「作ったもの送るなよ」を乗り越え福島で根付く未来の農業 古着で育てる“復興の花”[2022/09/23 23:30]

東日本大震災を経て、被災地・福島県では、新しい“農業”の形が始まっています。

浪江町の阿部仁一さん(84)。田んぼは、もうすぐ収穫の時期です。一面に広がる、実りの秋。長い避難生活の間も、想い続けてきた光景です。しかし、そのすぐ隣にあるのは、使われないままの『休耕田』です。

震災から11年が経った今もなお、浪江町では、農業を再開できたという人は約1割。この状況を打破しようと、地元の米を使った新たな取り組みが始まっています。

現在、建設されている工場では、通常の石油からできたプラスチックではなく、米を原料とした“バイオマスプラスチック”が作られています。

プラスチックを焼却した際に出る二酸化炭素。原料を石油から米に置き換えると、その米は育つ際に二酸化炭素を吸収するため、削減できるという仕組みです。

すでに製品化もされていますが、ここに“浪江町の米”を使うことには大きな意味があるといいます。
バイオマスレジン福島・今津健充社長:「耕作放棄地になると、土地自体が死んでしまう。資源米にすることによって、土地自体を、常に田植えに向いた状態に維持することで、食用のお米に植え替えることも可能」
いつか帰ってくる人たちのために。そんな思いで、浪江の田んぼを生かし続けます。

震災後に始まった、新しい農業の形。それは、川俣町にも息づいています。南米が原産の花『アンスリウム』。震災後に町を挙げて栽培に取り組み、今では、川俣町が日本一の生産量を誇ります。

生産組合の一人、谷口豪樹さん(35)の農園では、1万3000株を栽培しています。この『かわまたアンスリウム』の栽培で使われるのが、本来、捨てられるはずだった“古着”です。

どのようにして、古着が土の代わりになるのでしょうか。

愛知県岡崎市のリサイクル会社。ここで仕分けられた古着は、最終的に市内にあるフェルト工場で再利用されます。工場では、古着を加工して、車の内装用のシートなどを製造していますが、その工程で余るのが、切れ端の部分。これをさらに細かく裁断し、加工することで、土の代わりになる“ポリエステル媒地”ができあがります。

繊維であるポリエステルを使うことで、適度な水分を保つことができ、通気性もよく、肥料を調節しやすいなど、さまざまなメリットがあります。

震災後に悩まされたのが、土壌汚染による風評被害。そこで、近畿大学の田中尚道教授らが提案したのが、この栽培方法でした。
スマイルファーム・谷口豪樹代表:「農業を2018年に始めて、震災から6〜7年経ってるけど、埼玉の友だちに『お前の作ったもの送るなよ』と冗談で言われたときに、すごくショックというか、『あ、こういうことか』みたいな」

しかし、“土を使わない栽培”によって、徐々に風評を払拭。その美しさや、長持ちするとの評判から『かわまたアンスリウム』は、全国区の人気を誇る花になりました。

谷口さんが思い描く未来とは。
スマイルファーム・谷口豪樹代表:「アンスリウムは復興の花。しっかり成功させることで農業を持続させる。もっと下の世代が『農業をやりたい』と思わせなければいけない。ドキドキするきっかけを、これで作れると思った。『週末、川俣に行こうぜ』とか、ひとりでも多く思える場所を作りたい」

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