マダニからの謎の感染症広がる 致死率3割? ペットからの感染例も 対策は…[2023/06/28 10:30]

 マダニが持つウイルスの感染症が日本でじわじわと広がっている。
血小板や白血球が減少し、意識障害や皮下出血を起こす。国立感染症研究所の調査によれば、致死率は最大3割という。海外では中国や韓国などで確認されていて、日本では昨年116人が感染し、12人が死亡した。国内ではいまが流行の最盛期。今年はこれまで65人の感染が確認されていて、5月以降だけで31人にのぼる。10年前に日本で初確認され、感染地域は西日本から東日本に広がろうとしている。今はマダニに触れないなど感染予防だけ。謎の多いウイルスだ。
(テレビ朝日社会部 栗原伸洋)


▼マダニから感染、血小板、白血球が急激に減少 SFTSとは?

 SFTS=重症熱性血小板減少症候群は、主にウイルスを持ったマダニにかまれることで感染する。厚生労働省は感染症法上の「4類」に位置づけていて、病院は患者の届け出などをしなければならない。

 潜伏期間は6日から2週間ほど。感染者の多くは、発症前に農作業や植物採集などをしていた。発症すると発熱や倦怠感、下痢、嘔吐や意識障害、皮下出血を起こす場合もある。国立感染症研究所によると致死率は最大3割で、亡くなった患者の9割以上で血小板や白血球の減少が確認されている。

▼ウイルスはどこから来たのか

 SFTSウイルスが初めて報告されたのは2011年、中国だった。2012年には韓国で、2013年、日本国内で初めての症例が山口県で報告された。国立感染症研究所によれば、中国と日本で確認されているウイルス遺伝子には大きな違いはないという。

 これまでにタイ、ベトナムなどの東南アジアでも確認されているSFTSウイルス。マダニが渡り鳥に付着して運ばれていると考えられている。

▼専門家は「国内では感染が東進中」と警戒

 国内で初めて確認されてからまもなく、宮崎県や愛媛県など西日本で相次いでSFTSへの感染が確認された。これまで、千葉県で1例症例の報告があるが、東北や関東で感染したという報告はされていない。しかし……。

「野生動物の流行状況、人の発生状況などを見ていくと、明らかに感染が東の方に動いていると考えられる」。感染症学が専門でSFTSに詳しい宮崎大学の岡林環樹教授はこう話す。

 2021年には愛知県と静岡県、2022年には富山県で、初めて感染が確認。岡林教授は、シカなどの野生動物が抗体を持つ率が上昇すると、ヒトへの感染リスクがあがるという研究を紹介し、「未確認の地域でも、いつ感染者が出てもおかしくない状況」と分析する。

 厚労省も「ウイルスを持ったダニが動物に付着して移動することは不思議なことではない」として、未確認地域で感染者が新たに確認される可能性を指摘する。

 岡林教授らの研究では中国で初めて報告されるより前の2003年に、宮崎県ですでにSFTS感染が疑われる事例があったという。また、北海道など感染未確認の地域でもSFTSウイルスを持ったマダニは確認されていて、これまでなぜ西日本ばかりで人の感染者の報告があるのかは詳しく分かっていない。

▼マダニ以外の感染ルートも?

「マダニ以外の感染ルートにも注意が必要」と岡林教授は指摘する。
「イヌやネコから人に感染したことが強く疑われる事例がある」からだ。

 日本医療研究開発機構の「愛玩動物由来人獣共通感染症に対する検査及び情報共有体制の構築」研究班の調査によると、2023年3月末現在、ネコ647頭、イヌ37頭の発症が確認されている。2017年には西日本に住む50代女性が、弱っていた猫を保護しようとしてかまれSFTSに感染した。女性はその後、死亡した。また、死んだネコを埋葬しようとした際に血液に触れて感染した女性もいた。海外では、感染者の血液に触れて人から人へ感染した事例も確認されていている。

▼「血液混じりの体液は十分気を付ける必要」と感染獣医師

 宮崎県西都市の動物病院に勤める獣医師の奥山寛子さんは、SFTSに感染した経験を持つ。当時治療していたネコに40度以上の発熱や黄疸などの症状があり、SFTSの可能性があることから隔離室で治療していたが、ネコが身震いして点滴液が血とともに飛散。ネコの身体や床のふき取りを行った。翌日、ネコは回復せず、飼い主の希望で自宅に戻ってから死んだ。

 奥山さんの体に異変が起きたのは治療した8日後だ。全身の筋肉痛の症状があらわれ、2日後には、発熱と倦怠感、眼球痛などが出てきた。「インフルエンザのようなきつさではあるけれど、鼻水やくしゃみがでるとか、喉が痛いとか、そういう風邪症状がなかった。おかしいなと思って振り返ると、SFTSのネコの治療をしたことを思い出し、怖くなった」と夜間救急病院を受診した。
 その後、血小板や白血球の減少も確認され、PCR検査でもSFTS陽性となった。10日間の入院で退院できた。医師からは「軽症な方だ」と言われた。

 奥山さんは当時、SFTSのネコの診断経験が数回あり、飼い主や病院スタッフへの感染がなかったことから、「警戒心が希薄になってしまった」という。感染後はガウンやゴーグルなど感染対策を強め対応している。奥山さんは「血液混じりの体液は十分に気を付ける必要がある」と注意を呼び掛ける。

▼感染予防、対抗策はあるのか

 SFTSウイルスにはまだまだ不明な点が多く、ワクチンや有効な治療薬はまだない。5月に開催された厚労省の専門部会は、抗インフルエンザ薬「アビガン」をSFTS治療薬として研究することを支援すると認めた。製薬会社は今後、治療薬としての承認申請に向けて最終的な試験を行う予定だ。

 感染を防ぐためには、草むらや藪などに入る時は肌をできるだけ出さない、虫よけスプレーを使用するなど一般的なマダニ対策が重要になる。また岡林教授は、「ペットからの感染を防ぐためには、ペットを外に出さない、散歩した場合は後にブラッシングをするなど、ペットもマダニにかまれないように対策をすることが大事」としている。
 しかし、現在これ以上の感染対策はなく、研究や対策が急がれる。

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