業務スーパー創業者が「地熱発電」に挑戦 世界3位の眠れる資源活用「やりとげる」[2022/06/12 10:30]

ウクライナ危機や円安を背景に燃料価格などの高騰が続く中で、注目されているエネルギーがある。地熱だ。
4つのプレートが地下にひしめき合う火山国・日本は、「地熱大国」でもある。その地熱を利用した発電に、まったくの異業種から飛び込み、挑んでいる人物がいる。
全国で960店舗以上を展開する「業務スーパー」の創業者・沼田昭二さん、68歳。業務スーパーの経営を長男に引き継ぎ、2016年、地熱開発などを行うための新会社「町おこしエネルギー」を立ち上げて日本全国を奔走している。

エネルギー自給率が主要先進国の中で最低の11.2%と突出して低い日本だが、地熱資源量は米国、インドネシアに次いで世界第3位。
一方で、実際に導入されている設備容量は世界10位、全発電電力量に占める地熱発電の割合も、わずか0.3%と極端に低い。
異業種から地熱発電に挑戦する沼田さんをテレビ朝日アナウンサーの山口豊が取材、日本がいかに「眠れる資源」を活用してエネルギー自給率を高めていくべきか、その道筋を考える。

●熊本の山中で「地熱発電所」建設中

熊本空港から車でおよそ1時間。
大分県との県境に位置する小国町(おぐにまち)わいた温泉郷は、集落のあちこちから、視界をさえぎるほどの蒸気が湧きだす、地熱資源の豊かな場所だ。
地域では、蒸気を使って野菜を蒸し、地面からの熱を利用して洗濯物を乾かすなど、古くから地熱と上手に共生してきた。

その集落から、4輪駆動車に乗り換え、車一台がようやく通れるほどの細い山道を、20分ほど登っていくと、深い山の中に突然、高さが40メートルという巨大なやぐらが姿を現す。
ここが、沼田さんが開発している地熱発電所の建設現場だ。

現地では、掘削作業の終わった生産井(せいさんせい)と呼ばれる井戸の横で、二本目の井戸の掘削工事が行なわれていた。最長、地下約1キロの深さまで掘るという掘削現場で沼田さんはこう語った。
「地熱発電の場合は、どんな理由があっても24時間安定的に発電するということが求められます。そのため万が一、生産井が止まったり減衰したりした時用に、補充井として二本目を掘っています。」

この地熱開発現場では、すでに噴気テストも終わり、1時間に50トンもの蒸気量が確認された。これにより5千キロワット、約8千世帯分の電力を賄う能力があるという。小国町の約2倍の世帯の電気が、この1本の井戸から生み出されるのだ。
この地熱発電所は来年12月に完成し、再来年の4月に稼働する予定だ。売電収入は年間14億円が見込まれている。

●異業種から地熱に挑む理由

それにしても「業務スーパー」の創業者である沼田さんが、なぜ熊本の山奥で地熱開発を行なっているのか…?素朴な疑問をぶつけると、こんな答えが返ってきた。
「今足元でロシアとウクライナの問題がありますよね。私は前職の業務スーパーの仕事柄、世界中に500回以上行っているんですけど、その中で、こういう地政学的なリスクは常に感じています。日本が将来高齢化、少子化となって、貿易黒字が貿易赤字になっていく、一番大きな赤字は化石燃料の輸入なんですね。これはできるだけ早い時期に止めないといけないんです。」

日本の鉱物性燃料(原油、石油製品、液化天然ガス、石炭など)輸入総額は、19.8兆円(2021年度財務省貿易統計)。
円安が進み資源価格の高騰が続けば、今後はさらにこの額が膨らむ恐れがある。
沼田さんは、資源のない国と言われ、人口減少や国力の低下が指摘される日本の将来を考え、純国産エネルギーである地熱の開発に挑んでいるのだ。

●24時間安定、“究極の”クリーンエネルギー

地熱発電は地下1000〜3000メートルの深さに存在する地熱貯留層まで井戸を掘り、マグマにより熱せられた熱水と蒸気をくみ上げ、蒸気だけを分離してその勢いでタービンを回し発電する。分離され使われなかった熱水は再び地中深くまで戻される。
地熱貯留層は計画的に利用すれば、化石燃料のように枯渇する心配もなく、永続的に使用が可能だという。

