年に一度!氷上に現る“幻の村”…悪戦苦闘の舞台裏 救世主は“最高齢”70歳スタッフ[2023/02/18 11:00]

北海道で最も高い場所にある湖「然別湖」。その上に年に一度、氷と雪でできた“幻の村”が現れます。しかし、オープンまで1週間を切っているのに、作業が大幅に遅れているというのです。追い打ちを掛けるように襲い掛かる、10年に一度の大寒波やトラブル…。オープンまでの悪戦苦闘を追跡しました。

■最年長は…41年携わる“70歳のスエさん”

北海道の中央部に位置する鹿追町。ここで43年前から開催されているイベントが「然別湖コタン」です。“コタン”とは、アイヌ語で「集落」のこと。

会場は、北海道で最も高い場所にある湖「然別湖」です。氷点下になる冬は凍結。厚さ1メートルほどの氷に覆われることもあります。

“幻の村”を作る作業は、正月明けから本格的に始まりました。

然別湖コタン実行委員会 副委員長・石川昇司さん:「湖の上は、大きな機械が入れませんから、せいぜい重たい物としては、スノーモービルくらい。それ以外は、全部人力」

自然ガイドや農家、自衛隊、そしてボランティアなど、およそ20人が参加します。

スタッフ:「この辺の雪に湖の水をつけたシャーベット。これが間に入って、夜のうちに凍って硬い壁になる」

雪と湖の水を混ぜ合わせて固めたブロックをおよそ1万個作り、それを重ねて建物を作っていきます。

最年長のスタッフは、“スエさん”こと菅原末治さん(70)です。

スエさん:「(Q.どうですか?)おいしそう」「ひな祭りのお菓子か?」
ボランティア:「そうです」
スエさん:「100点」

スエさんは、“幻の村”作りに41年も携わっている最古参なのです。

スエさん:「29歳何カ月くらいの時に、村長をやり出した」「(Q.今も村長?)今は…単なる年寄りです」

■頼れる大ベテラン「感動の顔を見るのが…」

13年前、幻の村の「村長」としてスタッフを率いていたころのスエさん。

スエさん:「おい、来るなって、ダメだって。合図通り、動くんだ。自分で考えるなよ」

当時57歳だったスエさんは、パワー全開でした。

スエさん:「急げ、走れ。早く走れ」

この時は、露天風呂のパイプが詰まり、温泉が出ないトラブルを解決しました。

いくつもの修羅場を切り抜けてきた、頼れる大ベテランです。

スタッフ:「何でもできるレジェンド。あんなに動ける70歳、すごいと思います」

とはいえ、寄る年波には勝てないのか…。

スエさん:「なんか間違ってないか?なんか間違った?」

氷の寸法を間違えてやり直し。200キロ以上ある氷を持ち上げるも…。

スエさん:「貧血状態でチカチカしてきた」

なぜ、そこまで…。

スエさん:「モノづくりが好きだから。人の感動した顔を見るのが楽しいから」

■“人手不足”“自然の変化”でピンチ

実はこの時、イベントはピンチに陥っていました。オープンまで1週間を切っているのに、作業が大幅に遅れているのです。

然別湖コタン実行委員会 委員長・井上貴生さん(63):「(コロナ禍で)ここ2年くらいは本当に苦労しています。人がいなくて。今の人数でできることをやるしかないということで、規模を小さくしながらやっています」

イベントを手伝ってくれるスタッフが年々減少。そのため、御年70歳になるスエさんが頑張るしかないのです。

スエさん:「働き方改革がイベントの現場にも入ってきている。10年前は、ご飯を食べて午後7時から夜間作業。午後10時くらいまで。それがざらだった」

時代の波がイベントの開催に影を落としていました。さらに、作業を遅らせる頭の痛い問題が起きました。

スエさん:「いつもだったら、この近くで切り出す氷が、今年は氷が薄くて。ずっと向こうの湖の真ん中まで行って氷を切り出しています。自然が変わってきているから、どうしようもなくて」

テーブルなどに使う厚い氷を求め、イベント会場から2キロほど離れた場所まで切り出しに行かなくてはならないのです。

スエさん:「しんどい」

■課題は…過酷な作業に耐えられる“後継者”

オープンまで、あと3日。この日は、全国各地で10年に一度の大寒波が襲いました。

スタッフ:「なんだこの天気。早く終わりたいよ」

この日の最低気温は、マイナス14℃。山の上は、さらに厳しい寒さです。

スエさん:「どんなにふぶいても作業は止まらない。休んでいられない」

この過酷な作業に耐えられる後継者を育てていけるかが、これからの課題です。

スエさん:「若い連中と一緒に仕上がりまで苦労してやって、仕上がった時の感動を一緒に共有できた時、なんとかなるやつが出てくるかもしれない」

■盗難事件? 急きょ“デザイン変更”に

オープン前日、事件は起きました。

スエさん:「テーブルの氷がなくなった。とられちゃったよ。どうする?どうする?これはチャペルに使うし、これは小さいし」

ここに置いてあったはずの氷が突然消えてしまったといいます。こうして、アイスバーのテーブルに使う予定だったのですが、一体どこへ…?

スエさん:「使えそうないいやつを成形してあったんだけど。はぁ…ショウジかな。ショウジだよな、使ったのは」
スタッフ:「持っていっちゃったんだね」

容疑をかけられたのは、内装を担当しているショウジさん。

ショウジさん:「(Q.氷を持っていった?)かもしれない…。『持っていっていい』って言ったから持っていった」

作業の映像をよく見てみると、よく似た氷を切断している姿が映っています。結局、アイスバーのデザインを変更して、テーブルを1カ所なくしました。

作業終了間際、スエさんが鉄板を温め始めました。

スエさん:「頼もしい助っ人。一気に透明感が出てくる。逆鉄板焼き」

鉄板の熱で氷の表面を溶かしてツヤを出す最後の仕上げ。ギリギリまで作業が続けられました。

■ついに…世界唯一!? “氷上の露天風呂”も

こうして年に一度、湖の上に現れる“幻の村”が今年もオープンしました。

札幌から来た女性:「開催日の付近が、自分の誕生日なので、誕生日祝い」

世界唯一かもしれない氷上の露天風呂。源泉かけ流しの温泉は、後ろのホテルから100メートルのパイプをつなげて引き入れています。

アイスバーでは、コンサートも楽しめます。

ニュージーランドから男性:「冷たい!でも、最高だよ!」

さらに、宿泊できるアイスロッジもあります。なんと予約でいっぱいだとか。

長野から来た男性:「下が湖なので、音が聞こえるらしい。氷がパキパキいうような音」
札幌から来た男性:「寝ている最中に鳴られたら、たまったもんじゃない」

年に一度、湖の上に現れる“幻の村”。作り続けて41年のスエさん。また来年も参加するんですか?

スエさん:「カラダが続けば、もう70歳になるので。『70歳とは思えない』と皆にもてはやされているので、まただまされて来るかもしれません」

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