牛の“げっぷ”退治へ…「メタンガス減らすエサ」発見 奇跡の“サステナブル和牛”も[2023/02/05 17:00]

地球温暖化につながる温室効果ガス。実は、牛の“げっぷ”に含まれるメタンガスが、総排出量の4%を占めているのです。

そもそも、牛の“げっぷ”を見たことありますか?徹底検証で分かった意外な事実とは…!?

そして、メタンガス削減のカギを握るのは、牛のエサ。30年にわたる研究で、メタンガスを減らすエサを発見した人物を北海道で取材しました。その意外な食材とは…!?

さらに、環境にも優しく、A5ランクの肉質を誇る“サステナブル和牛”も誕生。牛の“げっぷ退治”最前線を追跡しました。

■世界各国で問題視…牛の“げっぷ”

牛に着けられているのは、イギリスの企業が開発した「牛の“げっぷ”をキレイにするマスク」。鼻先で吸収した“げっぷ”を分解するのだそうです。

そして、ニュージーランドで検討されているのは、牛や羊の“げっぷ”に対して税金を課す、その名も「げっぷ税」。排出量に応じて、農家が税金を支払うというものです。

世界各国で今、問題視されている、牛の“げっぷ”。その最大の理由が、「メタンガス」です。

世界で排出される温室効果ガスのうち、「およそ4%が牛の“げっぷ”に由来する」とのデータもあります。メタンガスには、二酸化炭素のおよそ25倍の温室効果があると言われているのです。

■牛の“げっぷ”は…「音がしない」

しかし、ここである疑問が浮かび上がります。そもそも、牛の“げっぷ”って、見たことありますか?

そこで訪ねたのは、700頭近い和牛を飼育する茨城県の畜産農家。温暖化の原因となるくらいなので、絶え間なく“げっぷ”をしてるのだろうと牛の観察を開始。すると、意外な事実が明らかになりました。

カメラに映るのは、モグモグと口を動かし続ける姿だけ。一向に“げっぷ”をする気配はありません。果たして、いつ“げっぷ”をするのでしょうか?

長年、牛の飼育に携わる農家の中川徹さんに話を聞くと、まさかの答えが返ってきました。

茨畜連パイロットファーム鉾田牧場 中川さん:「意識して見ていても、“げっぷ”をしているようには見えない。ブワッと出るわけではない」

なんと「牛の“げっぷ”は音がしない」というのです。

■牛の“げっぷ”調査…1時間で53回

では、どうやって見分けるのでしょうか?中川さんによると、食後に見られる“ある行動”に着目するのだといいます。

中川さん:「反芻(はんすう)して、何十回かやったら必ず止まる。止まった時に“げっぷ”をすると言われている」

牛は草やワラなどのエサを食べた後、胃から口の中に戻して咀嚼(そしゃく)。細かくして、また飲み込む「反芻」という行動を繰り返します。

胃の微生物の働きによりエサは「発酵」、その際に「メタンガス」が発生します。そして、口に戻すタイミングで排出。これが、牛にとっての“げっぷ”なのです。

実際に“げっぷ”をする様子を見てみました。口の動きがとまり、しばらくすると、再び咀嚼。この時、エサが喉を通り、その直後に口から呼気が漏れています。これが“牛のげっぷ”です。

中川さん:「人間が“げっぷ”するのとは、全然違う」

では、どのぐらいの頻度で“げっぷ”をしているのかカウントしてみることに。調査開始から1時間、1時間で53回。約1分に1回ペースでげっぷを行っていることが分かりました。しかし、どのぐらいメタンガスが出ているかは、目視では分かりません。

■食後の“げっぷ”に…多くのメタンガス

そこで、牛が排出するメタンガスの総量を測定し研究を行っている、茨城県の「農研機構」へ向かいました。

日本でここにしかない「呼吸試験チャンバー」という、牛の“げっぷ”を採取するための装置です。

集めた“げっぷ”を解析すると、ある傾向が分かりました。

メタンガスの量を表したグラフを見ると、朝・夕の「食事後」に、最大となっていることが分かります。

農研機構 乳牛精密栄養管理 野中最子グループ長:「エサを与えると、胃の中の微生物がエサを分解して発酵が盛んになり、それに伴ってメタンガスが出てくる」

食後の“げっぷ”に、メタンガスが多く含まれていることが判明。となると、「メタンガスの発生を抑えるエサ」を作れば、地球温暖化を止められるのでは?

