「ふるさと納税」大都市の自治体が苦悩…“税金流出”世田谷区87億円 川崎市103億円[2023/01/30 16:45]

去年の「ふるさと納税」の利用者は、740万人以上。住民税などの控除額は、これまでの最高額となるおよそ5672億円に。

地方の自治体に寄付が集まる一方、都市部では川崎市で103億円、世田谷区で87億円もの税金が地方に流出。道路の補修や、校舎の改築、ごみ収集など、行政サービスに支障が出る可能性も。

一方、税収を“取り戻す”ために自治体側も本腰を入れて動き始めました。その起死回生の一手とは!?

ふるさと納税で“苦悩”する首都圏の自治体を追跡しました。

■川崎 “流出額”全国4位も…地方交付税なく“窮地”

地方と都市部との税収格差を緩和する目的で制度化された「ふるさと納税」。

昨年度の1位、およそ153億円もの寄付金を受け入れたのは、流氷の街として知られる、北海道・紋別市。

オホーツク海で獲れた、ホタテやズワイガニ、キンキといった、極上の海産物に人気が集中。

都市部よりも税収が少ない地方都市が魅力あふれる返礼品を取りそろえることで“勝ち組”となる一方、かつてない危機をむかえていたのは、およそ76万世帯・154万人が暮らす、神奈川県の川崎市です。

川崎市財政局・財政部資金課 土浜義貴課長:「ふるさと納税をほかの自治体にすることで、川崎市に納められる税が減っている。ごみの収集処理費用に例えると、市の全世帯の約8割60万世帯相当の金額」

2015年に2億円ほどだった流出額が、わずか7年で、50倍の103億円ほどに。

例えば、A市に住む男性が、B市へ5万円のふるさと納税を行うと、男性が寄付した5万円から、自己負担金2000円を差し引いた4万8000円が、A市の住民税などから控除されます。その分、市の税収が減ることに。

つまり、ふるさと納税で、税金の控除を受ける人が増えれば増えるほど、市の財政が窮地に陥る結果に。

ふるさと納税を利用 川崎市民(50代):「(始めて)10年くらいですかね。還元品(返礼品)が結構良いので。割と周りの人がやり始めて。良いことをして、良い物がもらえるという」

しかし、市の財政状況を伝えると…。

ふるさと納税を利用 川崎市民(50代):「あ〜そうなんですね。川崎市に住んでいながら、ちょっと心が痛いですね。ちょっと申し訳ない気持ちになりました」

ふるさと納税を利用 川崎市民(40代):「へええ〜びっくりしました」

状況に驚いた様子の利用者に、改めてふるさと納税をする理由を聞いてみると。

ふるさと納税を利用 川崎市民(60代):「ホタテとか海産物とか、おいしいお酒とか。返礼品がとてもおいしいので。そっちに目がいってしまう」

「ふるさと納税」による川崎市の住民税などの流出額は、全国で4位。しかし、流出分の75%を地方交付税で賄える横浜市などと違い、川崎市は地方交付税が交付されないため、実質的には最も厳しい状況にあるといいます。

川崎市財政局・財政部資金課 土浜義貴課長:「(Q.流出が続くと市民の生活に影響は?)全くゼロとは言えません。(このまま)住民税が減ってしまうと、(今後)お住まいの地域の生活に影響が出かねないということも踏まえて頂いて…」

市の担当者によると、財政不足を補うための市の借入金の額は、527億円にも上るといいます。

医療や介護、そして子育て支援や教育、ごみの収集処理や消防・救急といった市民の暮らしに欠かすことのできない事業の財源となる住民税。

川崎市は、財政の窮状を訴える広告を駅に貼ったり、税金の用途を記したポスターを作成したりと、住民税の納付を訴えてきたのですが、市民からはこんな声も…。

土浜課長:「『自分はこういった(医療や介護などの)行政サービスを受けていない』『返礼品を受け取ったほうがお得』というお声もある」

■流出した税収を取り返す?世田谷区の“新たな一手”

そして、税金の流出額が、川崎市に次いで全国5位の東京・世田谷区。その背景にあるのが…。

世田谷区政策経営部 経営改革官民連携担当課 高井浩幸課長:「ふるさと納税をできる金額というのは、所得が高い人ほど大きくなる。そういった面でマイナス影響が出てきている」

高額所得者が多い世田谷区の流出額は、今年度だけでも87億円以上。これは区の税収の7%に相当する金額です。

ふるさと納税を利用 世田谷区民(40代):「何件か(ふるさと納税を)やっている。お肉だったり、お米だったり。近隣のスーパーでは売っていないので」「(Q.(流出額が)87億円…)え〜、率直に感じると世田谷区に納税する必要もあるのかなと思いますね。実際の生活面を考えて」

ふるさと納税利用者 50代男性:「仕組み自体に問題があるかは、考えたことがなくて。もう少し区に貢献したほうがいいのかなと思います」

住民税の流出が深刻化している状況について、世田谷区議は…。

世田谷区議:「多額の税金がもし流出しなければ、他にお金を使えることはたくさんある。ここは砧(きぬた)小学校で、予算が足りなくて改築工事が延び延びになってしまっている」

区議によると、老朽化した校舎の改築が必要な状態にあるにもかかわらず、財政的な問題などから、2年以上工事が延期に。工事の延期は、区民の生活道路でも…。

世田谷区議:「ここは道路の舗装の更新計画が入っているんですけれども。まだ補修ができていない場所。ひび割れ率が高いのだけれど、まだ工事ができていないところが世田谷区中に点在している」

区議によると、物価高騰や工事費の値上がりによって補修工事の延期が続き、近隣住民からも、車が通行する際の騒音や歩行車がつまづいて危ないといった苦情が…。

世田谷区は国に対し、ふるさと納税の上限額の引き下げなど、制度の見直しを求めてきましたが、要望は受け入れられず。

そこで、打ち出した“新たな一手”があります。

高井課長:「住宅地ではありますけれども、返礼品をきっかけに世田谷区への愛着を高めて頂くと」

返礼品で、全国から寄付金を呼び込み、流出した税収を取り返そうというのです。さらに…。

高井課長:「世田谷区民からの寄付がとても多いのですが、約4カ月で4000万円を超える寄付を頂いて」

下北沢駅前再開発への寄付を区民からも募り、返礼品の代わりに、道路に使うタイルに名前を刻むという取り組みも。

■「川崎ファン増やしていきたい」返礼品づくり“本腰”

そして、税収減がより深刻な川崎市もまた、街の魅力を全国にアピールすべく、返礼品づくりに本腰を入れていました。

土浜課長:「こんなに良い物、良い所が川崎にあったんだと知って頂いて。川崎ファンを増やしていきたいなと」

工業地帯から、広大な農地、さらにスポーツと多様性に富んだ川崎市を象徴する返礼品の数々。その目玉として取り入れたのが、音響メーカーが、川崎市内の自社工場で部品から研究・開発をし、3年がかりで製品化した、ワイヤレスイヤホンと、ヘッドホンです。

final営業部 森圭太郎さん:「音楽の街、工業の街、川崎ということも含めて。返礼品の中では一番、寄付金額を集めさせて頂いていると、市から聞いております」

都市部の自治体の参戦により、より激しさを増すとみられる“返礼品競争”について、専門家は…。

東京財団政策研究所 平田英明主席研究員:「本来のふるさと納税の趣旨に合っているか甚だ疑問ですが、本来税はこう使われるべきだという考え方にのっとって、ふるさと納税を活用して頂くというのが一番理想なのかなと思います」

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