「石を投げれば警察官に当たるくらい…」G7広島サミット直前 厳戒警備の裏側[2023/05/13 11:00]

■「爆発物の可能性もある」サミット前、厳戒態勢の中で起きた不審物騒ぎ

4月25日正午過ぎ、JR広島駅の商業施設「ekie(エキエ)」の男子トイレの床で紙袋に入れられた黒いアタッシェケースが見つかった。
ケースには新聞紙がかけられていて、届け出を受けた広島県警は「爆発物の可能性もある」として爆発物処理班の専門部隊を出動させた。
県警は約5時間半に渡って従業員や客を避難させるなどして施設を一時閉鎖。新幹線も運転を見合わせるなど対応に追われた。

G7広島サミットを1カ月後に控え、全国から警備にあたる警察官が集結する中、市民生活に多大な影響が出る事態となったが、ここまで警察が警戒を強めるのには、2つの事件が大きく関係している。

■要人警護ルール見直しのきっかけとなった安倍元総理銃撃事件、そして繰り返された総理襲撃事件

去年7月に発生した安倍元総理の銃撃事件を受け、警察庁は「警備を実施していたにも関わらず、警護対象者の生命を守る事が出来なかった」という事実を重く受け止め、即座に「検証・見直しチーム」を立ち上げた。
警護の問題点を洗い出した結果、都道府県警に委ねてきた運用を根本的に見直すことになり、様々な警護ルールの改定を行った。
具体的には
1.警察庁が「警護計画の基準」を制定する。
2.都道府県警が基準を踏まえて作成した計画案を警察庁が審査をする。
3.指揮官の明確化、制服警察官を配置した「見せる警備」も多用する。
4.警護対象者、関係者との話し合い・連携を強化する。
5.道府県警から警視庁への派遣を拡充し、実践的な警護経験者を増員させる。
という基本ルールに改定された。
しかし、一国のトップの命を教訓とした警護ルールは、いとも簡単に破られた。
4月、現職である岸田総理が、選挙応援演説で訪れた和歌山市の漁港で、爆発物を持った若者に襲われるという事件が発生した。
事件からまもなく1か月となるが、「何がいけなかったのか」という和歌山県警による検証や問題点、改善点のあぶり出しは、いまも終わる気配はない。
11日、国家公安委員会で谷公一委員長も、
「和歌山県警が時系列に沿った事実関係を進めている報告があり、引き続き事案の確認、精査をしっかりと行って、教訓とする事項を抽出していくよう、警察を指導していく」と
検証が終わっていないことを明らかにした。

そうした中、いよいよ来週、G7広島サミットを迎える。
警護対象は、アメリカをはじめとした主要各国の要人に広がることになる。1つのミスが国際問題に発展しかねず、その責任の重さはこれまでの比ではない。

■「G7広島サミット」開催地の特徴と対策とは

2008年の北海道・洞爺湖サミット、2016年の三重・伊勢志摩サミットは、「保養地」で行われたため、人の流れや交通量は限定的だった。
特に伊勢志摩サミットでは警備・警護がしやすい「島」で行われた。
しかし、今回の広島は「都市型サミット」となり、リスクは格段に高くなる。

期間中、各国の要人などが利用する空港、宿泊先、訪問が予定されている平和公園や原爆資料館を結ぶ道路など、警護範囲は広範囲に及ぶ。
警察は、これまでのサミット以上に交通規制を含めた沿道対策にも目配りし、各ブロックに都道府県警が配置される予定となっている。
市内で警備に当たる予定の警察官の1人は、広島への出発前「自分達が受け持つブロックでは何事も起こさせません」と意気込みを語った。

■大規模な警備態勢の構築

北海道・洞爺湖サミットでは約2万1000人の警察官が、伊勢志摩サミットでは約2万3000人の警察官が警備にあたった。
今回の広島サミットでも、広島県警のおよそ5000人に加え、全国から警察官が集められている。
広島サミットの警備態勢の規模について、警備を担う警察幹部は「敵に情報を与えてしまう」という観点から公にすることは出来ないとしながらも、「伊勢志摩サミット時と同程度、またはそれ以上」の人員で警備を行うことを示唆している。

■観光地などの立ち入り制限は
厳重な警備態勢が敷かれるため、サミット期間中は観光地の立ち入り制限などが行われる。公開されている情報をまとめると、
1.原爆ドームを含む平和公園一帯で立ち入り制限を予定
立ち入り制限に伴い、「原爆資料館」「国立追悼平和祈念館」「国際会議場」「レストハウス」は休館

2.宮島は首脳訪問が決定した場合、一般観光客の入島は不可に
期間中の入島には、すでに申請・配布された識別証や車両証が必要に

3.宇品島沖での船舶の航行自粛呼びかけ。(15日〜22日)
広島市の市街地につながる河口を通る場合、事前に海上保安本部への通達が必要に

4.飛行制限区域(18日〜22日)
グランドプリンスホテル広島を中心とする半径約46km範囲で警察・消防・報道機関(許可を得たもの)のみが飛行可能
※制限区域内にある広島空港と岩国空港発着の定期便に影響なし

そのほか、市民の足となるバスやタクシーも交通規制の影響を受けるため、各社はダイヤの変更や走行台数を抑えるなどの措置を決定していて、ホームページで確認することができる。

■本番を迎えて高まる緊張感

広島県でのサミット関連の警備は3月から始まっていて、すでに街のいたる所で全国から集められた警察官の姿を目にする。
全国で唯一、総理や大臣などの要人警護を担当するSP(セキュリティポリス)を有する警視庁の幹部らも、1年前から広島県警に出向したり、幹部らが下見を入念に行ったりするなど準備を進めてきた。
警察官は24時間態勢で不審者への職務質問、不審物の捜索などの警戒に当たっている。
その結果、原爆ドーム近くの川で入水自殺を図った20歳の女性を、警視庁から派遣された機動隊員5人が音で気づき、人命救助を行ったケースも発生した。
警察幹部は「常に気を張って警戒を続けることは見た目以上に精神力を使う」と話す。

さらに本番が迫ると、主要な警備箇所につながるあらゆる路地という路地に、車両の侵入を阻止するための鉄柵やジャバラ型の移動式バリケードが置かれるという。
2重3重にわたる車や人の侵入規制は、これまでのサミットと比べても最大規模になるとみられ、警察幹部は、「石を投げれば警察に当たる」密度になるとしている。

これまで警察庁、広島県警、特別派遣部隊の隊員らの取材を続けてきたが、度重なる会議で熟考に熟考を重ね、沸き上がったどんなに小さい不安要素でも排除しようと努める姿があった。
今回の広島サミットは、2度にわたる総理襲撃事件を経た日本警察が、その威信をかけ総力を尽くした警備態勢が敷かれることになる。

広島サミットANN取材団 石塚翔

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