【北極ノート】生活に欠かせない海獣にも影響が…北極に集まる汚染物質[2023/08/13 08:42]

夏になると、カナック周辺ではイッカクやアザラシの猟が盛んになります
住民にとって海獣は昔から生活の一部として欠かせないもので、
食料としてはもちろん、衣服にも使われます
そんな暮らしに密接にかかわる海獣について
日本の研究者チームが去年からある調査を始めています。
ハンターが狩猟した獲物の一部をわけてもらって、
汚染度や胃の内容物を調査しているのです

ハンターから提供してもらうのは「胃」まるごとと、「筋肉」、「脂肪」、「肝臓」の一部
「脂肪」や「肝臓」は少量からでも汚染度が測定できるそうです
去年、アザラシやイッカクの脂肪を調査したところ、
POPs(残留性有機汚染物質)が見つかったほか、
農業をしていない地域なのに、使われるはずがない農薬が検出されました
また、他の研究結果では、イッカクには水銀も濃縮されていて、
夏の狩りのシーズンになって地元住民が食べ始めると、
体内の水銀量が上がっているというデータも出ています。

「胃」については、何を食べているか調査することで、
汚染物質がどうやって取り込まれたのか見えてくるといいます
イッカクの胃は重さ10kgほど、持つのも一苦労なほど巨大ですが
研究者2人がかりで解体して内容物を取り出します
こし器を使って中身をろ過すると、ホッキョクダラを筆頭に、
エビやイカなどの残骸が大量に出てきます。
ピンセット片手に丁寧に一つひとつ分類していきますが、
1つの胃を調査するのに3時間以上かかることも…
研究の裏にはこうした根気のいる作業も隠れています

世界中で放出された汚染物質は、海流や大気の流れに乗って運ばれ、
北極は最終的な「溜まり場」とも言われています
これまでカナック周辺では、海洋生態系や汚染度についての研究は
あまり進んでいませんでした
海洋生物は陸上生物に比べて食物連鎖の頂点に辿り着くまでに
より多くの生物と関わり合うため、汚染物質が一層濃縮されると言われています
そのためアザラシやイッカクといった“頂点捕食者”は特に汚染が濃縮されているのです
人間がこれまで海に与えた悪影響が、
北極では海洋生物だけでなく人間にまで影響を与えてる段階にきています

テレビ朝日報道局 松本拓也 屋比久就平

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