「誰にも頼れなかった」思いがけない妊娠…なぜ相次ぐ孤立出産をなくせないのか[2022/10/14 18:00]

マンションのゴミ捨て場、コインロッカー、駐車場…今年に入り、国内で赤ちゃんの遺体が遺棄されていた現場だ。相次ぐ事件、そのほとんどで母親たちが逮捕されている。思いがけない妊娠をした女性たちは、なぜ誰にも相談できず孤立してしまうのか。孤立を経験した女性や多くの孤立女性を支援してきた団体を取材すると、「誰にも頼れなかった」人たちの事情が見えてきた。

■「堕ろすしかない」家族にもパートナーにも頼れなかった女性

2年前、仙台市に住む女性(当時19)はこれまでにない体調の悪さに苦しんでいた。
「10日間くらいずっと具合が悪かった。とにかく吐いて、吐くものがなくなっても吐き気が続いた。頭の片隅に『もしかしたらこれがつわりなのかな』と思っていました」。

病院を受診し、妊娠が判明。しかし、父親である交際相手とはすでに別れていて、連絡が取れなくなっていた。

女性には頼れる家族もいなかった。
両親は、女性が小学生の時に離婚。父に引き取られ、祖父母のいる父の実家で育った。高校卒業後、社員寮に入り仕事を始めたが、人間関係などがうまくいかずに退職。再び父の実家に戻ったが、祖母に仕事を辞めたことなどを咎められ、折り合いが悪くなった。

一人暮らしをしたくても、当時働いていた携帯ショップなど非正規の仕事だけでは、十分な収入はなかった。

女性は「昔から父親や祖父母はあまり相談に乗ってくれなくて。ずっと一人でため込んできたという感じ。もう父や祖父母に頼るのは無理だなと思っていました」と当時を振り返る。

頼る人が誰もいない中での、妊娠。女性は「産むとしたら一人で育てなくてはいけないと思って、それは無理だな、と。堕ろすしかない」と思ったという。

しかし、気持ちは揺らいだ。「もともと子どもが好きで、いつか赤ちゃんを産みたいと思っていた。予期せぬタイミングだったけど、やはり育てたいという気持ちがあった」。
どうすればいいか分からず泣くばかりの日々が続いた。

そんな中つながったのが、NPO法人キミノトナリ(仙台市)の東田美香さんだ。女性は、当時支援を受けていた民間の団体を通じて、東田さんにつながった。

女性は妊娠が分かる少し前、家族のもとを離れ新たな生活を始めようと、自ら支援を求めていた。「もう家族を頼るのは無理だなと分かっていた。でも、何とか生活を変えたかった。藁にもすがる思いで、家族以外の人を頼ってみようと思いました」。

連絡を受けた東田さんは、女性と一緒に婦人科に行き、これからどんな選択ができるかを説明した。出産をした場合、特別養子縁組などで赤ちゃんを託すことができること、また公的な支援を受けながら子育てができることなど、いくつか選択肢があることを説明した。どんな選択をしても、東田さんたちがサポートをすることを伝えた。

中絶以外の選択ができると知り、女性は出産を決めた。

東田さんは「彼女のように周りに頼れる人がいないという人は少なくありません。家族にはどうしても知られたくない、また連絡をしても家族が協力をしてくれないという人もいる。父親であるパートナーが逃げてしまったり、そもそも父親が誰か分からなかったりすることもあります。背景には、虐待や貧困など、様々な問題があります」と現状を教えてくれた。

■「自宅で出産してしまった」 それでも支援に頼れない理由

妊娠に関する相談を受けるNPO法人ピッコラーレ(東京・豊島区)にも、思いがけない妊娠をした女性たちから相談が寄せられている。

周りに頼れる人がおらず、追い詰められた結果、「陣痛が始まった。どうしていいか分からない」と相談をしてきた女性もいた。「自宅で出産をしてしまった」という女性もこれまでに2人いた。それでもなお、女性たちは病院に行くことをためらったという。

副代表の土屋麻由美さんによると、女性たちは「出産したことが分かると、住むところや仕事を失ってしまう。」と言い、病院や行政にはつながりたくないと話したという。

自分の身体に大きなリスクがかかっても、妊娠を知られたくないと思う背景には何があるのか。

土屋さんは、妊娠を一人で抱え込んでしまった女性たちは、これまで周囲に頼れなかったという経験をしていることが多いという。
「相談をしても叱られたり、責められるだけで、何もしてもらえなかったり、失敗に対していろんなことを言われるだけで。相談したら何とかなるという経験をしていないから相談ができない。自分なんて生きていく価値なんてないから、とおっしゃる方もいます」。

