【南極観測隊】厳格な身体検査…輸血に備え“血液交差”も 取材班出発までのハードル[2022/11/13 20:00]
「南極地域観測隊」に4カ月余りにわたって密着取材する、私たちテレビ朝日 南極取材班の吉田遥と神山晃平です。
11月11日、東京から観測船「しらせ」に乗り、太平洋の船旅が始まりました。
今回の取材にあたっては、実は10カ月前から準備が始まっていました。
■まずは厳しい健康診断
同行取材が認められたからといって、簡単に南極に行けるわけではありません。
まず、人間ドックに準じた健康診断を受診する必要があります。
観測隊にドクターはいますが、もちろん病院などはありません。 4カ月の間に大きな病気になると、現地では治療が困難な事態になるのです。南極で冬を越す越冬隊の場合は、さらに1年4カ月もの間滞在します。
長期の遠征を乗り越えることができるのか、私たちも何十項目の厳しい身体検査を受けました。 胃カメラやMRI、血液検査など丸1日かけて詳しく調べてもらいます。
これで大きな病気が見つかったらどうしよう…と何度も考えました。吉田の胃カメラの検査で表面に“びらん”が指摘された時には、思わず「出張は大丈夫か」と医師に聞いてしまいました。
痛みなど症状がなければ治療の必要もないということでひと安心。
ほかにも家族の病歴や幼い頃の病歴、生活習慣に関する40ページほどもあるアンケートを提出しました。
健康診断の結果は「健康判定委員会」にかけられます。少しでも体に異常が見つかると、南極には行けません。これに通った人だけが正式に隊員に決定します。
私たちは無事に通過しましたが、 実際に病気が見つかり、南極に行けなくなってしまう人もいるのです。
■隊員同士の血液の適合性を調べる“血液交差”
南極では緊急に「輸血」が必要になった場合、隊員同士で輸血し合う必要があります。その血液の適合性を調べるため、全員が事前に採血します。“血液交差試験”といいます。
国立極地研究所の会場で、一方通行の動線を進みます。
まず名前と血液型を確認して、事前に準備してある平仮名の名前が貼られた試験管2本を受け取りました。神山はO型と自己申告。会議室の一角に設けられた会場で通常の健康診断と同様の採血。撮影しながら臨むと看護師さんに「実況ですか」と突っ込まれました。
採血した血液を混ぜて、凝固などせず無反応なら輸血が可能だということです。隊員の中の誰が誰に輸血可能なのかは、ドクターが把握します。
■コロナ禍の中の南極行き 9日間の隔離生活
渡航前に私たちは3回のPCR検査を受けました。そして出発前は8泊9日の完全隔離生活に入りました。9日間、ホテルの個室にひとりきりです。
現在南極にいる63次越冬隊は2回しかワクチン接種を受けていません。また前述通り医療体制も限られているため、絶対にコロナウィルスを南極大陸に持ち込めません。実は先遣隊では1人が陽性になってしまい、途中で離脱せざるを得なくなりました。
私たちは9日間、人との接触を一切断ちました。
交換のタオルや1日3回の食事はドアノブの外側に掛けられます。嗜好品は持ち込めたので、吉田が大好きなチャンジャを同僚が送ってくれ、備え付けの冷蔵庫に入れて食べていました。
隔離中も隊員たちはオンラインで氷上の安全な歩き方などの講習を受けたり、毎日全体ミーティングがあったりと、スケジュールは詰まっています。運動不足にはなったものの、本社との最終的な打合せや中継での番組出演など、忙しい9日間になりました。
例年通りならオーストラリアまで飛行機で移動して「しらせ」に乗るのですが、今回は「バブル方式」が取られ、隔離先で隊員全員の陰性を確認したうえで、そのまましらせに乗船し、全行程が船旅になります。
出航を見送りに来た家族と直接会うこともできません。全員、船と送迎デッキから手を振りあっての別れになりました。
報道局 吉田遥 神山晃平