胃がんの最新治療 「歯科検診」に「ジム通い」…「チーム医療」で目指せ“早期回復”[2023/04/24 18:00]

日々進化を続ける医療の最前線を追跡。今回は済生会横浜市東部病院で、ステージ4の胃がん患者の手術に密着しました。

手術前には「歯科検診」で歯の健康状態をチェックし、ジムで運動も。一見、胃がん手術と無関係に見えるのですが、これらは「チーム医療」と呼ばれ、入院日数が減るなど患者の「早期社会復帰」につながる最先端の治療法なのです。

他にも「ロボット」を使用した手術方法も、患者への身体的負担を最小限に抑えています。

「チーム医療」によって可能になる患者の「早期復帰」。胃がん手術の最前線を追跡しました。

■手術可能に…「前向きに取り組めている」

横浜市にある、済生会横浜市東部病院。年間延べ3000件以上のがん治療の実績を誇ります。

現在、主ながんの治療法は、直接がんを取り除く「外科治療」、抗がん剤などを使用する「薬物治療」、放射線でがんにダメージを与える「放射線治療」の3つです。

2月、病院を訪れたのは主婦の松田芳江さん(45歳・仮名)。

去年11月に胃がんが発覚。しかも…。

副院長 江川智久外科部長(52):「ここに光ってる、これ。下大静脈と大動脈の間に、こういうしこりがあって、本来ないんですね。これがあるだけで、ステージ4の診断になってしまいます」

がんは広い範囲に転移が及ぶと、取り切ることが難しく、外科手術に踏み切れない場合もあります。そのため、最初は抗がん剤での治療を行いました。

その結果、転移していたがんが小さくなったため、手術に踏み切れるといいます。

松田さん:「最初、手術は難しいと言われていたので、(手術)できるって聞いて、すごく前向きに治療に取り組めています」

手術が決まった松田さん。早期回復を目指すには、手術前からの準備が重要なんです。

■手術前に“歯科検診&栄養管理” 治療に関係は?

向かった先は「患者支援センター」という部署。ずらっと小部屋が並んでいます。

呼ばれて入って行くと、胃がんの治療だというのに歯科検診?

歯科衛生士:「歯がぐらぐらしていないか。歯の汚れを、きょう、みせてもらいます」

また、隣の部屋で待っていたのは…。

管理栄養士:「管理栄養士の工藤と申します」

管理栄養士が、患者の筋肉量や栄養状態を確認します。

一見、胃がんの治療には無関係にも見えますが、どういうことなんでしょうか?

患者支援センター長 谷口英喜麻酔科医(57):「栄養管理、栄養状態の悪い人を手術したら合併症が増えてしまいます。あとは全身麻酔を受ける患者さんは口の中をきれいに。具体的には、肺炎にならないようなレベルに持っていかなければならない」

手術に臨む患者を最善の状態にすることが重要だといいます。

■「患者中心のチーム医療」 複数の専門家で支援

手術の準備は病院だけで行うわけではありません。

松田さんが訪れたのは医療的要素を取り入れたフィットネスジムです。

理学療法士や柔道整復師のもと、抗がん剤の影響でダメージを受けた、筋力と呼吸器の機能アップを図ります。

谷口麻酔科医:「患者さんは大きな手術が決まったけども、自分で何をしていいか分からない。やっぱり普通の生活を手術前まで続ける。できたら体力アップして、そして心身ともにいい状態で手術に臨むのがいいです」

フィットネスジムでの患者の状況は病院と共有。病院内ではできない、運動療法などは地域の施設と連携することで補います。

他にも医師や看護師、薬剤師など複数の専門家で支援するこのシステムは「患者中心のチーム医療」と言われ、全国で徐々に増えつつあります。

谷口麻酔科医:「どうやったら一番病気が治るかというと、手術の後、全く痛くなく、気持ち悪くなく、おなかがすくような環境を提供できればいいんです。何よりも精神的にすごく患者さんはやる気が出て、早く退院したくなる。そういうことが治癒能力にもつながります。ただ治癒能力をサポートしていくのは周りのいろんな職種の支援が必要」

患者の負担を減らし、なるべく早く日常生活に戻す。それが「チーム医療」のメリットだといいます。

■“手術支援ロボット”で 患者“負担減”に

手術当日。

前日は緊張であまり寝られなかったという松田さん。手術室に向かいます。

早期回復を目指す「がん治療」。そこには手術方法の進歩も大きく関わっています。

手術開始。登場したのは手術支援ロボットです。

11年前にこの病院に導入され、今では年間300件以上もの手術がロボットを使って行われます。

おなかに開けた穴から内視鏡を入れ、ロボットを操作します。

開腹手術に比べ、傷口が小さくて済むため、回復が早いのが特徴です。

しかし、同じ内視鏡を使って、直接手で行う腹腔(ふくくう)鏡手術とはどう違うのでしょうか?

江川外科部長:「これが通常、腹腔鏡手術で扱う道具で、自由な動きというのは難しくて。多少こういう回転はできるんですけど、かなり動作の制限がある道具です」

一方、ロボット手術には、この関節があることが大きな特徴です。

江川外科部長:「ロボットですと、よりスムーズに行うことができます」

ロボット手術は出血量も少なく、スピーディーな作業を可能にしました。

松田さんの手術は8時間と大手術になったものの、胃を3分の2、大動脈周辺のがんをすべて摘出し、無事終了しました。

■手術後も…「チーム医療」でサポート

手術翌日。

手術後、“痛み”を感じさせないため活躍するのも「チーム医療」です。

谷口麻酔科医:「おはようございます。痛みどうですか?」

松田さん:「大丈夫です」

谷口麻酔科医:「ほとんどないくらいですかね」

鎮痛剤を投与し、痛みが出ないようコントロールします。管理栄養士からは…。

管理栄養士:「お昼から、ジュースとか、葛湯みたいな飲み物2〜3品くらい提供させていただく予定でいます。かむようにゆっくり飲んでいただければと思います」

昼前には看護師が付き添い、歩く練習が始まります。

看護師:「いいですね。バッチリです」

さらにジュースなどを飲めるまでになりました。

松田さん:「おいしいです」

事前の準備もあってか、合併症もなくすっかり表情も和らいでいました。

■医療ジャーナリスト「理想のオーダーメイド治療」

手術から8日。退院の日がやってきました。

松田さん:「思ったより早く歩けたし、ご飯もすごく早く食べられたので意外でした。2、3日寝たきりかなとも思っていたので」

今回の入院期間は8日。費用は、高額療養費制度や健康保険が適用され、およそ24万円。

チーム医療の導入で、患者の負担も減っているといいます。

退院から2週間経過した松田さん。今も体調に問題はないといいます。

この30年で大きく進化してきた「がん治療」。数多くの医療機関を取材する伊藤隼也さんは、チーム医療のメリットをこう語ります。

医療ジャーナリスト 伊藤さん:「こういう患者支援センターがあると、いわば一つのセンターがすべて包括的に面倒を見てくれる。ある意味で、理想の“オーダーメイド治療”ですよね。そういう治療現場が増えることによって、患者さんがより良い形で、病から立ち上がっていく。そういうことが可能になります」

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