誰にも頼れないという女性たちを目の当たりにして、土屋さんは「赤ちゃんが遺棄された」という事件が決して遠い話ではないと感じている。

「自分でなんとかこの妊娠を終わらせないと、いまのこの状況から抜け出せないということで、必死な思いで出産をするのではないかと思います」。
「中絶をする、出産をするという自己決定をするには、経済的な余裕や、生活環境などいろんな条件が整ってないと選択することは簡単ではありません。結果的に中絶が選択できない時期になり、出産費用も払えないと自分で産むしかないという気持ちになってしまう。
それでも、陣痛が始まり、恐怖と不安で、もう一人では抱えられないとSOSを出してきてくれる人もいらして、やっと病院に繋ぐことができることもあります」。

■相談しても居場所がないケースも…必要なのは寄り添った支援

ピッコラーレでは、これまで6000人を超える人たちから妊娠に関する相談を受けてきた。頼れる人がいない中、やっとの思いで相談をしてきてくれた女性たち。
住むところもなく、経済的にも困窮した女性たちを支援するとき、女性たちの居場所を確保するのに苦労するという。

代表の中島かおりさんは「行政が用意している施設の場合、門限が厳しい、携帯電話が使えないなどの制約が多くなります。女性たちが『入りたい』と言う居場所を用意できず、またどこかに行ってしまうということもありました」とこれまでを振り返る。

行政が用意しているのは、DVから逃れた女性などを保護する「婦人保護施設」や「母子生活支援施設」で、携帯電話を使えないなどの生活上の制約が出てくることが多い。居場所を求めている女性たちにとっては、不自由な場面も出てきてしまう。

せっかくつながった女性たちの支援を続けたいと、中島さんたちは妊娠中から出産後まで滞在できる居場所「ぴさら」をオープンした。民間の助成金や寄付金で運営している。

中絶するか出産するかを悩んでいる間も、また出産したあとに赤ちゃんと一緒にも滞在することができる。

中島さんたちが大切にしているのは、どんな小さなことでも女性たちが自分で決めるということだ。「シャンプーひとつでも自分の好きなものを自分で選んで欲しい。部屋も自分が使いやすいように模様替えをしたり。ひとつひとつ心地よいものを整えていくことを大事にしています」。

寄り添った支援をすることで、女性たちにも変化が出てくることがあるという。
「ある女の子が『あなたはどうしたいって聞いてくれるよね』って。選んだ結果を自己責任とせず、困ったら安心して助けを求めていいんだという経験が社会への信頼に繋がると感じています」。

■「話を聞いて欲しい」 孤立を経験した女性は母親に

2年前に思いがけない妊娠をした仙台市の女性は、NPO法人キミノトナリの東田さんの支援を受けて出産した。現在は公的なサポートを受けながら、仕事をして、娘と2人で生活をしている。

出産、そして一人で娘を育てる中、東田さんたちのような支援をしてくれる人たちの存在は大きいと話した。

「産むと決めたあとも、『一人で育てるのに、どうして産むの?』と問い詰めるように言う人もいました。でも、東田さんたちのように話をきちんと聞いてくれる人たちもいた。とにかく話を聞いて欲しいという気持ちが大きかったです」。

東田さんは、女性たちが完全に孤立してしまう前に、周りの人たちが妊娠に気づくチャンスもあると指摘する。
「相談してくる人の中には、一度だけでも病院を受診している人もいます。また周りに妊娠を打ち明けず、大きなお腹を抱えて仕事をしている人もいる。彼女たちが積極的にSOSを出せなくても、周りの人たちが一歩踏み込んで声をかけるなど、手を差し伸べることもできるのではと感じています」。

「赤ちゃんが遺棄された」という事件を耳にするたびに、どうにかして小さな命を守れなかったのかと思う人は少なくないだろう。
しかし、取材を通して、妊娠をした女性だけで解決するのは難しい問題だと感じた。

追い詰められた女性たちが孤立しないため、どんな状況でも気軽に相談できるよう、公的な窓口や施設を用意するなど、支援を民間団体だけに任せず、女性たちに寄り添った仕組みづくりが必要ではないだろうか。

テレビ朝日報道局 笠井理沙

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