「殺される恐怖」から父が息子をバールで... “高齢者虐待”が背景か[2022/11/16 21:14]

11月12日、横浜市保土ケ谷区の住宅で、50歳の男性がバールで殴られ、その後死亡する事件が発生した。殺人未遂容疑で逮捕されたのは男性の父親(78)だった。その後の取材から、父親が息子の日頃の言動や行動に「殺される恐怖」を抱き、バールを用意していたことが分かった。78歳の父親が50歳の息子との生活で何に恐怖を抱き、事件に至ったのか。見えてきたのは増加する高齢者虐待だった。

●事件当日 バールを用意して帰りを待つ
父親(78)は妻と息子の3人で暮らしていた。息子は決まって1時間ほど外出する時間があった。12日も息子はいつもと変わらず外出した。その帰りを父親はバールを用意して待っていたという。そして帰宅した息子の頭などをバールで3回殴ったとみられている。

台所で家事をしていた母親は騒ぎを聞き「息子と夫が殴り合った、とにかく来てください」と110番通報をしたが、恐怖からその場を離れることができなかったという。通報を受け、駆け付けた警察官が自宅近くの道路で倒れている息子を発見。搬送先の病院で死亡が確認された。自宅にいた父親は「殺そうとして殴った」と話し、殺人未遂の疑いで現行犯逮捕された。その後、容疑は殺人に切り替わり送検された。


●「殺される恐怖を抱いていた」帰ってきた息子との生活
もともと父親は妻と2人で暮らしていた。しかしある日、結婚して家を出ていた息子が実家に戻ってきて3人の生活が始まった。そこからずっと息子の酒癖の悪さに悩まされていたと、両親は警察に説明している。日中から酒を飲むことが多く、壁を叩いたり物を投げたりしていたそうだ。部屋をのぞきに行くと「次はお前の番だからな」と言われることもあった。2人は「殺される恐怖を抱いていた」と話しているという。

●“高齢者虐待” 神奈川県では前年比418件の増加
神奈川県警によると、「次はお前だ」と言われ、両親が「殺される恐怖」を本当に感じていたのならば、高齢者虐待の「心理的虐待」に該当していた可能性がある。

高齢者虐待とは家庭や施設などで65歳以上の高齢者に対して発生する虐待で、市区町村が認定する。虐待には「心理的」「身体的」「ネグレクト」「性的」「経済的」と大きく5つの種類がある。

2021年に神奈川県警が対応した高齢者虐待は2088件だった。前の年に比べ418件増加していて、5年前から比べると1200件以上増えている。神奈川県によると、介護のストレスから虐待するケースも多いという。警察が事件化や助言、自治体への通知を行っているほか、自治体では、高齢者に危険が及んでいる場合、高齢者を虐待の加害者から引き離す措置を行うこともある。その場合、自治体から経済的な支援を受けて生活することもできる。県警や県は、悩みやトラブルを抱えこまずに相談してほしいと呼びかけている。

今回の事件で逮捕された父親は、事件前に警察へ相談をしていなかった。横浜市は相談があったかどうかを明らかにしていない。

(テレビ朝日社会部 神奈川県警担当 藤原良太)

<相談窓口>
神奈川県 高齢福祉課高齢福祉グループ 045-210-4846

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