それを実現させた日本の研究者が北海道にいます。

■牛1頭で…“車1.7台分”温室効果ガス排出

「牛のエサ研究」の第一人者、北海道大学農学研究院の小林泰男教授です。

今回、特殊なカメラを使って撮影した、食後の牛から出るメタンガスと思われる映像を小林教授に分析してもらいました。

北海道大学大学院農学研究院 小林泰男特任教授:「今いっぱい出ていますね。モワモワと出ているのはメタンガス。決定的瞬間が捉えられている」

小林特任教授によると、口と鼻から出る、黒い影。これが、メタンガスを含む呼気とのこと。牛1頭で自家用車1.7台分の温室効果ガスを排出すると言われています。

小林特任教授:「メタンガスは元々、エサのエネルギーに由来していて、それが“げっぷ”で外に出ているということは、エサのエネルギーのロス」

小林特任教授は1980年代から家畜の生産効率を上げる目的で、「メタンガスを削減するエサの研究」をしてきました。

小林特任教授:「温室効果ガスの4%ぐらいを牛の“げっぷ”が占めている。環境問題にも直結する」

■メタンガス消えた!?大発見の“食材”

メタンガスを減らす食材を探すための実験方法です。牛の胃袋に見立てた試験管に様々な食材を入れ、「どう発酵が進むか」を調べます。試験管の表面に浮く“泡”が、メタンを含むガスです。

この“泡”を出さない食材を探す日々。そして、エサの研究を始めておよそ30年、ついに、カシューナッツの殻から絞った液体を混ぜてみたところ、泡がほとんど発生せず、メタンガスの削減効果があることが分かりました。

小林特任教授:「カシューナッツの殻(かく)液の場合は、(試験管内で)9割以上のメタンガスが削減。非常にびっくりして、『これホンマかいな?』と」

それからさらに4年後、企業と共同で牛が好む味に加工し、エサとして商品化。排出するメタンガスをおよそ30%減少させることに成功したのです。

■エコで肉質向上…奇跡の“サステナブル和牛”

メタンガスの発生を抑える大発見は他にもあります。やってきたのは、都内にある肉割烹の店です。

西麻布おにく玲 斎藤玲店主:「サステナブル和牛『熟』のサーロインの炭火焼でございます」

濃い肉色と、美しい“さし”が入った和牛。実は、メタンガスの排出量が減るとともに、肉質までも劇的に向上した“奇跡の牛”なのです。

この「サステナブル和牛」の正体は、島根県雲南市の山奥にありました。

そこで育てられていたのは、「経産牛」と呼ばれる、お産を経たメスの牛です。

一般的に、経産牛は肉質が劣るとされ、主にミンチ肉やドッグフードに利用されています。ところが…。

熟豊ファーム 石飛修平社長:「(エサは)独自に配合したもので、『アマニ油』を入れている。(アマニ油)は牛の脂質の改善と、メタンガスの排出を抑えることができる」

■牛の“げっぷ”メタンガス80%削減を目標

亜麻の種子から抽出される「アマニ油」。牛の胃の中でメタンガスの発生を抑える効果があることが分かったのです。

さらに、この「アマニ油」は、肉質にも大きな変化を与えました。

経産牛では不可能と言われてきた、最高級「A5ランク」の肉まで育てあげることも。現在、15カ国に輸出し、ミシュランの星付きレストランからの注文もあるといいます。

我々の生活に欠かせない牛肉や牛乳。その一方で、地球を守っていくためには、牛の“げっぷ”問題は決して他人事ではありません。

小林特任教授:「環境問題に配慮して、末永く牛が我々と共存できる、そういう時代の畜産を目指して(牛の“げっぷ”のメタンガスを)80%削減する、高い目標を据えています。2050年には近付いていけるのではないかなと」

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