60年原発の審査方針は「不透明」 “事務方”は事例を集め、議論を活性化せよ[2022/12/28 17:00]

 原子力発電所の運転延長の議論は、現行制度で認められている最長60年までの運転期間に、審査などで停止した期間を加算・延長することが可能となることで決着した。
 経済産業省と並行して議論してきた原子力規制委員会は、30年から原発の劣化を10年ごとに審査し認可する制度を新設し、60年超運転にも対応するとしているが、議論した期間はたった3カ月、計5回の短時間の会議でのスピード決定である。

 しかも「肝心の」60年原発の審査について、どの程度のレベルになるかは依然として不透明だ。原発行政の大転換にも関わらず「拙速」の感を否めない。
問題点を検証した。

テレビ朝日社会部・吉野実(原子力・環境担当)

■原発の『経年劣化』を審査 何が厳しくなるのか

 原発の経年劣化を審査することを「高経年化技術評価」という。では、何を評価するかというと、最も重要なのが原子炉圧力容器の劣化評価だ。
 圧力容器は燃料や制御棒が入る原子炉の中心部だが、運転に伴う核分裂で長年に渡り中性子を浴びていると段々と脆(もろ)くなる。これを「中性子照射脆化(ぜいか)」という。原子炉の中心が万が一にも壊れては大変なので、どの程度脆くなっているかを確かめるため、圧力容器内には圧力容器と同じ材質の「監視試験片」を収めたカプセルがあり、定期的に試験片を取り出して打撃試験をし、強度を測っている。

 「高経年化技術評価」ではこの他にも、ケーブルの絶縁劣化やコンクリート強度、配管の健全性など厳しくチェックしている。現行制度でも評価は30年から10年ごとに行われていて、40年の延長認可時には、コンクリートのコア抜きなど、さらに厳しい「特別点検」が行われる。50年時の評価を受けた原子炉は日本にはまだ存在しない。

 規制委が検討している新しい制度では、高経年化技術評価を一段引き上げた「認可制度」とし、厳しくするという。規制委はこれまで「添付資料」扱いだった評価を「本文」に格上げし、電力会社が行った点検の方法、評価の方法など手法や結果までしっかりと見ることをもって「厳しい審査」としているものの、何が厳しくなるか今一つ分からない。

 特別点検も40年前後に実施するとしているが、何のことはない、60年「まで」の審査の大枠は現在の制度と変わらないのだ。
 普通に考えて、40年から60年までの原子炉の健全性と、60年以降のそれは異なり、古い方が弱くなっていると考えるのが“一般常識”だが、規制委の事務局である規制庁には、異なる考えを持っている者もいるようだ。

■委員長案「厳しい方向に」を官僚が“否定”

 就任時のテレビ朝日の単独インタビュー(10月24日)で山中委員長は、60年を超える原発の審査について「設計の古さ」を取り込む考えを示し、「おそらく日本独自のもの(審査)になろうかと思いますので、この辺りはかなり厳しい規制がかかることになると考えています」「制度としては厳しくなる方向に向かうと思っています」と、審査の「厳しさ」を重ねて強調した。

 しかし、規制庁のある職員は「新規制基準をクリアすれば、その炉の設計は古くないということだ」と、設計の古さを60年時の審査に取り入れることに否定的だ。それどころか、新知見を審査に取り入れる「バックフィット」を続けていれば「60年時の厳しい審査は不必要」と言わんばかりの職員もいる。

 そして、11月30日の定例会では、委員からも
「設計の古さを明確に規定するのは難しい」
「バックフィットでいいのではないか」といった意見が出た。

 ただ、山中委員長が改めて60年炉審査に対して「設計の古さ」を含めた厳しさを求め、他の委員も大筋で同意したことから、継続して議論することでいったん収まった。

■焦点は『設計の古さ』 前委員長も「議論されるべき」

 ここから話はさらにマニアックになる。
 「設計の古さ」を初めて問題提起したのは前規制委委員長の更田豊志氏だ。更田氏は筆者のメールでの取材に対し、次のような例えで説明した。
 「PWR(沸騰水型原子炉)には燃料取替用水タンクとか燃料取替用水ピットとかといったものがありますが、これは文字通り燃料取替用水を溜めておく設備です。
 燃料取替用水というのはホウ酸希釈してある水で燃料交換の際に使いますが、事故への対処でも極めて重要な役割を担っており、ECCS(非常用炉心冷却装置)が真っ先に使うのもこの水です」
 「要するに、真っ先に炉心へ注入する、安全上、一番大事と言っていい水。
これの貯蔵ですが、初期のPWRでは屋外タンク、次にこれが屋内タンクになり、時代を追うに従ってさらに屋内ピット(プールみたいなもの)に(貯蔵されている)」
 「次世代のPWRでは格納容器(CV)内ピットに(なる設計になっている)。因みに、この燃料取替用水の貯留をCV内ピットにすることの安全上のメリットは非常に大きい」
 「屋外タンク→屋内タンク→屋内ピット→CV内ピットと設計は新しくなっているわけですが、どの設計の場合も、耐震性や飛翔物等への備えなどが評価上基準をクリアしていれば許認可上はOKであることに変わりはありません。
しかし、後段の設計の方が、安全上有利であることは間違いなく、これは余裕の部分であると言えばそれまでですが、古い設計の炉の方が裕度(余裕度)が小さい」
 「こういった、いずれも許認可上はOKではあるものの、古い設計の不利をどう考えるのかというのが私の問題意識です。規制がこれにどう対処するかはなかなか難しいところですが、50歳以上になったら屋外タンクはダメだよといった議論は為されるべきだと考えています」。

 簡単に言えば、シビアアクシデント時に必要な設計が古い炉はダメ出しし、改修するか、できないなら廃炉を迫っていいものだと筆者は解釈している。

■改めて、官僚に問う 「怠慢」ではないのか

 更田前委員長が問題提起し、山中現委員長が引き継いだ「設計の古さ」を含む「厳しい審査姿勢」に、委員会の事務局が「NO」を突きつける。8年余に渡って規制委の議論を見てきた筆者にとって、これは異例の出来事である。

 もちろん、妥当性のある話であれば主張するのは構わない。しかし、「設計の古さ」についての事例も調べず、委員会に提起して委員の議論を活性化させることもしないのは、「僭越」であり「怠慢」ではないのか。60年原発の審査をなるべく簡易なものにしようとしているように筆者には思えてならない。

 福島第一原子力発電所事故による被害が拡大した要因に、国会事故調など各種調査報告が官僚の「不作為」「怠慢」を挙げているのを、まさか「忘れた」わけではないだろう。
 幸いなことに、日本には60年どころか、50年時の経年劣化評価を受けた原発はなく、新制度の下で60年原発をどのように審査するか、検討する時間はまだある。規制庁が内外の事例を集め委員会に提出したうえで、委員長以下、活発な議論が行われることを期待したい。

写真:原発の配管の超音波検査(画像提供:関西電力)

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