「経験が通用しない未知の世界に」“異例づくし”南極観測隊が出発へ 4カ月の密着取材[2022/11/10 23:30]

日本の第64次南極観測隊67人は11日、南極大陸に向けて出発します。

テレビ朝日はその任務に密着取材します。

2月、今回の南極観測隊に同行取材するテレビ朝日の吉田遥ディレクターは長野の雪山にいました。

吹雪のなか、4泊5日の雪山訓練がスタートしました。

氷の裂け目『クレバス』に落ちた時に脱出するための疑似訓練では、何度やっても登れませんでした。

吉田遥ディレクター:「無理かも…」

しかし、ベテラン隊員たちの指導もあり…。

吉田遥ディレクター:「コツはつかんだ。(Q.これならクレバス落ちても大丈夫だ)落ちない!」

他にも隊員たちは、救命救急の講習や、滞在中はお互いに髪を切り合うため、美容師から講習も受けるなど、これまで10カ月間にわたる訓練をしてきました。

それは全て、過酷な南極の環境で生き抜くためです。

全長約140メートル、幅約30メートルの南極観測船『しらせ』は、船首部分で氷に体当たりをして、厚さ最大1.5メートルの氷を砕きながら前進。砕氷艦とも呼ばれます。

氷を粉砕しながら進む船首の先にあるのは、コウテイペンギンにアザラシ、そびえ立つ氷山、そして一面に広がる銀世界。そこは“白い砂漠”とも称される南極大陸です。

今回、南極に向かう第64次観測隊の目的の一つは、南極の氷がどのくらい解けているかを調査すること。

2002年に撮影された南極北部の衛星写真を見ると、わずか3カ月で東京都の1.5倍の面積の氷が流れ出てしまっていました。

ある専門家チームの試算によれば、もし南極大陸の氷全てが解けると、地球の海面は58メートル上昇。

それによって、北海道は2つに切り離され、東京や大阪の大部分が水没するといいます。

これまで幾度となく南極観測に参加した北海道大学の杉山慎教授はこう語ります。

北海道大学・杉山慎教授:「最近、分かってきたんですけど、南極の氷は空気の温暖化ではなく、海の温暖化に、より強く影響を受けている」

杉山教授は、温暖化によって暖まった海が南極の氷をより溶かしているというのです。

今回の南極観測では、東京大学などが開発した、最新鋭の海中ロボット『MONACA』を持ち込みます。

遠隔操作では届かない、厚さ300メートルを超える、氷の裏側を全自動で動き回り調査します。

7月、静岡県沖で動作チェック中、予想外の動きをしてしまった『MONACA』。不安が募ります。

それでも調整は何とか間に合い、無事『しらせ』に搭載されました。

第64次南極観測隊の隊長を務める伊村智教授は、こう決意を語ります。

第64次南極観測隊隊長・伊村智教授:「氷床が海の影響を受けて、底から解けているデータを取るという計画は大きい。できる限り、全て完遂して帰るのが使命なので、責任は大きいと感じている」

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◆南極観測隊に同行する吉田ディレクター

(Q.出発に先立って、コロナ対策で9日間の隔離生活を送ってきました。隔離も大変だったと思いますが、いよいよ出発です。今どんな気持ちですか)

隔離施設で、非常に静かな生活を送ってきたので、11日から南極に向けた長い船旅が始まるというのが、信じられないような不思議な気持ちでいます。

例年ですと、飛行機でオーストラリアへ向かって、そこから『しらせ』で南極に向かいます。

ただ、今年は南極にコロナを持ち込めないということで、いわゆる“バブル方式”が取られています。

私たち隊員は計3回のPCR検査を受け、10日に無事、隊員全員の陰性が確認され、いよいよ南極に向けて出発になります。

(Q.現地での任務は4カ月にわたります。色々なことがありそうですね)

南極は気象条件も変わりやすく、氷の状況によっては、計画通り観測が進まないのが当たり前の世界だということです。

隊長陣が私たちによく言っているのは「南極はこれまでの経験が通用しない世界」だということです。

去年大丈夫だったからといって、今年も大丈夫ではないということです。

そんな厳しい環境ですが、研究者の皆さんは“未知の世界”を明らかにするため、南極でしか手に入らないデータの取得に向けて、非常に長い時間をかけて、このプロジェクトに取り組んでいます。

こういった研究を支えているのは、昭和基地を維持する『設営隊員』と呼ばれる人たちです。

観測隊には、様々なプロフェッショナルがいます。

隊員の皆さんの活躍を同行しながら伝えていければと思います。

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