「継続は革新の積み重ね」60年以上紡がれる調査の意義 南極ノート×未来プロジェクト[2023/02/03 23:30]

テレビ朝日でこれまで放送してきた『未来はここからプロジェクト』の一環で、気候変動などSDGs企画をお伝えします。3日のテーマは「気候変動に具体的な対策を」です。

テレビ朝日が同行取材をする南極観測隊はついに、南極の氷が解けている原因とも言われている、海の中の調査を始めました。

氷の観測のため、隊員たちと共に船に積まれてきたのが、最新鋭の水中ロボット『MONACA』です。

先月27日、報道ステーションの吉田遥ディレクターたちは、昭和基地から観測船『しらせ』に再び乗り込み、MONACAチームの取材へ。

MONACAは、第64次南極観測隊の肝とも言えるプロジェクト。ロボット担当、山縣広和さんの表情には鬼気迫るものがありました。

山縣広和さん:「(Q.きのうは寝られました?)睡眠時間は取れましたけど、ちょっとギリギリですね、正直。皆さんからの期待も含めて、ここで動かしてみせないと、ちょっとね。なかなか厳しいところで」

南極に到着して1カ月。いよいよ重点研究に位置付けられた調査が始まります。

そもそも、なぜ南極の氷を調べる必要があるのか。

一般的に言われるのが、もし南極大陸の氷の全てが解けてしまうと、海水面を58メートルも上昇させるということ。しかし、それだけではないと語るのは、これまで何度も南極観測に参加した北海道大学・低温科学研究所の杉山慎教授です。

杉山慎教授:「(南極は)誰の国のものでもないにもかかわらず、ものすごく大きな地球に対する役割を持っています」

南極は、世界の海を循環させる、いわゆる“海洋大循環”のポンプの役割を担っているといいます。

杉山慎教授:「海の循環は、熱とか物質を地球の各地に運ぶ『ベルトコンベヤー』なんです。そのベルトコンベヤーが狂うと、色んなところで気候に変化が起きます」

杉山教授によりますと、温暖化で南極大陸の氷が解けてしまうと、海水の塩分濃度が薄まることで、循環しにくくなり、気候変動にもつながるといいます。

だからこそ、南極の海の調査。その鍵となるのがMONACA。狙うは、氷の裏側です。

南極大陸から突き出した氷の下に、温かい海流が流れ込み、氷の裏側を解かすことで、氷の崩落を招き、氷床融解を起こしているのではといいます。

観測隊は、南極に到着してから幾度となく現場を偵察。しかし、海への投入を前に、自律航行を目指すMONACAは、不調で思うように動かなくなりました。

山縣広和さん:「(MONACAの不調が)再発してしまったら、きょうの午前中、もしくは下手すると一日無理。(Q.再発の場合はきょうのミッションは中止にする?)そのレベルの不調が発生している。これはもう正直分からない」

ロボット開発者の山縣さんと共に観測する、藤井昌和さん。藤井さんの仕事は、MONACAが取得したデータの分析です。MONACAを動かそうとする山縣さんと、二人三脚で歩んできました。

藤井昌和さん:「山縣さんが健康になると、私も健康になる。この後、もう1回動かなくなったらどうするのか。そういった対策も含めて『やっぱりやります』と言うのは、結構プレッシャーなんですよね」

なんとか調整を終えたMONACAは、ついに海の中へ。

しばらく経つと、MONACAの姿はもう、『しらせ』からは見えなくなりました。チーム全員、MONACAを信じます。

隊員:「MONACA順調に航行中です」「素晴らしい」

そして、ついに…。

山縣広和さん:「到達した?無事かは分かりませんが、とりあえず全ミッションの工程を自律で航行終了いたしました。初航行成功でございます」

初の自律航行は成功しました。

山縣広和さん:「帰還でございます。やっと一発目」

そして、ここからが研究の本番です。取得した海水温のデータなどは持ち帰り、今後、氷床融解の研究などに生かされます。

藤井昌和さん:「どれくらいの温度の海水が、氷に接して解かしているのか。まず近くの氷河をきちんと観測することで、プロセスを理解して、もっと大きいインパクトのある氷河につなげていく一助になる」


【「継続は革新の積み重ね」南極観測“60年超”の調査】

◆南極観測隊に同行取材している吉田遥ディレクターと中継がつながっています。


(Q.ハプニングもありましたが、氷の裏側の調査の進捗はどうですか?)

MONACAを使った観測は今も続いていて、昨日は海水温や塩分濃度を取ることに成功したということです。

南極の海の性質を知るうえで、非常に貴重なデータになるとみられています。

『しらせ』はこの後、トッテン氷河に移動し、様々な海洋観測が予定されています。

トッテン氷河は東南極最大の氷河と言われていて、ここの氷が全て解けると、海面が約4メートル上昇するという予測もあります。

ただ、実際に温かい水がどのように運ばれて、氷を溶かしているのか。まだ分かっていない部分も多く、今後も長期的な観測が必要になります。


(Q.日本を出発して約3カ月。間近で観測隊や、その調査を取材して、どう感じましたか?)

今行われている調査も、すぐに大きな成果につながるものばかりではありません。

ただ、蓄積されたデータがあるからこそ、今の地球環境を知ることができるのだと思います。

実際に、過去のオゾンホールの発見なども、日本の観測隊が“長期的な観測”を行っていたからこそ、発見されたものです。

隊長は「継続は革新の積み重ねだ」と話していて、長く続けることでしか解明できない調査が、まさに今ここで行われています。

歴代の隊員の方たちが「南極で越冬するんだ」という覚悟があったからこそ、この60年にわたる南極観測が紡がれてきたのだと感じる3カ月間でした。


(Q.吉田ディレクターの任期は残りどのくらいですか?)

残念ながら、あと3日後に、この昭和基地を去ることになります。

私たち夏隊は、第63次越冬隊と共に『しらせ』に乗り込んで、オーストラリアを経由して、来月下旬にも日本に帰国する予定です。


(Q.第64次越冬隊の皆さんとは3日後にお別れになります。名残惜しいですか?)

28人の隊員は、この昭和基地に残ることになるので、寂しい気持ちがこみ上げてきています。

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