藤井五冠が「王位」防衛に王手 「一気の寄せは神の領域」 “八冠独占”の可能性は[2022/08/25 21:09]

将棋のお〜いお茶杯第63期王位戦七番勝負第4局は、藤井聡太五冠(20歳、王位、竜王、叡王、王将、棋聖)が挑戦者の豊島将之九段(32)を下し、3勝1敗でタイトル防衛に王手をかけた。

豊島九段の新型コロナウイルス感染にともない対局が延期され、2週間ぶりの実戦となったが、中盤から徐々にリードを広げ、最後は“一気の寄せ”で勝利をつかんだ。

藤井五冠の最近の対局をほぼすべて見ているという「藤井ウオッチャー」飯島栄治八段は、本局について「今年一番の会心譜」と絶賛、特に「一気の寄せはすでに神の領域」と評する。

4月から6月にかけて、対局数の激減により調子を崩していた藤井五冠だが、7月以降は6勝1敗と完全に復調したようだ。

果たしてこのままタイトル防衛を続け、夢の「八冠独占」へ駆けあがるのか。
飯島八段の見解を聞いた。

■ 「藤井さんらしい最短の勝ち方」

対局2日目、豊島九段の封じ手「△8六銀」が読み上げられると、ABEMAの将棋中継でも、解説の棋士たちから驚きの声が上がった。
「8七」にある藤井五冠の歩で取られてしまうところにあえて打った銀。前日の棋士たちの予想でも全く上がっていない手だった。

ただ、ABEMAの将棋AIでは、それまで互角だった形勢が、この手を機に藤井五冠優勢へと傾き始める。

飯島八段は「△8六銀は少し無理筋だった」としたうえで、「本局は藤井さんの差し回しが凄かった。確実にポイントを上げていきました」と指摘する。
 
ハイライトは終盤、91手目だ。
既に藤井五冠が勝勢と見られている中で、多くの棋士が、自陣に歩を打って手堅く守ると予想していたところ、藤井五冠は豊島陣に銀を打ち込み、王手をかけたのだ。

これは駒を渡しても自玉は詰まないと読み切っていなければ踏み込めない思い切った手。
この「一気の寄せ」に対して豊島九段も懸命に反撃、藤井玉に迫るが“詰み”は無く、結局、投了せざるを得なかった。

飯島八段は「藤井さんらしいギリギリかつ最短の勝ち方」と評し、こう話す。

「自玉が詰まないのを読み切る技術もさらに上がっている感じですね。もはや“詰む詰まない”は藤井さんにとっては難しい要素はないのかもしれません」

そして…
「藤井さんの今年一番の会心譜だったと思います。“一気の寄せ”は既に神の領域でミスがありません。底知れない感じですね」

■ 「不安要素なし」 8大タイトル独占は…

2022年度の藤井五冠は対局数の少なさに苦労し、特に4月から5月にかけて“不調”とも言える状態に陥っていた。

だが永瀬拓矢王座との棋聖戦五番勝負第2局、追い詰められた終盤に「△9七銀」という起死回生の“名手”を放ち勝利。これをきっかけに上昇気流に乗った。

そして王位戦も3勝1敗でタイトル防衛に王手。飯島八段は言う。
「確実に調子は上がってきています。100%の状態だと思います」

五冠を保持するゆえの対局数が少ない状態は依然として続いている。
7月21日の王位戦第3局の後は、20日あけて順位戦A級2回戦(菅井竜也八段に敗戦)。
さらに、王位戦の第4局が豊島九段の新型コロナ感染により延期されたため、対局の間隔は順位戦から2週間あくこととなった。

ただ、飯島八段はそれほど心配する必要はないと言う。
「将棋の内容を見る限り全く不安要素はありません。対局が少ないのは続いていますが、その日程サイクルにも慣れてきたのかもしれません」

今後は王位戦に加え、竜王戦(広瀬章人八段が挑戦者)でもタイトル防衛をかけた戦いが始まる。
その先にあるのは…果たして夢の「8大タイトル独占」はあり得るのか。
「六冠、七冠は現実になるかもしれません。全冠はどうか…わからないですね。ネックは順位戦ですね」

渡辺明名人への挑戦権を争う順位戦A級、藤井五冠は2回戦を終えて1勝1敗。
残り7局を戦ってトップにならなければ史上最年少名人の夢が潰えてしまう。

だが飯島八段は、記録への期待もさることながら、藤井五冠の将棋そのものを楽しんでいる。
「見ていて楽しいんです。勉強になりますし、将棋の深さを感じます」

「凄くないですか?」の口癖が将棋ファンにはすっかりお馴染みとなっている飯島八段。
今後も、藤井五冠の“凄さ”を伝えていきたいと意気込んでいる。

「プロがちゃんと藤井さんのすごいところを言わないと、と思っています。日々、レーダーで藤井さんの終盤をずっと監視するような… 見逃してしまうと、良い将棋を伝えられないことになってしまうので」
「今後もまた『藤井さんの終盤、“凄くないですか”』ってABEMA中継で言いたいですね」

テレビ朝日報道局 佐々木毅

こちらも読まれています