしょうか
感染の拡大は今年が初めてではなくて、2003年にアメリカでも起こっています。決して今回のことが何かの背景で起こったわけではなくて、感染が起こるリスクの中で我々が生活していて、まさに今気がついたということになります。もし仮に今回の流行が収まったとしても、これからもこういった流行は起こりえるわけです。ある意味、新型コロナウイルスも同じ構図で、人間社会の中にコウモリの中から何らかの経路でウイルスがはいりこんで、そして人から人への伝播の中で流行が起こったと言えます。ただ新型コロナウイルスのようにサル痘が世界的な流行に広がるリスクは極めて小さいと考えています。

――なぜ「世界的な流行に広がるリスクは極めて小さい」といえるのでしょうか
1つは、人から人へ感染するそのメカニズムです。症状がないときに感染するということはなくて、体の中や体表面に症状が出てくる水疱性の病変の中にウイルスがたくさんいるのです。だから患者さんを早く見つけることによってその広がりを抑えることが可能だということです。また、接触しない限り感染はしません。わからない間に感染するということは
あまりないのです。新型コロナウイルスは症状が出る前から人から人にうつる場合があるのでコントロールが難しい側面がありますが、サル痘、天然痘も含めて人から人への感染は症状がある人からうつります。ですので、世界的な大規模流行にはなりません。ただこの流行は時間が経てば、それぞれの地域で患者さんは出てくるだろうと思っています。過去に、人から人への伝播が無制限に広がったという事例はないので、しっかりと冷静に見ていくことが大事だと思っています。

――近いうちに日本国内に流入する可能性はありますか
もちろんそれは可能性があります。ただ、そのリスクを恐れ過ぎる必要はないと思っています。やはり流行地、特にいま現在では欧米ですが、そういったところで診断される前の患者さんが潜伏期間の間に日本に戻るとか、日本国内に旅行で来るとか、そういったことで
日本国内で患者さんが発生するリスクはあると思っています。

――どういったことに気を付ければよいですか
個人レベルでいえば、過剰に恐れる必要はないということです。知らない間に感染するということはあまりありません。ただ大事なことは、どんな病気なのだろうかとか、どのように人から人に感染するのか、世界の流行状況はどうなっているのか、情報をしっかりと把握することが重要だと思います。それには政府や国立感染症研究所など、感染症対策に責任のある機関から適切な情報が配信されるというようなことが大事かと思います。また、日本国内に入ってくることを前提にしなければいけません。リスクは低いとはいえ、しっかりと見つけることが大事なのです。そのためのシステムを構築する必要があります。1つは医療従事者がサル痘ウイルス感染症の疑いの患者さんを診た時に、これはサル痘感染症かなと疑うようなことも重要です。そして疑ったときには検査を依頼します。それから、地方自治体なども含めて疫学的な情報をしっかりと収集して、検査がいつでも適切になされるような準備をしておくというようなことが重要だと思います。

――有効な治療薬は存在するのでしょうか
国際的に、天然痘のバイオテロ対策などの側面を考えて抗ウイルス薬の開発がなされています。いくつか効果が動物実験の中で認められている物があります。ただこれがウイルスの増殖を抑える機能を持っていたとしても、発症した人に投与して効果があるのかというと効果は期待できないかと思います。ですから現時点では治療薬はありません。
ただ望みがあるのは、天然痘ワクチンが非常に効きます。第三世代の安全性が担保されたワクチンが2種類ありますが、そのうちの1種類は日本国内にもあります。私たちの研究で、ウイルスに感染する数日前にワクチンを打つことによって、軽症化が期待できるという成績を得ています。患者がでたらその周りの方々に、または接触したと思われる方々にワクチンを打つことによって、広がりを抑える、発症を予防すること。そして、たとえ発症しても軽症化が期待できます。こういった対策で治療や広がりを抑えることを考えるのが適切な方法だと思っています。

――ワクチンの備蓄は国内にあるのでしょうか
備蓄はされています。ただサル痘のために備蓄しているわけではないので、自由に使えるということではありません。すでに昔ワクチンを受けている方は問題ないですが、若い方は免疫がないので、ワクチンというのは重要になると思います。

テレビ朝日社会部 厚労省担当 上田健太郎

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