外国人“お遍路さん”急増も…コロナ禍で激減“町唯一”の「遍路宿」女将が奮闘[2023/07/08 11:00]

四国に点在する88カ所の霊場を巡る「お遍路」。コロナの水際対策が緩和された今、外国人お遍路さんが急増。

世界を魅了するお遍路の魅力とは?さらに、コロナ禍でお遍路さんをもてなす宿が激減。おもてなし文化衰退の危機…奮闘する女将の信念とは?

■お遍路挑戦は…「特別な旅」

四国に点在する88カ所の霊場を巡るお遍路。総移動距離は、およそ1200キロ。弘法大師・空海にゆかりのあるお寺を巡り、願いを込めてお参りすれば、ご利益があるとされています。

スタート地点である一番札所・霊山寺で出会ったのは、アメリカから、たった一人でお遍路に挑戦するためにやってきたイミールさん(82)です。

白衣や袈裟、金剛杖など、お遍路の装備一式を購入。すると、まずはアメリカにいる妻に、お遍路姿をビデオ通話でご報告。

イミールさん:「これが、お遍路の完全装備だ。君にいくつか写真を送ったよ。もちろん、皆にもシェアしていいよ」

ところで、なぜお遍路に挑戦しようと思ったのですか?

イミールさん:「これは特別な旅だ。この世のすべての美しいモノを見に行く旅になる」

そう、日本の美しさにふれる旅がしたいと、お遍路に挑戦する外国人は、少なくないのです。

アメリカから:「ドキュメンタリーで見たお遍路の景色がとても美しくて素晴らしかったので、この目で実際に見に来てしまいました」

■「お接待」も魅力「皆が親切」

イギリスから:「他の国でも素晴らしい景色は見られるけど、日本の田舎の風景とは違う。日本の風景が大好きです」

イギリスからやってきた、ザックさん(19)。アルバイトで資金をため、大学に入学する前の休暇を利用し、お遍路に挑戦することにしたといいます。

自然を満喫しながら歩くこと自体を楽しみたいとやってきたザックさん。

ザックさん:「僕は信心深いわけでも、仏教徒でもなんでもない。でも、お寺巡りは良いね。とてもリラックスして、心が安らぐ」

歴史あるお寺の美しさや静けさに魅了されているといいます。

ザックさん:「おいしい」

箸の使い方にもすっかり慣れたザックさんは、お遍路をスタートして、すでに1カ月。風景やお寺だけじゃない、お遍路の魅力を日々感じているといいます。

それが、ザックさん感激の「お接待」です。

住職:「はい、コレお接待。どうぞ」
ザックさん:「ありがとうございます」
住職:「バナナ、これアマカン」

「お接待」は、地域住民がお遍路さんに差し入れや食事を振る舞う、四国に古くから根付くおもてなしの文化です。

ザックさん:「日本は、どこに行っても皆がとても親切だけど、四国は、特に親切だ。特にこれ(白衣)を着ているとね」

■“おもてなし”が生きがい…地元住民

一方、お遍路さんへのおもてなしが生きがいだという地元住民も、少なくありません。

地元住民(91):「コロナになって、お遍路さんが来ないようになって、毎日座っていると何にもなかった。寂しいなーって。(最近)よう来てくれるようになって、うれしい。生きるということを喜んでおります」

ところが今、そんなお遍路さんへのおもてなしが衰退の危機にあるというのです。

売店スタッフ:「今まで、宿を取れていたところも、もう閉まっている」

遍路宿店主:「30軒くらい。四国全体でやめたって聞いております」

お遍路さんが、無料や格安料金で宿泊できる「遍路宿」が、コロナ禍で激減してしまったのです。

林シズ子さん(81)は、高松市で営んでいた無料の遍路宿での「お接待」が生きがいだったといいますが、コロナ禍でお遍路さんがほぼいない状況となり、3年前に休業。にぎわいが戻りつつある今も、再開はできていません。

林さん:「疾患を何かしらもっている、年寄りは。もう(コロナに)なったらイチコロだと思う」

介護が必要な夫(81)の体調を思うと、再開に踏み切れないといいます。

林さん:「(再開したい)気持ちはあるよ。自分が年を取ってくのがいけない。3年経っただけしんどくなってくる。コロナが憎い」

遍路宿を営む人の多くが高齢者。高齢化とコロナへの不安で、宿を再開できずにいる人は少なくありません。

■奮闘…町で1軒となった「遍路宿」

そんななか、遍路宿がわずか1軒となった町で奮闘を続ける人もいます。入江徳子さん(72)です。多くの外国人お遍路さんが利用する遍路宿を切り盛りしています。

タイから:「すごくステキ。とってもカンゲキしているの!こんなに安くて、利益なんて出ないはずだから。思いやりだけでやっているのね」

様々なものが値上げされている今も、一泊1000円という価格を続けています。

入江さん:「私は、めちゃくちゃちゃらんぽらんな人間。だから、なんとかなるさみたいな感じ」

この日、宿泊していたのは、イタリア人のエレオノーラさん(40)と、タイからやってきたニシマさん(31)。

徳子さんは、翻訳アプリを駆使して、コミュニケーション。さらに、宿への到着時間が遅かった2人のために、特別に晩御飯を用意。この食事は、無料の「お接待」です。

ニシマさん:「とってもおいしいわ、最高よ」

エレオノーラさん:「最高ね」

入江さん:「自分も体を動かせるじゃないですか、それで自分も健康でいられるし。お遍路さんのお力を借りて、自分も動かしてもらっている」

エレオノーラさん:「ノリコは最高よ。こういった場所があるから、お遍路の旅が頑張れるの」

自らも、何度もお遍路を経験したという徳子さん。その道中で受けた「お接待」が、遍路宿を始めたキッカケだといいます。

入江さん:「恩返しというのは違うけど…(お接待は)すごく良い文化やと思うから、本当に残ってほしい」

14年前、夫の宗徳さんと2人で、お遍路さん専用の宿を始めた徳子さん。

心のこもったオモテナシが評判で、連日おおにぎわい。夫婦が送り出したお遍路さんは、3000人以上に上ります。

2年前、宗徳さんが他界。しかも、コロナ禍でお遍路さんが激減。それでも、宿を開け続けてきました。

入江さん:「皆から、お母さんお母さんって言われて、大事にされたし。感謝されたり、『頑張ってくださいね』って、励ましの言葉もあったり。ウチみたいなところがあって助かるよと言ってくれる。それでよかったなと思います」

朝5時に起きて、おにぎりを用意した徳子さん。

入江さん:「景色の良いとこで、ちょっと座って。食べてもらえたらいいかなーって」

この日旅立つ、ニシマさんへのお接待です。

そして4日後、お遍路の終着点である88番札所・大窪寺。そこには、お遍路の旅を成し遂げた、ニシマさんの姿がありました。

ニシマさん:「達成できたことが、とてもうれしいです」

47日をかけ、1200キロの道のりを歩いたニシマさん。お遍路を成し遂げられたのは、この土地の人々の励ましがあったからだと言います。

ニシマさん:「四国には、ご高齢の方も多いですが、皆とてもアクティブです。そのため、年を取ることに対する考えが変わりました。人生はとても長くて、色んな生き方ができると考えさせられました」

それぞれの思いを胸に、きょうも多くのお遍路さんは歩き続けています。

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