重症リスク患者に限定 水際対策・全数把握を見直しへ 現場負担は?コロナ医師に聞く[2022/08/23 23:30]

政府は一日の入国者数の上限を、現在の2万人から5万人に引き上げる案などを、検討していることが分かりました。

さらに、現在、日本に入国するには出発前72時間以内の陰性証明をなどが必要になりますが、政府は早ければ来月にも、ワクチン接種などを条件に入国前の検査を免除する方向で最終調整しています。

そしてもう1つ、見直しを求められているのが“全数把握”です。

日本医師会・松本吉郎会長:「医療現場が極めてひっ迫している状況。ある種の悲鳴が聞こえてまいります。特にHER−SYSによる全数把握運用の見直しについては、何とか早急に検討していただきたい」

全国知事会も緊急声明を取りまとめ、政府に柔軟な対応を求めます。

全国知事会・平井伸治会長:「全数把握をやっているが、リスクの高い人に限ってやって、一定程度、情報共有には意味があるし、私たちもフォローしたい」

そうしたなか、政府が全数把握についても見直す方針であることが分かりました。政府関係者によりますと、医師に報告を義務づける対象は重症化リスクが高い高齢者などに絞ることを検討しています。

加藤勝信厚生労働大臣:「現場からの要望に応えていける。そのやり方を模索している。こうした形というのが確定できれば、早急に手続きを進めていきたい」

症状の把握を必要とする重症化リスクの高い人のなかには、人工透析を受けている患者も入るとみられています。

北九州市にある人工透析が必要な患者を受け入れる小倉記念病院では、23日の午前1時に1人、午前5時にも1人、呼吸困難を訴える透析患者が搬送されてきました。その後、どちらもコロナ陽性と診断されています。

小倉記念病院では、透析とコロナの治療を続けるため、2床だった透析患者用のベッドを22日から6床に増やしましたが、対応できるスタッフと透析の機械の数は限られています。

小倉記念病院・金井英俊副院長:「特に第7波も、この2週間くらいが急増しています。スタッフを日替わりで補填しているので、非常にギリギリの現状。(スタッフは)コロナ専任という形になるので、普通の透析業務にも支障が出る」

新型コロナに感染した透析患者は7月に入ると急増。1週間で100人以上増えている週もあります。

防護服に身を包み、隙間をテープでとめて病室に入る看護師たち。感染対策や透析の準備を含めると、患者1人の対応に約7時間かかることもあるといいます。

小倉記念病院・金井英俊副院長:「軽症と思っていても、急に重篤化する可能性が十分ある。週3回透析を受けないといけないくらい、腎機能が廃絶している。肺に水がたまって呼吸困難になり、それに感染症が加味すると、非常に呼吸状態が急速に悪化するということで、迅速な透析を含めた対応が必要」

透析患者が新型コロナに感染した場合、原則入院とされていますが、北九州市内で入院できない人は26人(23日時点)います。

透析患者用の病床がひっ迫している現状は、北九州に限ったことではありません。横浜に暮らす佐藤朱さん(58)は、慢性腎不全のため、10年以上透析治療を続けています。8月上旬、コロナに感染しました。

佐藤朱さん:「陽性になっても透析は受けないといけないので、保健所から車の手配とかお願いしていただいた。いくら車の手配をしてくれるとは言っても、マンションの下まで歩かないといけないとかもあったので、熱があった時ぐらいは入院できれば良かった」

しかし、保健所からは入院の指示はなかったといいます。高熱が続くなか、民間の救急車で週3回、クリニックに通いました。

全国で少なくとも約35万人いるといわれる透析患者。続けなければ命に関わります。

佐藤朱さん:「やはり透析がないと死に直面してしまうので、コロナになっても透析できる環境は、国か自治体か分からないですけど、把握して整えていただければ」

23日に確認された全国の感染者は20万8551人で、前の週と比べて4万人以上増えました。さらに、亡くなった人は343人と過去最多となっています。

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最新の病床使用率を見ると、43都府県で50%以上となっています。50%以下は北海道・岩手など4道県のみで、最も高いのは、神奈川の89%、次いで青森の84%となっています。

◆コロナ患者の治療を続ける東京歯科大学市川総合病院の医師・寺嶋毅教授に聞きます。

(Q.寺嶋教授は先週「全数把握をやめると感染状況のトレンドが分からなくなる」というデメリットを上げていましたが、この見直し案はどう評価しますか?)

入力する対象を絞るのは賛成です。65歳以上の感染者は東京で15%くらい。基礎疾患がある人を加えても20%程度なので、感染者の80%は入力しなくてもよくなり、かなりの負担が軽減されます。

一方で、基礎疾患を持つ人は、それをしっかり医師に伝えないと観察対象から零れ落ちてしまう懸念もあります。特に若年層では、定期健康診断を受けず、基礎疾患があるのに自覚していない人もいます。そうした感染者で容体が急変したケースもあるので、抜け落ちがないように把握できるシステムが必要だと思います。

(Q.全国知事会からは、季節性インフルエンザのように『定点把握』の導入を求める声が上がりました。今回は導入が見送られるということですが、将来的には選択肢として考えられますか?)

あると思います。定点把握が、インフルエンザのように1週間分まとめて報告となると、感染状況を把握できるのは翌週となり、タイムラグができてしまいます。導入するにしても、どの病院で観測するかの医療機関の選定や、届け出のタイムスケジュールなどの検討が大事です。

リアルタイムに近いペースで感染状況を把握しようとすると、病院の負担も大きくなるので、そうならないようなバランスのすり合わせが大事になってきます。

(Q.負担がなく全数把握できる方法があれば、そちらの方が良いですか?)

そうですね。病院の負担を軽くしつつも、きちんと状況を把握しておくことも必要だと思います。

(Q.より多くの外国人観光客の受け入れを望む声も高まっていますが、一方で、沖縄など観光地では病床がひっ迫したり、宿泊施設が県外からの人で埋まる状況もあります。水際対策を緩和する場合、どんな準備が必要だと思いますか?)

例えば海外から来た人が感染した時に、軽症で入院には至らないケースでも、ホテルなどの待機場所の確保が問題になります。私たちの病院でも、他県の人がけがで来院し、たまたま受けた検査で陽性になり、待機場所の調整に追われたことがありました。

本来病院の業務ではない調整に時間を取られ、医療体制がひっ迫することも懸念されるので、例えば病院から宿泊療養施設へのコーディネートなどのサポート体制の整備が一つ挙げられます。

もう一つ大事なのは、新たな懸念すべき変異株が海外で出た時には、水際対策をすぐ戻せるか、そうした準備はしておくべきかなと思います。

(Q.変異が終わったと考えてはいけないということですか?)

今後も出る可能性がありますし、これまでも新たな変異が出て大きな波を迎えました。柔軟・迅速な対応を取れる準備をしておく必要があると思います。

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