なぜ“米インフレ”で24年ぶりの円安に?“Twitter経済解説者”後藤達也氏に聞く[2022/06/13 23:30]

急激な円安が続くなか、13日に一時、24年ぶり1ドル=135円台前半まで下がりました。この半年で約20円と“異例”の「スピード円安」が起きています。

日本銀行・黒田東彦総裁:「最近の急速な円安の進行は、先行きの不確実性を高め、企業の事業計画策定を困難にするなど、経済にマイナスであり望ましくないと考えている。我が国経済にとって大事なことは、円安で収益が改善した企業が設備投資を増加させたり、賃金を引き上げたりすることで、経済全体で所得から支出へ前向きな循環が強まっていくこと」

円安を“望ましくない”としながらも、現在の低金利政策を維持する姿勢を崩していません。

急激な円安の原因は、アメリカのインフレにあります。1年前と比べ、食品は約10%、ガソリン価格も50%ほど値上がりするなど、アメリカの消費者物価指数は過去40年で最も高い水準を更新しました。

市民:「普段は60ドル(約8000円)で満タンになる。今は100ドル(約1万3400円)かかる。」

市民:「食べ物の値段が上がっている。バーガーキングやマクドナルドで食事したら20ドル(約2700円)。どんな対策があるか分からないが、解決してもらわないと」

このインフレを抑え込むため、アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が今後も大幅な利上げを続けるという観測が強まり、円を売ってドルを買う動きが加速しました。

秋からの留学を控えた大学生にとっても大きな痛手となります。一橋大学法学部3年・田辺翔子さん(21)は、滞在中の家賃を少しでも節約するため、ルームメイトとシェアをする予定ですが…。

田辺翔子さん:「私が今住みたいと思っているところは(家賃が)1000ドル。1ドル=130円だと13万円、1ドル=110円だと(家賃が)11万円。その2万円の差は、1年続けたら24万円。学生にとってはかなり大きな金額。ふだんの食事とかも制限しないといけなくなったり、経済的な状況次第ではそういったことも考えられるのでは」

円安などの影響で、10カ月間の留学費用は想定より100万円増える見通しです。

田辺翔子さん:「金銭的負担が円安のせいで大きいので、かなり親に負担をかけていることを自覚しながらも、行くからには頑張って成果を出して帰ってきたい」


◆ニューヨークにいる中丸徹記者に聞きます。

(Q.どのような影響が出ていますか?)

暮らしていて値上がりを感じるのは、ガソリン・食料品、とりわけ肉類です。現在、358グラムの牛肉が15.79ドル(約2130円)となっていますが、去年は約11ドル(約1200円)だったと記憶しています。

統計だと、1年前に比べて10%程度の値上がりになっていますが、肉・卵・牛乳などの生鮮食料品に限ると、ニューヨークで暮らしている肌感覚としては3〜5割値上がりしている感じがします。さらに、日本人にとっては、円安が進んでいくと、円としての負担が高くなったと感じています。

ニューヨークではコロナ禍による制限がほとんどなくなりましたが、オフィスに戻った人は約4割にとどまっています。理由は治安の悪化もありますが、外食が値上がりするなか、リモートワークの方が食事代が節約できると気付いたからという人もいます。

一方、富裕層の消費は旺盛です。例えばこの夏の旅行は“リベンジ消費”と言われ、盛り上がっています。ただ、一般の方にはじわじわと物価高による負担がのしかかってきています。


◆日本経済新聞の元記者で、SNSなどで分かりやすく経済情報を発信している経済ジャーナリスト、後藤達也さんに聞きます。

(Q.現在の状況をどう見ていますか?)

この数カ月の変化でいうと、インフレは3〜4月でピークアウトするのではないかという期待も、エコノミストの間では多くありました。ところが期待通りにはならず、10日に発表された消費者物価指数では、5月分が4月をさらに上回るインフレ率になっています。

その結果、アメリカのFRBはより強力な利上げをしていかないと、このインフレを抑えられないのではないかという懸念が強まっています。

一方、日本では、値上げのニュースが広がっているものの、アメリカと比べるとマイルドな状況です。日本は、需要が鈍い状態なので、小麦や原油の値上がりが波及した面が大きいです。そのため、日銀としては一時的なインフレになると見ているので、FRBとは対照的に金利を上げず「粘り強く金融緩和を続けていく」と言っていることから、金利差が開いて、より金利が乗っているドルを買う動きが強まっています。

(Q.日本にとってこの円安は良いことですか?)

“良い円安”という点では、輸出企業の利益が増加します。トヨタのような輸出企業にとっては潤うことになります。関連する生産や雇用にも波及するプラスの効果があります。さらに、円安で日本のレストランやホテルがお得に感じるため、外国人観光客が増える可能性もありますが、コロナの規制が落ち着けばとなります。

“悪い円安”では、輸入企業の利益が減ったり、コストが上がり、それが電気代や食品などの値上げに波及します。個人としては、賃金が上がりにくい状況で、企業がやむを得ず値上げすると、買い物がしづらい。経済全体で見ると、消費が弱ってしまうことは悪い面です。

どちらの面が大きいのかは、専門家の間でははっきりと結論が出ていません。海外生産が増えたことで、円安になっても輸出が増えにくい効果があったり、外国人観光客もコロナの影響で入ってきにくくなっています。円安の良い面が10〜15年前と比べてあまりないという点があるので、全体としては悪い印象が増えてきています。


(Q.円安の原因となる量的緩和をやめる可能性はありますか?)

日銀の黒田総裁は「緩和を続けていく」とはっきり示しているため、17日に日銀の金融政策決定会合がありますが、ここでの利上げはないと思います。しかし、現在の急激な円安は歴史的です。13日は一時135円台でしたが、年明けは115円くらいでした。半年で約20円動くというのは、今世紀入ってからあまりないような変動です。

“良い円安”“悪い円安”と分けて話しましたが、これほど激しく動くこと自体、予算ががらりと狂ってしまい、企業が困ることになります。激しい円安が進むようであれば、日本経済にとって良くない面もあるので、日銀はこうした要素も考えなくてはならないと思います。

政府の間でも、円安・物価上昇を警戒するような声も出てきています。参院選では野党もここを一つの焦点としていく雰囲気もあります。仮に国民から「円安はけしからん」「物価上昇は何とかしないといけない」という機運が盛り上がってきた場合、政府から日銀に対して「緩和を続けることは本当に良いことなのか」という圧力としてかかる可能性があります。

日銀は独立性があるので、政府の言うことを必ずしも聞くわけではありませんが、一体で動かなければいけない面もあります。政治の風向きによっては、政策の路線が変わることもあると思います。

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