掘削現場を前に、沼田さんは地熱のメリットについて熱く語る。
「地熱の場合、ボイラーは地球ですので、燃料もいらない。そして24時間安定です。再生可能エネルギーの中でも一番環境に良いエネルギーなんですね。施設の減価償却が終わる15年目以降は、大体5円/キロワットアワー以下で発電ができると思います。もう燃料も何もいりません。例えばバイオマス発電で毎日同じだけの発電をしようと思えば、100トン、200トンの木材がいります。それをチップにして24時間、くべます。地熱ではそういう作業がいらない。いるのはバルブが一つだけですね。」

天候に左右される太陽光発電や風力発電と違い、地熱発電は約7割という高い設備利用率を誇る。
地熱が、1年を通じて安定して発電するベースロード電源として期待される所以だ。CO2の排出量も再エネの中で水力と並んで最も少ないという、究極のクリーンエネルギーとされている。

●それでも地熱が広まらない本当の理由

では、なぜ、日本でこれまで地熱開発が広まらなかったのか。
温泉組合との合意形成に時間がかかることや、国立公園内の開発に規制があることなどが指摘されている。

しかし、沼田さんは最大の理由をこう説明する。
「地熱発電は地下1キロ、2キロの世界ですので、なかなか成功する確率が悪いんですね。5本とか10本掘っても1本しか当たらないんです。外れた場合には、埋め戻さないとダメです。埋め戻すということは、何も残らないんですね。何も残らないということは数千万、数億円を全部一括損金処理しないといけない。これは上場会社には非常にやりにくいことです。上場会社では株主さんがいらっしゃるためにそういう失敗、リスクを犯せないんですね。」

上場企業にはリスクが大きすぎるというのだ。
そこで、沼田さんは、新会社「町おこしエネルギー」を立ち上げた。
「町おこしエネルギーは上場会社ではありませんので、リスクのある地熱開発に前向きにどんどんトライできる立場です。これを私としては残りの人生をかけて、すべてやっていきたいと、そういう強い覚悟をもっています。」

●北海道産の馬で耕作放棄地を整備

「町おこしエネルギー」という社名には、沼田さんの想いが込められている。地熱エネルギーの開発と同時に、町おこしを手掛けることを大前提にしているのだ。

沼田さんは地熱で得られる温水を利用して、日本の食料自給率を上げるための様々な挑戦も行なっている。
小国町の地熱掘削現場に向かう山道の途中には、いくつもの温室が設置され、シジミや東南アジア原産のオニテナガエビ、バナナやパッションフルーツなどを、地熱を利用して育てるための準備が進められている。
そこでは、20人ほどの地元の若い人たちが働き、地元の雇用創出にも貢献しているのだ。

 掘削現場に向かう途中の原野で馬の群れが目に飛び込んできた。70頭以上が放牧されているという。
小国町の掘削現場周辺はもともと、約300ヘクタールに及ぶ耕作放棄地で、ススキなどが人の背丈以上に生い茂る状況だったというが、私たちが取材した際には、周辺はきれいに整備され、なだらかな牧草地がどこまでも拡がっていた。
整備したのは、なんと北海道から運んできた、あの馬だという。

「ここはもともと20〜30年以上耕作放棄地になっていたんです。ただトラクターも重機も傾斜が30度以上あるので入ることができません。そこで、北海道和種の道産子を放牧して、馬が全部ススキも笹もきれいに食べて、耕作放棄地を元に戻してくれたんです。」


北海道から道産子を連れてきて、熊本の荒れ地を整備…。何ともスケールの大きな話だが、それを実現してしまうところに、業務スーパーを急成長させた敏腕経営者の発想力を感じる。

●「必要なものは自分たちで作る」業務スーパーの哲学

沼田さんは、たたき上げの苦労人だ。
高卒で三越に入社。その後独立して、布団カバーや野菜、水産物の行商で生計を立てていた。そこから、時価総額1兆円を超えるまでに業務スーパーを成長させたカギは、「本当に必要なものは自分たちで作る」という独自の経営哲学にある。
小売業であっても、売るだけではなく、ものづくりも行なうという、“製販一体型”のビジネススタイルを確立しているのだ。

その「製造」を支えるのは25カ所の自社工場。自分たちの生産ラインで自分たちの商品を製造しているのだ。これにより、店で売れたものの情報と工場側の在庫の情報を共有し、リアルタイムで在庫管理が出来る仕組みを作り上げた。
無駄を省き、コストを大幅にカットし、きわめて高い利益率を実現している。

業務スーパーに行くと、各店舗の中央には巨大な冷凍ケースが設置されている。実は、あの冷凍ケースも自社で独自開発したものだ。
日本人の身長に合うよう高さを抑える一方、奥行きを広く、深く設計。通常の冷凍ケースの約1.5倍の容量がある。
一袋が大きい業務スーパーの商品でも段ボール一箱分がそのまま入れられる。補充の回数を減らせるのだ。

