「愛をつなぐキッチンカー」小児病院に笑顔を! きっかけは“長男の闘病の日々”[2023/05/13 17:00]

「入院中の子どもに付き添う家族を応援したい」と、去年から始めたキッチンカー。「応援チケット」を使って広がる支援の輪。小児病院に笑顔を届ける、“愛をつなぐキッチンカー”を追跡しました。

■息子の手術で泊まり込み「手づくりありがたい」

群馬県渋川市にある群馬県立小児医療センターに、毎週水曜日、1台のキッチンカーがやって来ます。

夫の青木佑太さん(39)と妻の麻純さん(36)。去年10月から、キッチンカー「fufufu−soup」を始めました。

オープンは午前11時。すると早速、足の治療のために通院している男の子とお母さんが来ました。

注文したのは、「旬野菜としめじの豆乳スープ」。ニンジンやレンコン、シメジなどが入ったほんのり甘いスープです。

足の治療のため通院中の母子:「すごく具だくさん。優しい味」「神だ」

その優しい味を求めて、次々とお客さんが来ます。

麻純さん:「お疲れ様〜」

佑太さん:「きょう手術?」

清水さん(29):「さっき終わった」

清水さんの1歳の次男が足の付け根のヘルニアで、この日、手術を受けました。

麻純さん:「パパはあとで(来る)?」

清水さん:「交代で食べて」

手術が終わったばかりで目が離せないため、夫と交代で食事をとります。おにぎりとスープを買いに来ました。

清水さん:「ありがとうございます」

麻純さん:「またね〜」

2泊3日の入院中、泊まり込みで付き添いを続ける清水さん。およそ1時間の手術が終わったばかりでした。休憩所の隅で、付き添い中、数少ないほっと一息つける時間です。

清水さんが買ったのは、「ヴィシソワーズ」。ジャガイモの冷製スープです。

清水さん:「ジャガイモの味とクリーミーな感じで、朝もそんなに食べていなかったんで、しみわたります」

実は、清水さんは去年、長男も手術で入院し、2週間ほとんど病室から出られなかったといいます。

清水さん:「(子どもが)寝ている間に抜け出して食べるしかないので、(今は)手づくりのものが食べられるのがすごくありがたい」

■仕込みは妻の麻純さん「夜中まで作る時もある」

評判のスープ、仕込みは前日から妻の麻純さんが行います。

麻純さん:「野菜をとってほしいという思いがある」

生協で営業の仕事をしながら、キッチンカーの調理もこなす麻純さん。

麻純さん:「夜中まで作ってるとか、日を越えるまで作っている時もある」

そして、もう一つの看板メニューのおにぎりは、サケなどの定番から味噌クリームチーズといった変わり種など6種類あります。

麻純さん:「サケも天然の紅ザケを使って、焼いて一個一個ほぐしたほうが、おいしさが増すかなと」

■「スープで頑張れる」付き添い家族

続いてキッチンカーにやって来たのは、常連の根岸彩乃さん。

根岸さんは10年前、切迫早産で双子の男児を出産。弟の蓮夢(れんむ)くんは4日後に亡くなり、兄の徠来(らいき)くんが「水頭症」で入院中。およそ2週間の入院が、毎年2回程度あるといいます。

この日に買ったのは、「野菜たっぷりの豆乳スープ」です。

根岸さん:「付き添いだと本当に缶詰め状態になってしまうので、体も具合が悪くなってくるんですけど。本当にこういう温かい体に良いものが食べられたら、お母さんも子どもたちも頑張れるかなと思います」

青木さん夫婦とは知り合って1年になりました。

根岸さん:「うちの息子が亡くなっていて、一馬くんとお空で遊んでいるかなと」

■「長男の闘病の日々」きっかけに

青木さん夫婦がキッチンカーを始めた理由。それは今から5年前、長男の一馬くんが3歳の時、白血病に…。

佑太さん:「『再発さえしなければ、すごく予後が良い』と言われていたのに再発してしまって」

闘病生活は、およそ1年に及びました。

付き添いのため、麻純さんは仕事を辞めて昼間は麻純さんが、リハビリなどを支援する作業療法士の佑太さんが夜、仕事を終えた後に交代で付き添うという24時間体制の看病でした。

佑太さん:「ずっと病院と職場の往復だったので、温かい手料理が食べられなかったので、きつかった」

必死に治療を続けた一馬くんでしたが、2019年10月、4歳8カ月で天国に旅立ちました。

そして、一馬くんが旅立ってすぐ、ある思いを抱くようになりました。

佑太さん:「病気の子のパパ・ママの支援が、私たちでもできることがあるんじゃないかなと思って。栄養満点の料理を提供するというのをやりたいと」

■応援チケット 一度に300枚購入した人も

この日は生憎の雨。それでも多くのお客さんがやって来ます。

検査の待ち時間に、車の中で昼食をとる親子がいました。

子どもが通院中の母親:「片手で飲めるのは考えられている。コクがあっておいしいです」

この女性、スープ以外にもあるものを買っていました。300円を払って、一枚の紙に書いたのは…。

子どもが通院中の母親:「ママやパパの心がすこしでも元気になりますように!!」

実はこれ、購入者が寄付した「応援チケット」。他の子どもに付き添う家族なら誰でも使用でき、このチケットを持っていくと300円割引になります。女性も以前…。

子どもが通院中の母親:「メッセージが書いてあって励まされた。自分もちょっとでも役に立てたらと思って」

この「応援チケット」を一度に300枚、9万円分を買った人もいるといいます。

佑太さん:「応援の循環というか、愛の循環ができていると実感する」

■“キッチンカー”で広がる支援の輪

「キッチンカーを知ってほしい、応援したい」と常連の石川京子さんがインターネットに投稿した動画です。

石川さんの長女・知果さん(10)は重度の障害があり、今も入退院を繰り返しています。

石川さん:「急に入院が決まるから、ご飯をちゃんと準備しておけなくて」

そんな時、青木さん夫婦のスープに「何度も救われた」といいます。

石川さん:「なんかパワーがつけられる源というか、元気をもらえる」

実際に動画を見て、スープや応援チケットを買いに来たという人もいたそうです。キッチンカーで広がる支援の輪です。

■「息子が縁を…」広がる絆と笑顔

実は、青木さん夫婦は月に一度、子ども食堂も開き、無料で食事や遊び場の提供もしています。

この日は、キッチンカーや子ども食堂で知り合った家族ら200人以上が集まってのイベント。キッチンカーにも大行列ができています。

麻純さん:「長蛇の列になって、すごく食べていただいたので、うれしいです」

参加者の中に、病院での取材中に出会った清水さんの姿も。次男の手術も無事に終わり、家族そろって遊びに来ました。

父:「ここちょっと手術したんだよね。木曜日(4日前)に退院して、あしたから保育園に行くんだよね」

会場は、子どもたちの笑顔であふれていました。

佑太さん:「すごく協力者が集まってきてくれるので、何か本当に一馬が、うちの息子が全部縁をつないでくれているんじゃないかと」

愛をつなぐキッチンカー、その“支援の輪”は広がっています。

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