“秘境レストラン”客殺到…シェフの情熱 “過疎村”に巻き起こす「夢のような変化」[2023/01/18 16:45]

雪に覆われた山奥の集落にある、知る人ぞ知る“秘境レストラン”。アクセス困難な秘境にありながら、全国から泊りがけで客が殺到する、人気の秘密とは…?

さらに、「料理人」として理想の環境を求め、この土地に店を開いた一人のシェフの情熱が、過疎の村に巻き起こしている「夢のような変化」とは…?

■予約半年待ち…キャンピングカーで来店客も

標高1000メートル級の山々に囲まれた、富山県南砺市利賀村。人口500人足らずの秘境の、さらにその奥の山あいに、3軒のコテージが併設された客が泊まり込みで訪れる人気レストランがあります。

来店客:「来たいと、ずっと思ってたけど。予約が取れず、半年くらいかかって…」

予約はなんと半年待ち。彼らがここに泊まる目的は、観光ではなく「ただ食べるだけ」。

2年前にオープンした、フレンチレストラン「レヴォ」。いわゆる“秘境レストラン”です。

来店客:「満足感がハンパない」「変化球と剛速球を合わせて投げてくる料理」

コースメニューは全12品。イノシシやクマのジビエ、山菜などの食材を生かした料理で、2年前、ミシュラン二つ星を獲得しました。

来店客:「赤カブって、こんな食べ方があったんだ!」

常識を覆す、斬新な料理の数々。知っているはずの食材が、全く味わったことことのない料理に。究極のフルコースを求め、わざわざ都内から5時間かけて訪れる客もいるといいます。

来店客:「(Q.どちらから?)東京から来ました。前日に前入りして、富山に」

はるばる神奈川県からやってきたという客はなんと、この秘境レストランに来るため、「キャンピングカー」で訪問したといいます。

来店客:「キャンピングカーで」「この日のために、購入したみたいな」

■地域活性化…“消滅集落”もシェフには“楽園”

元々、この場所は、100人近い住民が暮らしていたものの過疎化とともに村人が離れ、50年前に無人となってしまった“消滅集落”でした。

清掃スタッフとして働く、近くの住民は、店のオープンに驚きを隠せませんでした。

地元住民:「まさか、まさかと思ったよ。(店が)できるとは、聞いてたけど。まだ、今でも夢みたい。お客様が、都会から来るし。(村が)活気付いた。新しい空気。山にいる私としては、うれしい」

地域活性化の立役者こそ、除雪車を自ら運転している人物、オーナーシェフの谷口英司さん(46)です。

谷口さん:「(Q.除雪もシェフ自ら?)はい。ストレス発散です」

全国にその名を轟かせる、富山を代表するミシュランシェフです。

そもそも、一体、なんでこんな秘境に…!?

谷口さん:「秘境、山奥と言われるけど、僕たち料理人にとってはパラダイス。最高のパフォーマンスをするために、この土地を選んだ」

そんなシェフのご自慢は、地元猟師から直接仕入れる野生の肉“ジビエ”。熟成倉庫には、クマやイノシシがあふれんばかりに並んでいます。

ジビエを誰に気兼ねすることなく、煙を出して薪であぶる!山奥の秘境だからこそなせる料理なのです。しかも、こだわりは、お肉だけにとどまりません。

谷口さん:「クマの骨やクズ肉で、ソースを作ってます」

本来使い物にならない、骨や切れ端の肉は、ソースやスープに。さらに余った脂は、野菜を焼くオイルに使用します。

谷口さん:「(部位は)ほぼ全部使います。使えるものは、最後まで使います」

食材を知り尽くした、ミシュランシェフだからこそなせる業なのです。

谷口シェフにジビエを提供しているのが、ハンター歴50年の石田留蔵さん(74)。

石田さん:「これ、クマの足跡。でかいクマが2頭、(山に)入っている」

シェフと石田さんとは、家族ぐるみで10年近い付き合いだといいます。

谷口さん:「僕がどういう獲物が欲しいとか、分かってくれているので」

石田さん:「なんでも『用意せえ』と言われたら、なんでも用意するけんな」

猟師にとっても、シェフは収入面での支えになっています。

石田さん:「脂の乗ってない獲物なら要らんとか、(シェフは)そういうのではないから。ずっと買い取ってくれるから。やっぱり助かってる。俺が助かるというか、家内が助かってる」

石田さんの妻:「お金がかかりますからね、猟師は」

■鶏・花・柿…地元食材に“新たな価値”を

谷口シェフのこだわり。それは「地元食材に新たな価値を見いだすこと」です。

地元食品店:「私たち自身が(価値に)気付いてない、家の近くに生えていた野草が、『こんなにおいしいんだ』『こんな素敵な料理に生まれ変わるんだ』」

その代表的なものが、店の名前を冠した看板メニューの「レヴォ鶏」。

谷口シェフのレストラン「レヴォ」のためだけに飼育されている鶏ですが、実はこの鶏、本来はこれから大きく育てて卵を産ませる「ヒナ鶏」。ところがシェフは…。

養鶏農家:「シェフが“小さなサイズの肉鶏を欲しい”と。“いや、これって食べられる?”“どこを食べるんですか?”。そういう発想もないじゃないですか。ヒナ鶏という肉鶏としての価値はないところに、シェフは価値を付けた」

若いヒナ鶏だからこそ、筋肉が柔らかく肉質はジューシー、口当たりも優しいんだとか。さらにモモ肉の中身には、クマの脂で炒めた“おこげ”が入っています。

週に1度の休みには、富山県中を駆け巡り、新たな「食材探し」。シェフにとってこの時間は、いわば「宝探し」なのです。

谷口さん:「こうやって商品を見ると、料理のアイデアが浮かんだり、今こういう食材が出ているのが分かる。“宝物”が眠ってたりする時もある」

この日の“宝探し”は…?

谷口さん:「何か、新作ないんですか?」

一見、普通の花農家に見えますが…。

花農家:「シェフの好きな赤どうそ」

花びらを手にすると…エッ!?食べちゃった!?

谷口さん:「うん…ダイコン(の味)。おいしいしね。これ使おう!」

実はここ、食べられる花、通称「エディブルフラワー」を栽培。シェフのお店でも、デザートの洋ナシに使用されているのです。

元々、こちらでは鑑賞用の花を販売していましたが…。

花農家:「ハウスの下にある雑草を(シェフが)むしゃむしゃ食べて。“これがおいしいんだよ”言うて」

シェフの一言がきっかけで、本格的にエディブルフラワーを栽培。今では、日本全国で引く手あまたの看板商品だといいます。

花農家:「プランター10個で始めたのが、今はハウス5棟になりました」

さらにシェフは、地元のお母さんたちが作る“宝”にも光を当てています。

それが、富山の特産品「あんぽ柿」。300年続く伝統的な技法で作られた干し柿です。さらに、柿の栽培方法から、谷口シェフのために特別に手を加えているのだとか。

あんぽ柿生産者:「栽培方法が全然よそと違うから、“これはレヴォ用ですよ。レヴォ用ですよ〜”言うて、肥料まいている」

なるべく素材の味を知ってほしい。そこで、あえて形も崩さず、2種類の食感の違うチーズだけをかけた一品“富山の雪山”をイメージしたデザートは甘みが強い、トロ〜リ食感が楽しめる人気メニューに。

谷口さん:「中のトロトロ感をすごく生かしたくて。僕はお皿に乗せて、粉かけてるだけなんで」

谷口シェフの料理への飽くなき情熱が今、過疎村に新たな変化を生み出しています。

こちらも読まれています