“サラリーマン漁師”水揚げゼロでも…給料&ボーナス 県外から移住「生活面は安定」[2023/03/12 13:00]

 旬のサバやブリが水揚げされる高知県室戸市では、移住若手漁師が“大量”にデビュー。そこには、“不規則”で“不安定”という負のイメージを払拭した、「サラリーマン漁師」という働き方がありました。

 しけなどで水揚げがゼロでも、固定給とボーナスが確実。さらに、有休や手厚い手当もあります。

 高齢化や担い手不足が深刻な日本の漁師の世界を救う一手となるのか?“新しい働き方”を追跡しました。

■熱意伝え…女性初「サラリーマン漁師」に

 舞台は、高知県室戸市。「ユネスコ世界ジオパーク」に登録されている、自然豊かな町です。

 土佐湾と太平洋に囲まれた漁場。旬のサバやブリなどが水揚げされる、この漁師町では今、漁師の「新しい働き方」が注目を集めています。

 漁師:「昔は組合員やったけど、今は(全員)会社員」「給料はカッチリしとるし」「福利厚生もしっかりしとるし、会社員と一緒。生活面は、安定できるわな」

 20人の漁師が所属する、三津大敷株式会社。去年、「組合」から「会社」に変わり、漁師は全員が“社員”として雇用されている「サラリーマン漁師」です。

 勤務時間は、きっちりタイムカードで管理。天候などに左右されず、毎日決まった時間に出社します。

 午前6時15分、出港。美しい朝焼けを眺めながら、きょうの漁場へ“通勤”します。

 岩田梅佳さん(23):「(Q.朝日すごくキレイなんですね)そうですか?私、興味ないんで別に…ハハハハ。きょうは、どんな魚がいてるかなぐらいで」

 絶景よりも、魚に興味アリの岩田さん。3年前、和歌山県から移住した、女性初の「サラリーマン漁師」です。

 岩田さん:「(船酔い大丈夫?)私は(最初から)全然ないです」

 漁の手法は、大型定置網漁。魚の回遊するポイントに、あらかじめ仕掛けていた網を引き揚げ、そこに掛かっていた魚を大きなタモですくい上げていきます。

 網上げには、機械も導入されているとはいえ、かなりの重労働ですが…。

 岩田さん:「海の上で仕事をして…というカッコ良さ。海と魚に触れられる仕事で、最初に思い付いた漁師になろうと」

 当初、採用は男性限定だったものの、この会社に何度も熱意を伝え、受け入れてもらったといいます。

 三津大敷 漁労部長 山本幸生さん(66):「『あの子は、すぐ辞めるだろう』というのが普通の考え。頑張っています、あんな華奢(きゃしゃ)なのに」

■水揚げゼロでも…「給料とボーナス」保証

 およそ1時間の漁を終えると、港へ戻り、種類や大きさで魚を選別します。

 漁で使う道具の整備などをして、午後3時前には、すべての仕事が終わります。

 岩田さん:「どかすか獲れない日もあったり、獲れた日もあったり。ホンマに、日によって色々」

 山本さん:「ダメです。ホンマに量がないわー」「(Q.赤字?)赤字、赤字」

 水揚げ量が少ないことや、海が荒れ漁に出られない日も避けられないのが、漁師の宿命。でも…。

 山本さん:「固定給とボーナスが確実にある。水揚げ関係なくて、それが一番の違い」

 たとえ水揚げがゼロでも、給料が保証されているのが「サラリーマン漁師」のメリットです。

 三津大敷は去年、全国展開する水産会社に加盟しました。そこから、資金や設備の援助を受けることで、より効率的な漁が可能になったのだといいます。

 岩田さんは、週6日勤務で、基本給23万円。他に食事手当1万2000円、住宅手当など、合わせて月26万7000円。年に2回ボーナスもあり、収入面での不満はないといいます。

 岩田さん:「すべてと言っていいくらいのお給料が…」

 余暇の過ごし方は、大好きなアイドルのライブを見ることです。

 岩田さん:「大阪とかまで有給をもらって行く」「(Q.有給がある?)サラリーマン漁師です」

 有給のほか、年末年始やゴールデンウィーク、お盆などが休み。休日出勤をした場合の手当も支給されます。

■給料に驚き「こんだけもらっても…」

 その待遇や休日などの安定に魅力を感じ、「サラリーマン漁師」に転職した人もいました。

 河野清隆さん(32)は、5歳の息子と3歳の娘の2児のパパ。6年前まで、食品工場で製造を担当していました。

 河野さん:「最初、『こんだけもらっても、いいものか』ビックリした」「(Q.以前より、お給料良くなった?)もう、はるかに」

 去年、副船長に抜擢(ばってき)された河野さん。頑張れば評価され、昇給もある環境にやりがいを感じているといいます。

 2年前、念願だった5LDKのマイホームも建てました。

 午後3時には仕事が終わるため、子どもと過ごせる時間が増えたことが、何よりの幸せだとか…。

 「共働き」の妻を助けるうちに、料理の腕もみるみる上達しました。

 妻・愛さん:「私より上手。すごく助かっています。ほとんどやってもらってばっかり。お迎えもご飯も」

■漁師の確保…行政もバックアップ

 室戸市では漁師の後継者不足を解消しようと、今では4つの定置網漁の漁業者が「サラリーマン漁師」制度を導入しています。

 去年兵庫県から移住 藤田美優さん(21):「雰囲気は良いです。優しい人が多くて。思っていた以上に働きやすい」

 ベテラン漁師:「だいたい女性やったら、こういう仕事はかっぱで長靴…イヤやろ?若い子やったらオシャレもしたいし、本人は好きなんがよね、この子は」

 藤田さん:「全然、肌とか気にしな〜い」

 過去4年で、30人以上が県外から移住してきました。

 ベテラン漁師:「(漁業を)絶やさんために、県外から来た人でも受け継いでもらえたら。世代交代。今から先、若い子の力じゃないと」

 漁師の確保を行政もバックアップ。室戸市では、移住を検討する人が、家財道具がそろった施設を格安で利用することができます。

 室戸市移住促進室:「急に漁師になるより、研修制度をはさんで自分に合うか見極められる時間がある。移住してくる人も、ストレスなく室戸に来れるのでは…」

■“海の男”憧れ…県外の若者が研修に

 この日も、県外から研修に訪れた若者がいました。

 奈良県に住む寺島悠さん(18)。テレビで見た“海の男”に憧れ、3カ月前に続き、2度目の研修なのですが、この日は、あいにくの雨で海も荒れ模様。寺島さん、大丈夫でしょうか?

 意外な大漁に、沸き立つ船上!

 漁師:「引いてくれ」

 先輩たちの足を引っ張らないよう、必死に食らいつきます。

 およそ1時間、悪天候と闘いながらも水揚げは上々。先輩たちは、「船酔いしなかっただけで立派」と評価していました。

 山本さん:「最近の若い子は、しっかりしている。受け答えも何も。なかなか良い子と思います」

 寺島さん:「立ち姿とか、かっこいいなって。まだまだですけど、頑張っていきたいと思います」

 寺島さんは来月、サラリーマン漁師としてデビューすることに決めました。

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