「ローマの休日」と「原爆」の意外なつながり 映画の“モデル”が伝えた長崎の被爆者[2022/08/07 22:30]

長崎に原爆が落とされてから9日で77年。
実は「長崎の原爆」と不朽の名作「ローマの休日」には“ある繋がり”があります。
2つを繋ぐ人物が、ジャーナリストのピーター・タウンゼンドさん。
どんな関係があるのでしょうか?

▽「ローマの休日」“モデル”が描いた原爆
映画史に残る不朽の名作「ローマの休日」。ある国の王女と新聞記者の恋を描いた作品です。
実はこの物語にはモデルとなったと言われる人物がいます。それが…
イギリスのマーガレット王女と、王室の侍従だったピーター・タウンゼンドさん。
王女と、貴族でも御曹司でもない一般男性の恋は、当時、世間を騒がせました。しかし、二人は破局。
その後、ピーターさんはジャーナリストとして活動を始めます。そんな彼が生涯をかけ取り組んだ取材、それが「長崎の原爆」だったのです。

27年前にこの世を去ったピーターさん。その娘、イザベルさんです。

(森川アナウンサー)
Q.なぜあなたのお父さんは原爆に興味を持ったのですか?
(ピーターさんの娘 イザベル・タウンゼントさん)
「戦争の犠牲になった子どもたちの取材をしていました。戦争による子どもたちへの爆撃は人類に対する最も恐ろしい犯罪でしょう。父は通訳を通じて谷口さんに出会ったのです。」
(長崎で被爆した 谷口稜曄さん)
「地球上に一発たりとも核兵器を残してはなりません。」
「谷口さん」とは、16歳の時、郵便配達の途中で被爆し、「赤い背中の少年」と呼ばれた谷口稜曄さんのこと。谷口さんは2017年にこの世を去るまで、生涯をかけ核廃絶を訴え続けました。そんな谷口さんをピーターさんは丹念に取材し、世界に伝えたのです。なぜピーターさんは谷口さんに興味を持ったのでしょうか?その理由が肉声に残されていました。
(ピーター・タウンゼントさん)
「僕は戦争で人々を殺してしまった。だから物書きとして伝えなければいけないんだ」
第2次世界大戦時、エースパイロットだったピーターさん。戦争で多くの命を奪ってしまったことに、罪の意識を持ち続けていたのです。

(イザベルさん)「戦争が終わったあと、彼を苦しめたのは『記憶』です。人が死ぬ場面や、音や悪夢に悩んでいました。
(森川アナウンサー)「お父さんは空軍のパイロットで、谷口さんは被害者だった。なぜ彼らは磁石のように引き付けられたのでしょうか?」
(イザベルさん)「(父は)政府の命令で戦争に行かされたのです。彼はそうしなければならなかった。人を殺さなければならなかった。とても耐えられないことです。私は想像もできません。国のために人を殺さなければいけないなんて。だから、父が平和を必要とする気持ちはそこからきているのだと思います。戦争に行って戦わなければいけない、という苦しみから生まれたのです。平和な世界を願っていたと思います。そこが戦争、原爆の被害者である谷口さんと父を結び付けたんだと思います。」

この日は、谷口さんの月命日。娘の澄江さんが、生前、谷口さんが大切にしていたというものを見せてくれました。
(谷口稜曄さんの娘 澄江さん)
「タウンゼントさんが(取材の)お礼に書いていかれたらしいです。画鋲の跡があるから食事するところの壁にずっと張っていたんじゃないですかね。」

「あなたの“意志の力”と“勇気の物語”に深く感動し心から感謝の気持ちを伝えたい」
亡くなる直前まで交流を続けたという2人。
(谷口稜曄さんの娘 澄江さん)
「すてきな関係だったのかなと。そんなにずっと通ってくださる方っていなかったと思うんですよ。こころを動かされるでしょうし「伝えてください」って感じでね」

(イザベルさん)「(谷口さんは)もう二度と悲劇が繰り返されないように自らの経験を伝えようとしていました。私の父も同じことをと考えていました。」
(森川アナウンサー)「2人の目標は同じだったのですね」
(イザベルさん)「2人ともゴールは似ていたのです。」
(森川アナウンサー)「核兵器廃絶ですよね?」
(イザベルさん)「核兵器の廃絶と平和に対する深い願いです。」

イザベルさんは、父ピーターさんと谷口さんの交流を探るため長崎を歩きました。その様子が映画化され、現在、公開されています。
ロシアによるウクライナ侵攻。プーチン大統領は核兵器の使用を示唆する発言を繰り返しています。
(谷口稜曄さんの娘 澄江さん)
「いやもう父が聞いたら怒ってますよね。ましてや使おう…絶対父は怒ってますね」

(イザベルさん)「父が生きていたらもちろん大変心配するでしょう。政治家や政府の手に委ねられる市民や子どもたちは何の責任もありません。被害者です。不公平そのものです。いま、私は父を理解できていると感じているんです。」

「核兵器廃絶」を訴え続けたピーターさんと谷口さん。二人の声が届く日は、いつ来るのでしょうか。

(谷口稜曄さん)
「ノーモアナガサキ、ノーモアヒバクシャ、ノーモアウォー」

8月7日『サンデーステーション』より

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