こうした業務スーパーの哲学は地熱開発でも貫かれる。
「必要なものは一から設計する考え方は、今後の地熱の成長に必ず必要だと思います。例えば、自走式の掘削機械を一からつくりました。」

オリジナルの自走式掘削機は北海道伊達市の山中で稼働している。
通常の掘削では、やぐらを組むだけで1週間以上かかるというが、キャタピラーで自走し、現場に着いた数時間後にはアームを伸ばして掘削を始められるため、時間の短縮につながった。調査費用も、およそ2億円から6000万円に減らすことができたという。

●若い後継者を育てたい…「学校」を開設

地熱開発で今、日本が抱える大きな問題の一つが、人材不足だ。
1970年代のオイルショックを受けて、当時、日本各地で次々に地熱発電所が建設されたが、開発には時間やコストがかかること、失敗するリスクがあること、さらに、原発に比べて発電の規模が小さいことなどから、次第に国のエネルギー政策としても地熱は重要視されなくなり、長らく冬の時代が続いていた。
その後、東日本大震災で福島原発事故が起き、原発の代替電源として再注目されはじめたが、新規の開発をしようにも、掘削にあたる技術者の高齢化が進み、若い人材が圧倒的に足りないという問題が起きているのだ。

そこで沼田さんは、北海道白糠町(しらぬかちょう)に地熱に関する学校までつくり上げた。日本初となる、掘削に関する技術を学べる「掘削技術専門学校」だ。この学校では、実際に地熱開発の現場で使われる機材が用意され、掘削シミュレーターなど最新の設備も導入。地熱開発の最前線に立ってきた第一人者ら専門家が講師を務めている。

沼田さんは語る。
「掘削業者の方々のほとんどが60歳代とか70歳代になっているんですね。あと10年もすれば、この日本の特殊な技術が全て無くなるという危機感を常に持っています。世界で第3位のポテンシャル、資源量があり、技術も日本にはある…。しかし、その日本の技術継承がされていないんです。次の世代のために、必要なものは必ず自分の信念のもと作り上げるというのが私の考えです。それが、この学校を建てたきっかけにもなっています。」

●大病を乗り越え…日本の将来への強い想い

沼田さんが地熱開発にこれほどの情熱を注ぐのには理由がある。
 50歳の時に甲状腺がんを患い、生存確率は1年後が10%以下、2年後は1%以下と宣告された。ステージ4で、広範囲にわたる摘出手術を受け、一命を取り留めた。
さらに、60歳の時には脳幹梗塞で、3日以内に50%の確率で亡くなると家族は聞かされたという。何カ月ものあいだ右半身の手も足も顔面も動かなかったそうだ。

死んでもおかしくない経験を2度もしながら奇跡的に生還しているからこそ、沼田さんは今、地熱開発に人生のすべてをかけている。
「この地下に世界で3番目の資源があるのは事実なんです。それがいろいろな問題があって出来ていないのも事実です。そこに注力して解決して次世代の子どもたちのためにやり遂げなければいけないと、この気持ちは強く持っています」

沼田さんには、日本の現状に対する危機感と将来への強い想いがある。
「便利さは追求されていいと思いますし目の前のことも大切ですけど、やはり、将来も見ないといけないんですね。そのバランスが、今の日本人には忙しすぎて見られてないんじゃないかと思うんです。5年先、10年先に起こることに対して、対応できる人は必ず対応すべき責務があると思っています。
例えば、企業のトップが、足元の利益を考えるときに当然効率のいい方にだけ行くんですね。そういう繰り返しが、大切なワクチンの国産化に対応できなかったとか、一時はマスク不足にも対応できなかったということにつながっていますね。とにかく割安なところ、一番便利な方に行くんじゃなくして、何割か大事なものは自国でキープしないと、いざというときに対応できないんですね。そういうものが日本にたくさんあります。」

 振り返れば、かつて世界をリードした国産の太陽光パネルは、国を挙げて開発を進めた中国勢に席巻され、風車も日本勢は大手企業の撤退が相次ぎ、純国産の大型風車メーカーはほぼなくなった。さらに、蓄電池も中国・韓国勢に抜かれ、日本は大幅なリードを許しているという厳しい現実がある。
一方で地熱発電用のタービンは、日本のメーカーが全世界の6割以上のシェアを占め、依然としてトップなのだ。

私たちの足元に眠る世界第3位の国産エネルギー、地熱。
沼田さんのもとには、全国の市町村から地熱開発の依頼が寄せられ続けている。

テレビ朝日アナウンサー 山口豊

こんな記事も読まれています