福島・岳温泉の“知られざる湯守” “ミルキーデイ”守るため奮闘「ありがたい存在」[2023/02/28 17:58]

福島県二本松市、安達太良山の麓に広がる岳温泉。街の名物は、週に一度、白く濁る“ミルキーデイ”です。雪山を往復5時間かけて歩き、危険と隣り合わせで温泉の管理を担う「湯守」と呼ばれる達人たちを追跡しました。

■2時間半かけ…“週1回”温泉の通り道を掃除

湯守は総勢5人。隊長は民宿を経営する武田喜代治さん(71)。一番上は72歳、一番下は名古屋から移住してきた新人さんだとか。

武田さん:「一番若いのは、地域おこし協力隊。週に一度、手伝いをしてくれる」

湯守歴1カ月・中山大輝さん(27):「湯守さんは誇りを持てる仕事をしている人だなと感じた。縁の下の力持ちにひかれました」

彼らは週に1回、温泉の通り道を掃除するため山に入ります。

岳温泉のお湯は、安達太良山の標高1500メートル付近にある源泉からパイプを通って、温泉街まで流れてきます。

その距離は、およそ8キロ。全国でも一、二を争うほどの長さです。掃除をしないと、パイプの途中で温泉成分が固まり、詰まってしまうのです。

武田さん:「流れが悪くなると、下でお湯の取り合いになってしまう」

出発してから、およそ1時間。隊長の武田さんから聞きなれない言葉が…。

武田さん:「これから道削るから」

毎年、雪が4メートル以上も積もる安達太良山。スコップで雪を削り、道を作りながら進みます。すると、新人さんがピンチに…。

武田さん:「左足の下、空洞になっている。右足の所に行け」

冬は厳しいこの登山道も季節によっては別世界だといいます。

武田さん:「見事に色付くと、赤と黄色で緑が見えなくなる」

湯守歴5年・矢吹梓さん(44):「(Q.ツライだけではない)大変は大変だけど、こういうの見ると気持ち良いですね。ワクワクして」

出発からおよそ2時間半。

武田さん:「着きました。通勤終わり」

■危険と隣り合わせ…特製たわしで“湯花”を

この日は、標高1345メートルにある山小屋付近で作業をします。

それにしても、温泉が通るパイプはどこにあるのでしょうか?

矢吹さん:「上から掘ると落ちるから、手前から掘って」
中山さん:「はい」

聞けば、鉄の柱が目印だといいます。

掘り進めると、突然、穴が出てきました。実は、温泉の熱によって空洞になっているのです。気付かずに落ちれば命にかかわります。

武田さん:「落ちたら上がりようがないので。中に入ると出ようがない」

湯守は、まさに危険と隣り合わせの仕事。油断は禁物です。

矢吹さん:「温泉を管理する点検口」

ようやく、温泉が通るパイプが姿を見せました。

一方、30メートル先にある別の点検口。ここからロープを流し込みます。それを先ほどの点検口でつかまえて、手繰り寄せるのです。

すると、見て下さい。黄色く濁りました。これは硫黄成分が空気に触れてできた“湯花”。パイプを詰まらせる原因になります。

矢吹さん:「これ、たわしです。遠藤さんが作ってくれた」

湯守歴11年・遠藤憲雄さん(72):「(Q.遠藤さんが?)この(点検口の)マスも俺が作ったんだよ。全部」

遠藤さんの本職は配管工です。パイプを傷付けないように、ステンレスで作ったという特製たわしです。

場所を移動しながら何度も掃除。気の遠くなる作業です。

この、週に一度行う掃除のおかげで、“湯花”が温泉街のお風呂に流れ込み、“ミルキー温泉”が楽しめるのです。

湯守歴6年・影山政敏さん(70):「温泉があるから岳温泉として知れ渡ったけど。温泉がなければ、ただの岳(だけ)ですからね」

■震災の時も点検に…女将「本当にありがたい存在」

ミルキー温泉は、およそ40分かけて温泉街まで流れていきます。毎週月曜日がミルキーデイです。

福島市から来た男性(70代):「ありがたいよ。感謝だよな。掃除してくれなければパイプ詰まっちゃうもんね」

この貴重なお湯を求めてやってくる人も多いのです。

子ども:「あったかい」

仙台から来た男性(50代):「最高です。入ったら?」

岳温泉で旅館を営む女将さんには特別な思いがあります。

お宿 花かんざし 女将・二瓶明子さん:「東日本大震災の時は、すべてのライフラインが止まったけど、本当にありがたいことに温泉だけは流れ続けてくれた」

湯守たちは震災の時も、パイプの点検に向かったといいます。

二瓶さん:「この街には、なくてはならない人たち。誰かが代わってやろうかって、できる仕事でもない。本当にありがたい存在」

隊長の武田さんは、湯守になって21年の大ベテラン。町の宝を守り続けてきました。

武田さん:「(温泉が)出ているうちは有効に使う。自然の恵ですからね」

■最難関でピンチ?! 途中でたわし“引っ掛かる”

これから掃除するのは最難関。点検口から点検口まで300メートルもある最も長い区間です。

矢吹さん:「うきわを付けて流します」

長すぎるため、ロープを付けて流すのは困難。この区間専用のたわしを作りました。

たわしを待ち受ける武田さん。ところが…。

武田さん:「止まったな」
矢吹さん:「じゃあ、またやってきます」
武田さん:「うん。ちょっと波立てて」
矢吹さん:「はい」

パイプの途中で、たわしが引っ掛かってしまったようです。

武田さん:「どっか途中でズルして休んでいる。パイプの中で」
遠藤さん:「パイプの中に潜っていって」
中山さん:「ウナギかなんかかい」

15分経っても、一向にたわしが出てきません。

隊長が動きました。300メートル離れた、たわしを入れた点検口に。

武田さん:「(Q.それは何ですか?)ちょっと流してみようと思って」

入り口付近で引っ掛かっている可能性が高いとみた武田さん。別の道具を入れてみます。すると…。

矢吹さん:「さっきより(湯量が)低くなりました」

どうやら、たわしが外れ、お湯が流れたようです。

影山さん:「(Q.(たわし)ありましたか?)ありました。ちょうどこんな感じで止まっていた」

さすが隊長。

武田さん:「何かやってみないとダメなんだよ」
矢吹さん:「親方いないとダメだ」

1000年以上にわたり愛されてきた岳温泉。湯守たちは、きょうも山を目指します。

武田さん:「(Q.まだまだやめられないですね)いや〜もう限界ですよ。この中、歩いて来るんだもん」

(「スーパーJチャンネル」2023年2月27日放送分より)

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